第12話:ダンジョンでも大活躍の能力です
「
俺が力を発動するたびに、床に埋もれた罠が、壁に見せかけた隠し通路が、次々と暴かれていく。
「すごい、こんなことにも使えるんですね」
「もともと幽霊みたいな非生命体が相手でも使えたからな」
イリスは松明がわりの魔法の光を掲げながら俺に感心した。以前いろいろと試したのだが、例えば丸太の棒に服を被せて能力を発動してみたら、見事に脱がせることができた。どうやら「衣服」というのは「何かを覆い隠している物」という、かなり広い範囲を指しているようだった。ただしカエルの舌に対しては無効だったのは、それ自体が生き物だったからだろうか。
「それにしても、宝箱はみんな空っぽねぇ。少しは期待していたんだけど」
リンは残念そうに舌打ちをしてそう言った。
今、俺たちは最近発見されたばかりだという地下遺跡を探索している。誰の領地でも無い上に、遺跡内からモンスターが発生して周囲に危険を及ぼすことも確認されていないため、特に依頼などがなくても冒険者が自由に探索できるようになっている。もっとも、危険なダンジョンを好んで探索するものなど多くはない。
「この紋章には見覚えがあるぞ。我が家系に伝わる古文書にあったはずだ」
「ということは、過去の勇者や魔王と関係があるかも知れないってことか」
アリシアは部屋に掲げられた紋章を見てそう言った。今回の探索で少しは手がかりがつかめるといいのだが。
*
「魔力の反応があります、気を付けて!」
やがて、俺たちは天井の高い広間にたどり着いた。周囲にはゴツゴツとした岩が乱雑に散らばっている。やがて、それらの岩が磁石のように引き合って、巨大な人の形を作った。
「ゴーレムです!」
「なるほど、遺跡の番人ってわけか」
土や岩でできた人造巨人ゴーレム。RPGでは定番中の定番だ。
「むっ、硬い!」
アリシアがさっそく剣で斬りつけるが、硬い岩が相手では分が悪そうだ。
「下がれ、
確かに射程内に捕らえたはずだったが、脱衣は何の効果も示さなかった。曲がりなりにも「中身」があった鎧の亡霊とは異なり、ゴーレムの場合は岩の体こそが本体なのだろう。
「私の出番ね!」
リンは拳に緑色のオーラを纏わせた。
「はッ!」
そして跳び上がると、ちょうど右腕の
「瞬間的に拳の硬度を激増させるの。発見されたどんな金属よりも硬くなっているはずよ」
続いて、左脚にオーラを纏わせると、奴の左
「とどめは頭? それとも心臓?」
「わかりません! どこか一つに核となる岩があると思うのですが」
「なら、全部叩き壊すだけ!……なっ?!」
ゴーレムは片足を失ってバランスを崩したかと思いきや、突然ものすごいスピードで動いて体勢を立て直した。そして片足で跳躍し、上空から重量に乗せたパンチを繰り出す!
「なんだ? さっきまでとはまるで違う!」
「まるで別人になったみたい!」
「今では
そうだ。もしも仮に今のゴーレムに「中の人」がいるとすれば……。
「
狙いは的中した。胴体の岩の間から光があふれ出し、次の瞬間には全身がバラバラになった。そして胸部の岩の中から現れたのは、長い銀髪に紫色の肌をした女性だった。
*
「我が眠りを覚ますもの……これほどの力を持つとは」
紫色の肌は、最初はボディスーツかなにかかと思ったのだが、《脱衣》が完全に効いてもそのままだったので、れっきとした皮膚であるようだ。その証拠に乳首も陰毛(髪と同じ銀色!)もある。よく見るとイリスと同じように耳が尖っており、いわゆるダークエルフという種族なのかも知れない。
「武器を下ろしてくれないか。もう私に戦う意思はない」
「あなたは、一体……?」
「私はかつて、魔王と呼ばれた者からこの地の守りを任された者。名は……そうだな、水晶のドリーンとでも名乗っておくか」
そういえばイリスも「糸杉のイリス」と名乗っていた。森のエルフは植物、闇のエルフは鉱物を名乗るのだろうか。ともかく、ドリーンは語りだした。
「もう何百年も昔……私が生まれるより前のことだ。我らが一族は……地上の者が"魔王"と呼んでいる存在と契約を結んだ」
「その計画とは?」
「地上の人間を一層し、新たな種族で文明を作り直す計画だ」
「なんだと?!」
思わず俺は聞き返してしまった。
「尖兵として魔物を送り込み、力を蓄えて天変地異を引き起こす計画だった。結局、人間の勇者とやらに阻止されて再び眠りについたがな」
「あんたたちはそんな計画に協力したというのか?」
「地上に何が起ころうが知ったことではなかったのでな」
ダークエルフは、地底世界に独自の文明を築いているという噂を聞いたことがある(という情報が俺の知識にインストールされているのだろう)。
「私はこの地の守りとして自らを岩の中に封印し、その魔力をゴーレムの動力源とした。普段は自動的に迎撃を行い、非常時には目覚めて自らが戦うつもりでな」
「恐ろしい術ですね……」
イリスがおののく。並大抵の魔法ではないのだろう。
「私は眠りの中で魔王の敗北を知ったが、私は自らの意志で目覚めることはできず、また私を目覚めさせようとする者も誰もいなかった。このまま忘れ去られようとしていたところでお前たちが現れたのだ」
「それでドリーン、あなたはこれからどうするのですか?」
淋しい目をした彼女にイリスが問いかける。
「さしあたっては同胞でも探しに行こう。しかし魔王の奴には恨みがある。使うだけ使っておいて何もせずに放置するとは。もしも地上に住む者として奴と戦うつもりなら、情報を提供してやらんこともないぞ」
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