第9話 幼馴染がモテる異性だと周囲から嫉妬されがち

 気のせいだろうか。 

 朝から周りが俺を見てヒソヒソしている。


 頭を触ってみたが別に寝癖はついていない。いつも通りぼさぼさなだけだ。背後霊でもいるのかとトイレで鏡を見たが、特に何もいない。霊が鏡に映るのかは知らんが。

 そんな落ち着かない午前中を過ごし、あっという間に昼休みを迎えた。まあいい、とりあえず腹ごしらえだ。


 今日のお昼は鮭おにぎり。シャケおにぎりともいう。ということは、『おさななじみ』は『おしゃななじみ』にもなりうるのか。……おしゃななじみってなんかやらしいな。


「なあ村間。きょうめっちゃ視線感じるんだけど、なにか付いてる?」


 珍しく教室で昼飯を食べている村間めぐみに、俺は尋ねた


「ああ……そう、だね」

「何か知ってるのか?」

「うんっとね、昨日真那弥くん、澄玲ちゃんとスイーツバイキングにいたじゃん?」 

「ああ、そうだな」

「それを見たみんなが、二人が付き合ってるんじゃないかって噂してて……。澄玲ちゃん、昼休みによく真那弥くんのところに来てるし」

「うげ。まじかよ」


 そういえば昨日、めっちゃ睨みつけてくる男いたもんな。あれはもしかして、澄玲のことが好きで、俺に嫉妬……的な? めんどくせー。自分の思い通りにならないからって人を睨むな。ほんとに小さい男なん――


「おい、お前」

「ヒッ」

 

 小さい男に肩を叩かれ、俺はビビりにビビりまくってしまった。だってこの男、小さいのは心だけで、身体は俺より一回りでかいんだもん。えっとお前ってことは……御前ってこと⁉ 最近の若い子は人を敬う気持ちが素晴らしい。日本の未来は明る――


「お前、水上さんとどういう関係なんだよ!!!」

「お、おしゃななじみでしゅっ」


 現実逃避を許さない威圧的な態度に声が裏返ってしまう。くそっ、冒頭の鮭おにぎりのくだりは伏線だったのか……。それにしても、こんな怖い男にさん付けされる澄玲、やくざの親玉感があってちょっと面白――


「幼馴染ーーー⁉ ついこの間まで、一緒にいるところ見たことねえぞ」

「あ、あのね、龍哉りゅうやくん。さっきも言ったけど、真那弥くんと澄玲ちゃんは……」

「付き合ってんじゃねーのか! あん?」

「ち、違いますよお」


 さっきから、俺の崇高な思索が遮られて気分が悪い。しかも、御前って敬われてると思ったのに、どうやらこっちが敬語を使う側みたいだし。うう、誰か助けてぇ。


「彼の言う通りよ」


 親玉……じゃなくて幼馴染が颯爽と登場した。か、かっこいいですぜ、姉貴。


「私たちは幼馴染なの」


 鋭いまなこが、郷田龍哉ごうだりゅうや(みたいな名前だった気がする。たぶん!)の顔を真っすぐに捉えた。親玉に睨まれ、子分は明らかに怯んでいる。


「と、とか言って、本当は付き合ってたりするんじゃないですか……」

「はあ。仮に付き合っていたとして、あなたに何の関係が?」

「関係は……ないですけど」


 そうだそうだー。いけいけー。もっと言ってやれー。


「もういいかしら。私もご飯を食べたいのだけど」

「わかり、ました……」


 澄玲の最後の一押しにより、郷田くん?は退散していった。ふっ、取るに足らない相手だったぜ。


「真那弥くーん、澄玲ちゃーん、ごめんねーーー。あたしがもっと龍哉くんにはっきり言えてたら……」


 村間が申し訳なさそうにしている。いや、あれは仕方ない。あの男、まったく話を聞かないもん。澄玲のことが好きなのか知らんが、人に質問する時に威圧しちゃだめでしょ。不当な取り調べにおける証言は無効なのよ。


「いいえ、村間さんは悪くないわ。これは私と真那弥の問題よ」

「うう、澄玲ちゃ~ん」


 抱き着く村間の頭を、俺の幼馴染は優しく撫でる。その辺の男よりずっとイケメンだなぁ。俺より女を守れそう……澄玲さん、男除け必要ですか?


「それでね、あたし考えたの」


 むくっと顔を上げて、村間は言った。


「考えたって、何をだ?」

「二人がカップルに思われない方法!」

「おお」


 たしかに、今日みたいな絡まれ方はもうごめんだ。それに、俺は幼馴染と付き合うことに抵抗はないが、幼馴染契約の条件は澄玲に恋愛感情を抱かないこと。それを誘発しうるものは極力排除した方がいい。


「それは何? 村間さん」

「んっとね。あんまり他の人に聞かれるのも良くないかもだから、放課後カフェで話せないかな?」

「わかったわ。私は大丈夫よ」

「真那弥くんは……?」

「問題ない」

「じゃあ決まりだね!」


 こうして放課後、再び我らの出会いの地たるカフェに赴くことになった。

 さて、村間はどんな作戦を用意したのだろうか。

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