第21話:もう最終決戦ですか?
無事に船旅を終え、俺たちは旧大陸へと戻ってきた。ミキとフィーナにとっては初めて踏む大地である。そこから先の道は、ドライアドやダークエルフの助けを借りるまでもなく、ミキの手にした伝説の剣が導いていった。
「すごいなぁ、その剣。ミキが来なければ俺が手に入れるはずだったのか」
抜き放った剣は光の筋を放ち、行くべき先をまっすぐに照らしている。
「たぶんね。私はいきなり新大陸のほうに来ちゃったけど、本来はあんたに旧大陸で力をつけさせてから新大陸に送り出すつもりだったと思うの。女神様はね」
「なんだか悪かったな。俺のせいで大変な冒険させちゃっただろ?」
道中、ミキが放り出された新大陸でいかに大冒険を繰り広げたかを語ってくれた。おそらく基礎スペックのおかげで戦い抜けたのであり、俺が同じことをされたらすぐ死んでしまっていたかも知れない。もともと、弱点らしい弱点は乗り物酔いくらいなのだ。だからこそコピー能力などという最強っぽいものを授けられたのだろう。
アリシアの剣が、リンの拳が、イリスとフィーナの魔法が、迫りくるモンスターたちを撃退する。俺は
*
「この扉の奥ね、きっと」
迷宮の果てにたどり着いた巨大な扉。この奥に「魔王」とやらが眠っているのだろうか。
「どうする、
「ケンさん、忘れちゃったんですか?」
イリスが言う。なんだっけ?
「私の剣に埋め込まれている宝玉が鍵だと、闇エルフのドリーンが言っていたではないか」
アリシアが鞘ごと剣を差し出してそう言った。
「借りるわね、アリシアさん」
ミキの指先が淡い光に包まれたかと思うと、剣に埋め込まれた宝玉は自然に外れて彼女の手に収まった。それを今度は、ミキ自身の剣の穴に装着する。本体と宝玉で2つに分かれていた伝説の剣の完成だ。
「この扉を開けば後には引けないけど、どうする?」
*
「最後に一晩、語り明かさないか?」
しばしの沈黙を破ったのは俺の声だった。魔王は眠りについているので急いで倒す必要はない。しかし俺とミキは、早く元の世界に帰りたかった。イリスたちとの冒険も素晴らしい日々であったが、ミキと再会してからは未練のほうが大きいことがわかった。
「そうですね。消耗した魔力も休んで回復させたいですし。食料も余裕がありますし、前に海賊さんに頂いたお酒もあります」
イリスが荷物袋からとっておきのラム酒を取り出して言った。
「そうそう、これを飲まずには死ねないものね」
リンが笑う。
「ケン殿、ミキ殿。二人の勇者との旅は楽しかったぞ」
神妙な顔でアリシアはそう言った。
「ミキ様、もうすぐお別れなのですね。わかっていたことでしたけれど」
寂しそうな顔でフィーナが言う。思えば俺は彼女のことをほとんど知らなかった。最後の夜で、少しはわかるだろうか。
「それじゃ皆さん、乾杯!」
「乾杯!」
この中では一番年上だと思われるイリスの音頭で、ささやかな宴が始まった。昼夜もわからぬ洞窟の中、念のために張った結界魔法の中で、6人は最後のひとときを過ごした。
**
「それじゃ、準備はいいわね」
「おう」
俺は慣れない酒を飲んだ二日酔いのせいで、フィーナに酔い醒ましの魔法(毒消しの応用だそうだ)を無駄遣いさせてしまったが、ともかく体調は万全だ。ミキは掛け声とともに跳び上がり、両開きの扉の継ぎ目を一直線に唐竹割りにした。開いた空間に、イリスが魔法の光を灯す。
「これが……魔王?!」
「それ」と正面から向き合ったミキが言う。部屋の中央には、文字通りの「漆黒の衣」で覆われた姿があり、かろうじて露出している顔は、闇の中で白く輝いているように見えた。魔王は、明らかに女性……あるいは、少なくともそれを模した何かに見えた。
「作戦通りに行くわよ。あんたの行動が合図だからね」
「おう! それじゃ、行くぞ……」
改めてみんなの顔を見て、その覚悟を確認してから、俺は眼の前のターゲットに狙いを定める。
「
俺のスキルが、魔王の漆黒の衣を剥ぎ取る! 下から現れたのは予想通りに女性の裸体だったが、見とれている暇はない。戦闘開始だ!
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