幼馴染が欲しいと愚痴っていたら、学校1の美少女が幼馴染になってくれた~あれ、幼馴染の意味わかっていますかね……?

薬味たひち

幼馴染契約編

第1話 私を幼馴染にするのはどうかしら?

 高校生活2年目。5月のある放課後。

 この俺、久遠くどう真那弥まなやは、学校近くのカフェでブラックコーヒーをすすりながら、いつものように、手の届かぬ関係に想いをはせていた。


「あ~幼馴染が欲しーーーーーーーーーーーーーい」

「……真那弥くん。その話何回目? さすがに飽きたよ」


 俺の前に座る童顔ツインテールの少女、村間むらまめぐみが、砂糖がたっぷり入ったココアに大量のホイップクリームを乗せた飲み物を手に持ちながら言った。明らかに甘さの過剰摂取、見ている方まで気持ち悪くなってくる。


「いいや、何度だってするね。いかに幼馴染が尊い存在であるか」


 村間はストローをくわえ、呆れたように俺を見る。


「まずな、幼馴染の形態はひじょーーーうに多種多様だ。友だちの延長だったり世話焼きだったり。甘々な関係性があるかと思えば、熟年夫婦のような関係性まで。だがな、それらすべてに共通するものがあるんだよ」

「聞いた聞いた。幼少期から培ってきた強い信頼関係でしょ」


 ホイップクリームまみれの飲み物を置き、村間は即答した。頬にはクリームを付けている。


「そうだ。信頼関係があるからこそ、主人公と結ばれれば最高に幸せが溢れ出し、負けヒロインになればどこまでも悲しい。運命というご都合主義で結ばれたなんの感情移入もできない関係性とはわけが違うんだよ。幼馴染 are best relationships!」

「なるほどねー。いっつくーるだねー」


 以下にも興味をなさそうな相槌を打ち、再びストローをくわえた。

 興味のない俺の話をなんだかんだ聞いてくれる彼女の性格は、かなり幼馴染に向いていると思う。ああ、村間めぐみが幼馴染だったらと何度願ったことか……。だが彼女は紛れもなく、去年うちの学校に転校してからなぜか俺に絡んでくるだけの一般女性だ。ああ、どこにいるのかしら。私の幼馴染。


「まあでも、ないものねだりしてもしかたないよ。過去に出会ってないものはどうしようもないんだからさ」

「幼馴染は時間という壁に守られているからなあ。トトロを観たことがない人間みたいに」

「え、トトロ?」


 あまりピンと来ていない様子だったので、俺はマグカップのコーヒーを一口飲んでから、丁寧に説明した。


「トトロを一度でも観た人間は、トトロを観たことがないという状態には二度と戻れないだろ?」

「うん、そうだね」

「だがトトロを観たことない人間は、これから観ることもできるし、観ないこともできる、つまり選択の自由があるわけだ」

「は、はあ」

「したがって、トトロを観たことがない人間の優位性は、時間という壁に守られているんだよ」

「うーん?」


 と、某お笑い芸人が言ってた。時間の壁は厚いのだ。村間はあまり納得していなさそうだが。


「でも、いまどきトトロ観たことない人いるかなぁ。金ローでよくやってるし」

「ふっふっふ」

「え」


 村間の表情が若干引き気味なのは気のせいだろう。ちなみにラピュタと千尋は観た。


「つまり俺は絶対的優位なの―――」

「けどその理屈で言ったらさ。真那弥くんがいつも勧めてくる幼馴染のラブコメ、あたし一冊も読んでいないんだけど。これってあたしの方が、100回読み返している真那弥くんより優れていることにならない?」

「うっ」


 た、たしかに。俺は村間に負けていたのか……って、なんの話だっけ?


「まあとにかくさ。幼馴染に拘らなくてもいいじゃん」

「やだ。幼馴染より信頼できる関係なんてないもん」

「どんな人も何かしら良いところをもっているものだよ。……それに幼馴染の信頼だって永遠のものとは限らないし」

「ああ、幼馴染欲しーーーーーーーーーーーーーーーーーい」

「ごめんなさい。ちょっといいかしら」


 願望を放出する俺に声をかける女性。一瞬店員に注意されたかと思ったが違った。高校生くらいに見えるが、俺たちと違って制服ではなく、だぼっとした地味なワンピースに眼鏡をかけている。


「す、すみません。この人、声大きかったですよね。よーーーく言い聞かせておきますから……」


 村間が保護者のようなムーブを取る。だが、実際カフェで騒ぐのはよくないので、俺も反省の姿勢を取る。


「いえ、そうではなく。お二人の会話がつい耳に入ってしまって。少し相談したいことが――」

「……あれ、もしかして水上みずかみ澄玲すみれさんですか?」

「ええ、私は水上ですが」

「やっぱり!!!」


 村間が急に立ち上がり、両手で口を押さえた。めっちゃ興奮している。芸能人か何かなのか……?


「えっと、誰?」

「真那弥くん、知らないの⁉ うちの学校の有名人だよ。超絶可愛らしいお顔と完璧なスタイル。それでいて成績も学年トップ。男女問わず彼女に魅了されない者はいないって言われてるのに」

「知らんな。俺、幼馴染しか興味ないし」


 そもそもこの女、顔はともかく外見は地味of地味で、お世辞にも村間の言うような人物には見えない。


「それで、その有名人様が、何か御用ですか?」

「あなた、さっき幼馴染が欲しいと言ってましたよね」

「ああ、欲しすぎて禁断症状が出てる」


 すると水上澄玲は、俺に対して、信じられない提案を口にしたのだった


「それなら、私を幼馴染にするのはどうかしら?」

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