みなとみらい三番勝負

51-1 スキャンダル

 時は二学期終業式。


「ふいーっ。これで高校生活も残す所後三か月か。これで晴れてテストともおさらばだ」

「三学期になったら自由登校。実質今日が卒業式みたいなもんだ」

「おいシャモどうした。せっかく大学に合格したくせに、しけた顔しやがって」


 『無駄で、どうしようもなくバカバカしくて、しょーもない』

 それが一並ひとなみ高校落語研究会。その象徴たる三元さんげんとシャモ。

 そんな一並高校落研精神を象徴する二人を、留年させてでも引き止めたい――。

 仏像の願い空しく、三元さんげんとシャモは無事赤点なしの通知表を受け取った。


「それにしたって、落研はどうなっちまうんだか。仏像の野郎、『留年しねえか』なんて言っていたが、あながち冗談でもなかったのかもな」

「津島君が来るからには、三学期からはさすがに落研もぴりっと締まるだろう。願わくば俺が津島君の代わりに、中林家菊毬なかばやしやきくまり師匠の小僧になりたかったわ」

 帰宅部希望者の受け皿として機能していた一並高校落研に、そうとは知らず入部した落語好きの三元。

 それから三年近い年月が経ち、すっかりバカ部活の顔とはなったが、本当の所は思い切り落語に打ち込んでみたかった。

 そんな割り切れぬ思いが、津島の存在によってかきたてられるのも無理はない。


「なあ三元。松田君の留学先って結局アメリカだっけ。それともフランスだっけか。とにかく四月からは通信科に変わるから、落研からいなくなるしな。飛島君と長津田ながつだ君じゃ、津島君のペースに飲まれるのがおちだよな」

「餌も仏像も、バカ部活を残したいなんて息巻いていたくせに。近ごろはすっかり真面目になっちまって」

「結局根っこの所は二人とも生真面目なんだよな。俺らみたいに、のんべんだらりとやれば良いものを」

 赤点ギリギリの通知表を無造作にカバンにしまい込んだ三元は、太ましい腹をさすってあくびをした。


「それにしてもその腹はどうした。のんべんだらり所の騒ぎじゃねえぞ。ダイエットは。みつるばあちゃんのスーパー野菜スープはどこへ行った。太りすぎで病院送りになった時以上じゃねえか」

「幸せ太り。なんちゃって」

 いつの間にやら付き合い始めた彼女・寿町子ことぶきまちこ。三元に似てふくよかな彼女のおかげで、もはや小顔や痩身そうしんを気にしなくなった三元。

 そのだらしない二重あごにむかって、シャモは消しかすを指ではじいた。


「ったくよう……。結局一番の勝ち組は三元じゃねえか。何から何までピッタリ似合いの彼女。『味の芝浜』をマンション兼店舗に建て替えて左団扇。まーったく勉強って何だろな」

 赤点続きで落第ギリギリ、運動音痴で合コン全敗。口癖は『面倒くさい』『よっこらしょういち』。太りすぎて病院送り。友人知人はほぼ六十代以上の高校三年生。

 そんなの三元が、ふたを開ければあら不思議。


【好みの女に告白されて付き合う】


 大山おおやま参拝の際に絵馬に書いた通り、『味の芝浜』の弁当配送バイトである寿町子ことぶきまちこから猛アタックを受ける。

 そして両家族はおろか店の常連みんなに祝福されて、三元の卒業を機に結納の運びとなったのだ。


「結婚は専門学校を卒業したら、だっけか」

「町ちゃんと籍を入れるからにはあの店を建て替えようって。一軒家じゃねえから結構時間が掛かるみたいで、入居できるのがちょうどその頃になりそう。だからそれに合わせて籍を入れる事にした」

「へえ。そりゃそりゃ」

 彼女どころか婚約者かよ。ったく、白無垢に紋付袴を売りつけたぐらいじゃ割に合わねえな――。

 くさくさしつつスマホを手にしたシャモであったが。


【激震 超人気プリマドンナ・藤崎しほりが溺れる禁断の少年愛――熱く濡れたモナコの夜――】


 ヘッドラインニュースの文字列に、思わずシャモは動きを止めた。


 ※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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