チートスキル「脱衣」は世界を救う!

矢木羽研(やきうけん)

第1話:まずは女神様が実験台です

「ここは……」


 目が覚めると、白い空間にいた。足元は継ぎ目のない平らな床で、見渡す限り壁も何もない、真っ白な空間だ。


 記憶を整理する。確か俺は学校帰りに、少しでもショートカットしようと横断歩道でもない道を渡ろうとしたら、カーブの死角からトラックが突っ込んできて……。


「まさか、異世界転生したとでも言うのか?!」

「ご明答~♪」


 のんきな女性の声が聞こえたかと思うと、俺の前に光の柱が現れ、あっという間にドレスをまとった人の姿になった。


「やはり、あなた方のようなタイプは理解が早くて助かりますね♪」

「なるほど、あんたが女神様ってわけか」


 大理石のような肌に青紫色の髪。純白のドレスに包まれた姿は、いかにも西洋ファンタジー風の女神様といったところだ。その女神様が、どこか気の抜けた、歌うような声で話しかけてくる。


「突然ですが、これからあなたには世界を救っていただきます♪」

「拒否権は……ないんだろうな」

「はい♪ 私の目の届く範囲だけでも、救いを求める世界はいくらでもありますから♪」


 いわゆる多元宇宙というやつだろうか。現代科学では観測すらできない異世界は、本当に存在するようだ。


「なんで俺なんかが……って、やっぱり異世界人特有のチートスキルってやつなのか?」

「ええ♪ 特にあなた方の国の……ゲーマー、と呼ばれる方々は、イメージを具現化して特殊な力に目覚めさせることが得意なんですよ♪ 理解も早くて助かります♪」

「それで、俺にはどんな力をくれるっていうんだ?」


 異常な状況だが、これは憧れていたシチュエーションでもある。無敵のチートスキルで無双して、女の子にモテまくってやる!


「そうですねえ、あなたが最近プレイしたのは……ストリップ・脱衣・ヌード……あらまぁ♪」


 そう、俺は最近、主に海外産の「脱衣」系ゲームばかりプレイしていたのだ。パズルやシューティングで、女の子を裸にすることだけが目的のゲームだ。本番を前提に脱がすよりもストイックな設定が気に入っている。


「ふむ……なるほど。あなたの性格ともぴったりですね。これに決めましょう♪」

「おい、ちょっと待て……」


 俺の言葉に全く耳を貸さないようだ。女神様が手を振り上げると、視界がまぶしい光に包まれた。


 *


「……無事に習得できましたよ♪」

「習得……?」


 一瞬、意識を失ったような気がしたが、目を開けてみれば何も変わっていない。俺の体にも変化があったようには思えない。


「キーワードは……そうですねぇ、あなた方の隣国の言葉で"脱衣アンドレス"(undress)とでもしましょうか。対象を視界に捉えて、念じながらそう唱えてみてください♪」


 そう言って、女神様は指をパチンと鳴らす。すると目の前に現れたのは、ブレザーを着た女子高生、しかも……。


「……おい、なんのマネだ」

「あなたがずっと好きだった幼馴染の……ミキちゃん、でしたっけ? もちろん本物ではございません♪」

「こいつに、脱衣の力を使えっていうのか?」

「ええ、ずっと妄想していたんでしょう♪」


 確かに、そのとおりだ。ミキの裸を妄想したことは一度や二度ではない。しかし、大事な幼馴染である。たとえ作りものであっても、こんなところで辱めるのは嫌な気分になった。


「ターゲットは……あんただ!」

「あら♪」


 俺は女神様を正面からにらみ、両手を突き出す。魔法をかけるイメージだ。そして……


脱衣アンドレス!」


 女神様の体が光に包まれる。次の瞬間にはドレスの帯と肩紐がするりと解けて床に落ち、女神様はその美しい体を晒した。ただし……


「謎の光、かぁ」


 胸と股間の肝心な部分は光で隠されていた。範囲も広めで、体型もろくにわからない。


「あまり、神をナメてはいけませんよ? とにかくこれで、力の使い方はわかったようですね♪」

「まあな」


 まさか女神様にも通用するとは思わなかったが、とにかく力は本物のようだった。これを使って異世界の女の子を片っ端から脱がせてみるか……。


「念のため忠告しておきますが、これから降りていただく世界でも公衆の場で裸を晒すことはタブーですからね♪」

「つまり、どういう意味だ?」

「むやみにこの力を使うと恨みを買って、まあ長生きはできないでしょうね♪ くれぐれも、よく考えて使うのですよ♪」


 それはそうか。あくまでも敵対する相手の装備を剥ぎ取るような使い方がメインになるのだろうか。


「そろそろお時間ですね♪」

「おい、説明とかもっとないのかよ?」

「それはあなたの記憶にインストールして差し上げます♪ 服装や装備もプレゼントするので、無茶をしなければすぐに死ぬことはないはずですよ♪」


 それだけ言うと、俺の足元に魔法陣のようなものが現れた。


「では、いってらっしゃいませ♪ 世界を救ったらまたお会いしましょう♪」


 こうして、俺のへんてこな冒険が始まった。

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