ツヴォルグ

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第1話

 小さきものツヴォルグ

 それが、自分の名である。


 人族からしてみれば、自分の身長は小さく、子供ぐらいの背しかない。

 だが、膂力や筋力に関しては、人族の大人よりも高い。

 手先の器用さも相まってか、職人として生業もしている。



 自分も色々と創造するのが楽しくあったので、今でもそんな感じの仕事を行っている。



 それよりも、背が低く、無精のままに伸び続けた髭という、その見た目からして"ドワーフのおっさん"と呼んでくる輩もいる。


 一応は、"小さきものツヴォルグ"という名で、市民権を獲得しているにも関わらずにだ。


 で、そういう風に言われる原因になった存在の一つが、今まさに目の前で酒を飲みながら話しかけられているのだが……




「でさドワーフのおっさん、聞いてくれよ。総菜屋のキャシーちゃんがこの頃さらに磨きがかかって可愛くなってさ、ほかの誰かに誘われる前にデートに招待してみようと思うぜ」

「……お前、それ何人目だ?」

「ひぃ、ふぅ、みぃ……いっぱいだな、俺様の愛は無限だしな」

「その人数と同じぐらい、フラれた話を持って帰ってくるというのは、何ともやら」

「というか、その話を肴にするのには飽きちまったぞ?」

「……まったくだ」

「うるせぇ!今度こそ成功させてみせるぜ!なにしろ、この幸運の竜のヒゲを手に入れたからな!!」



 そういわれて取り出しているのは、白い紐状というか枝状というか何か。

 本人は、幸運の竜のヒゲとかいってはいるが……


 同席している自分も含めて三人ともが、かわいそうな物を見る目になっていた。


 本物であるならば、価値もとんでもなく高いものとなり、取扱いに関しても気を付けなければならないが、手に持っているものはどう見ても紛い物。


 よくある、幸運のお守りにあやかって、そっくりに作られて出回っている夜店の玩具レベルの代物である。


「あからさまに違いますよね?その手に持ってるの」

「だな」

「……幸運のアイテム、何個目だ?」

「今度こそ本物だぜ?何せ、こいつを手にした帰り道に、銅貨を拾ったからな!」


 息まいている本人とは別に、こちらは確実に胡散臭い罠のにおいしかしない。

 他の二人も、さらに可哀そうな物を見る目になっていった。


「ということで、いってくるぜ!戻ってきたら、勝利話をきかせてやらぁ!」

「おうおう、行って来い行って来い、行って玉砕してこい」

「神に祈っておきますよ。成功しますように、と。(無駄になるでしょうが)」

「……骨ぐらいは拾ってやる」

「て、てめぇら……みとけよ?みとけよ!!」



 そう言いながら、身形みなりを整えては酒場を早足で出て行った。



「最近可愛くなったという事は、異性として意識する相手が出来たという事だとは思うんですが、最後まで気づかれないままでしたか」

「ま、十中八九、ソレだろうな。お、これウメェな」

「……あ、てめ!自分で頼めや!ほんと、気づかない方が幸せなのかもな」

「確かに、そうですね」

「ちげぇねぇ、ねーちゃん!オカワリ!!」



 三者三様で笑いだす。


 神官服を着ている禿面オーガのオッサンが丁寧にそう口にしては祈りを捧げ、その内容に紳士然としたフォーマル衣装にモノクルを着けている獣人が口悪いままにおかわりした酒を煽りながら、"無理無理"と笑いだす。


 ああいう愛すべき馬鹿な奴も、見ている分には面白いので、自分としても十二分に楽しんでいるともいえるので笑っておく。


 ちなみに、同席しているこいつ等とはパーティーを組んでいる訳ではない。


 それぞれがそれぞれにクランや組織に所属しており、まぁ、この組合ギルドに併設している酒場で、管を巻く顔見知りというか、飲み仲間というか、そういう間柄である。




 なお、先ほど出て行った斥候スタイルの魔族のあいつも、そういう飲み仲間である。



 そうして、数刻もしないうちに玉砕して帰ってきたのはいうまでもなく、いつも通りの慰めいぢり飲みになったのは、さらに言うまでもないだろう。


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