第四十九話 シスターの気遣い
――パルマコ高原で起こった事件の後。
パストラはリーガンと共に聖グレイル教会の本拠地がある宗教都市――アンシャジームへと戻っていた。
それは事件の詳細を、上司であるユダに説明するためだ。
一応、参考人ということで、ユダとも所縁のあるシュアも同行している。
今パストラたちは大聖堂内におり、詳細を聞いたユダが上層部との会議を終え、皆で彼の部屋にいるところだった。
「いやいや、それにしてもよくやったよ、君たちは」
ユダはいつもの軽い調子で、パストラとリーガンのことを労った。
考えてみればスケルトンの集団に加え、パルマコ高原の農民たちの暴動もあったのだ。
ロトン、ユニアの協力と、戦魔王ダンテの気まぐれがあったとしても、パストラたちがしたことはかなりの功績といえる。
修道士が何人か死亡したものの住民に死者はなく、被害は最小限に食い止められたと考えていいだろう。
「あの、ユダ先生。ロトン神父とユニアは今どこに?」
リーガンが訊ねるとユダは答えた。
彼が聞いた話によると、ロトンはパルマコ高原の統治の職から外され、怪我の治療に専念しているようだ。
ユニアのほうはというと、また別の任務で遠くのほうへ行っているらしい。
「ロトンさんは君らのことを気にかけてたよ。大怪我してるのに会議に参加して、パストラのことを庇ってた」
事件の説明と今後のことを話し合う会議では、パストラのこと――戦魔王ダンテについて議論になった。
上層部の多くがパストラを処刑するほうに傾いていたが、ロトンは彼がいなかったらもっと多くの被害が出ていたと強く主張していたという。
結果だけを考えればたしかにそうだ。
だが暴動を起こそうとしていたパルマコ高原の農民たちを一瞬で消し去ったダンテの力に、上層部はやはり脅威だと恐れていたらしい。
「まあ、もちろん黙らせたけどね。やっぱ上層部の連中はダメだよ。異端術師や悪魔の出現よりもダンテの話ばっかしてたし。これから先のことがまったく見えていない」
ユダはロトンの助力もあり、ファノ亡き後の異端者たちの動きが活発化することを主張した。
さすがにこれは理にかなっており、上層部もユダの主張を受け入れざる得なかったようだ。
パストラの処刑はまたもうやむやになり、当面、聖グレイル教会は異端術師や悪魔の討伐を中心に動くということで、今後の活動方針が決まった。
「それじゃとりあえず安心ですね。はぁ、よかったぁ」
話を聞いたリーガンがホッと胸を撫で下ろしていた。
一方でパストラはいうと、なんだか浮かない顔で床を見ているだけだった。
自分の処刑が回避されたのに、彼はまったく嬉しそうではない。
パルマコ高原の事件の後から、もうずっとこんな調子だ。
「君らも疲れたろう。しばらくはゆっくり休んでいいよ」
「えッ? でもこれから忙しくなりそうなのに、異端審問官の私たちが休んでいていいんですか?」
「大丈夫大丈夫。その分、俺が働くからさ。さすがにアンシャジームを出るのは厳しいけど、街の中だったら二、三日くらいのんびりしてて」
リーガンはユダに呆れながらも、彼の言葉に甘えることにした。
それは彼女が休みたいからではなく、パストラを思ってのことだった。
ロワを失ったショックからまだ立ち直れていないのは、その後の様子からしてわかる。
いくら腕っぷしが強くとも、パストラはまだ子どもなのだ。
親しかった人間が次々と亡くなっているのに、落ち込まないほうがおかしい。
「わかりました。じゃあ、僕は先に休ませてもらいます」
パストラはいつも通りの丁寧な口調でそう言うと、ユダの部屋から出ていった。
そそくさと立ち去ったパストラを見たリーガンは、すぐに彼を追いかけようとした。
それは誰かが傍にいてやらねばという彼女なりの優しさだったが、ユダに引き留められてしまう。
「リーガンはちょっと残って」
「はぁ? なんですか先生。私も休みたいんですけど。それにパストラのこと見ててあげたいし」
「いいから残れっての。先生の言うことは聞くもんだよ」
リーガンはむくれながらもユダに従い、部屋から出るのをやめる。
そんな彼女を横目で見ながらシュアが口を開いた。
「さて話も終わったみたいだし、あたしも帰るか」
「えー、せっかくだからシェアさんもゆっくりしていけばいいのにぃ。一緒に行きたいとこいっぱいあるんですよ」
嫌そうに言ったリーガンにシェアは、持っていたワインの瓶を一口飲んで微笑みを返す。
「そういってくれるのは嬉しいけど、いつまでも他の人に子どもたちの面倒をみてもらうわけにはいかないしね。終わったなら孤児院に帰らせてもらうわ」
シェアはしょんぼりしているリーガンの肩をポンッと叩くと、扉へと歩を進めた。
そして扉に手をかけると、背を向けたままユダに言う。
「最後にユダ。あんた、もうちょっとこの子らのために動いてやんなよ。やればなんでもできちゃうとこだけが、あんたの唯一の取り柄なんだから」
「おいおい、シェア。それじゃ俺が何もやってないみたいじゃないか。心外だな。これでもやることはやってるんだよ」
「ふん、偉そうにふんぞり返ってなにをやってるんだか。それじゃまたね、リーガン」
吐き捨てるようにそう言ったシェアは、大聖堂を歩いていく。
廊下を歩いていた修道士たちからの奇異な視線など気にせずに、ワインを飲みながらかっ歩する。
そして存在を消すように前を歩いていたパストラを見つけ、彼の肩を掴んだ。
「ちょっと待ってよ、パストラ。少し話がしたいんだけど」
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