王子様は大変だ

15 御開帳

形態模写けいたいもしゃおよび声帯模写せいたいもしゃ 政木五郎まさきごろう(二年)/松田松尾まつだまつお(一年)】


 舞台中央のパーテーションが開け放たれる。


 そこには羅髪らはつ風に髪を結い上げ、如意輪観音にょいりんかんのん形態模写けいたいもしゃを淡々とこなすスノボの王子様こと仏像がいた。


 まさしく仏像の御開帳ごかいちょう

 ただしこちらの仏像には一つたりともご利益りやくが無い。


〔山〕「正気か」

〔井〕「これは痛い、痛すぎる」

 中学時代からの仏像の大親友である山下と井上は、大真面目な顔で如意輪観音にょいりんかんのんの形態模写をする仏像に思わず引き笑いだ。


〔松〕『右手に見えますう⤴のはあ⤵、如意輪観音にょいりんかんのん如意輪にょいりん如意にょいとは⤴あ――』


 松尾は癖のあるナレーションで有名な俳優の声真似をしながら、ムソルグスキー作曲『展覧会の絵』を弾き進める。

 常人にはとても真似できない(したくもない)名人芸である。


〔山〕「これ、今度こそ政木まさきファンの女の子全滅だろ」

〔井〕「そこまでして女ファンを減らしたかったのか」

 武士の情けで舞台から目を逸らす山下と井上。


〔史〕「私の目の前で、よりにもよって『展覧会の絵』か。そうか、そうか。ハハハ、ハハ」

 二人の後ろで乾いた笑いを漏らしつつ、ピンクうさぎこと藤沢史帆理ふじさわしほりは音を立てて立ち上がると足早に会場を後にした。



※※※



 王子ご乱心としか言いようのない仏像の形態模写けいたいもしゃ芸が終わって暗転幕あんてんまくが降ろされてなお、男子生徒達のざわめきは収まらない。


 だがしかし。

〔客A〕「ロトさーんっ!」


 浮遊感のあるエレクトロニカサウンドが響き始めると同時に飛んだ野太い男の歓声で、会場の空気が一変した。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。


※エレクトロニカサウンドはUnderworldの『Born slippy Nuxx』をイメージしています。


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