第五十話 あんたに責任はない
大聖堂を出たパストラとシェアは側にあった広場へと向かい、そこで話をすることにする。
何か食べる物を買ってくると言ったシェアを待ちながら、パストラは広場を呆けた顔で見回していた。
広場には多くの屋台が並んでおり、お昼を過ぎたというのに人の
恋人であろう若い二人、子連れの夫婦に老夫婦などが屋台で買った食べ物を持って、誰もが幸せそうに広場に置かれたイスとテーブルで談笑している。
それだけで、この宗教都市アンシャジームが賑やかなところだとわかる。
パストラの住んでいた辺境やパルマコ高原でも活気のある村や町はあったが、それよりも人の数も規模も段違いだ。
だがパストラは、そんな平和な光景を見ていると堪らなくなった。
胸が締め付けられるような感覚になって、全身が強張ってしまう。
「なんて顔してんだい。ほら、あんたも食べな」
そこへシェアが買い物を終えて戻ってきた。
彼女は買ってきたばかりの新しいワインの瓶とレモネードの入った瓶、焼き菓子の入った袋をテーブルに置くと、パストラ正面ではなく横のイスに腰を下ろす。
あと屋台で借りてきたという木のコップを出し、それにレモネードを注いだ。
自分は直接ワインの瓶に口をつけるくせに、他人にはコップを使わせるのを見て、パストラは彼女らしいなと思っていた。
周りの席からは笑い声が聞こえていたが、パストラとシェアに会話らしい会話はなかった。
シェアはずっとワインを飲み続け、パストラのほうはすすめられた焼き菓子もレモネードにも手を伸ばさず、じっと俯いている。
「ロワのこと……ごめんなさい……。僕がロワの気持ちに気づいていれば、あんなことには……」
広場の
今にも泣きそうな顔で言葉を発したパストラを見たシェアは、焼き菓子の入った袋に手を入れる。
それから焼き菓子の束を手に取り、パストラの顔を無理やりに上げて、彼の口の中に菓子の束を突っ込んだ。
「とりあえず食いな。リーガンから聞いてるよ。あんた、ろくに食事も取ってないらしいじゃないか」
シェアはフガフガと何か喋ろうとしているパストラにそう言うと、次にレモネードの入ったコップを手に取って、力づくで彼の口に流し込んだ。
いきなり大量の焼き菓子とレモネードを口の中に入れられたパストラは、思わず吐き出しそうになった。
だがシェアはそんなことさせるかとばかりに、パストラの口を両手で掴んで塞ぐ。
そして呼吸が苦しくて涙目になったパストラに顔を近づけて、彼女は言う。
「あの子のことはあんたのせいじゃない。もし責任があるとすればそれはあたしで、あんたは
「シェ、シェアさん……?」
「いいかい、よく聞きなパストラ。他人を変えるなんて誰にもできっこないんだ。あの子は、ロワは正しいか間違ってるかは抜きにして、あの子は自分で選んだ道を歩いた。だから、あんたが気にするようなことは何もないんだよ」
シェアは戸惑うパストラに言葉を続けた。
人は間違える。
他人から見れば明らかに悪いことでも、やってしまうときがある。
それは本人が周りが見えなくなっているということでもあるが、自分の信念に基づいた決断であることも多い。
ロワはパルマコ高原の皆を、そして何よりもシェアや孤児院の子どもたちを、聖グレイル協会の弾圧から守りたかった。
そんな心の隙を異端術師や悪魔に突かれ、あのような結果になってしまったのだと、酒が入っているとは思えない表情で語った。
「だから、あの子の優しさを知っていて気づけなかったのはあたし……。止めなかったのもあたし……。戦場でのことは全部聞いてるよ。あんたは最後まであの子に手を差し伸べていたってね」
「でも僕はロワの友だちで、仲良くなったばかりだったけど……なんでも話し合えると思ってました……」
涙を流しながら言ったパストラ。
その泣き顔には、彼の後悔と罪悪感が見て取れた。
メナンドの魔術でアンデッド化してしまったとはいえ、ロワやパルマコ高原の農民たちに止めを刺したのが、ダンテだということも大きいのだろう。
自分があの悪魔と契約さえしなければ、彼らを、友を救う方法があったかもしれないと、パストラは涙ながらに話した。
「そうだったと、あたしも思うよ」
シェアは、心の中の思いを
まるで我が子を抱くように優しく、パストラのすべてを包み込むように。
彼女に抱かれたパストラは、それから大声で泣き出してしまった。
周りに人が大勢いることなど気にせずに、赤ん坊のように泣いた。
そんな胸の中で泣くパストラの頭を撫でながら、シェアは静かに口を開く。
「そうやって、これからもあんたは人を救おうとして、失敗するたびに泣くんだろうね。でも、これだけは覚えておきなさい。あたしやウチの子たちみたいに、あんたのおかげで助かった人も大勢いるってことを」
シェアは言い終えると、パストラが泣き止むまで彼を黙って抱きしめた。
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