第27話 ゴブリンの集落発見。

 

 森は奥に行くほど深く暗くなっていた。

 元々人が通る道などはなく、手つかずの樹木が鬱蒼と茂っている。

 そんな中、僕は先頭を歩くエリーゼの後ろを付いていく。




 エリーゼが進むのは森の生き物たちが使う獣道だ。

 そして斥候職であり、元から気配察知に優れている狼獣人のエリーゼはピンと尖った耳をときには鼻を細かく動かしながら警戒を続けていた。




「ゴブリンどころか小動物1匹もいないね」




 深く豊かな森なのに動物の姿はもちろん鳴き声すら聞こえない。

 まったく静かな森だ。平和なもんだ。

 なにか理由があるんだろうか?




「……そうね。でも小動物が少ないのはゴブリンたちが狩りをして数を減らしてしまったからかもしれないわ」




「そういう考え方があるのか……」




 僕はやはり経験豊富なエリーゼがスゴイと思った。

 そして同時に僕が冒険者として、まったく世間知らずなのも理解した。

 いつもと違う現象が起こっているときは、なにか原因があるはずだと言う考え方。

 こういうことは経験として身につけていかなければ生き残れないんだろうな……。




 なるべく物音を立てずに獣道をしばらく進んだときだった。




「……足跡があるわね」




 エリーゼが短剣の先で地面を示す。

 すると泥の上にいくつもの裸足の足跡が残されていた。

 ひとつふたつじゃない。何十もの踏み固められた足型が残っている。




「サイズからして人間のものじゃないわね」




「と、すると?」




「ゴブリンね。この道は群れの通り道になっているのよ」




「って言うことは、集落が近いってことかな?」




「そうね。そうなるわね」




 エリーゼの顔つきが真剣になっていた。

 僕は黙ったまま周囲に目を凝らす。

 今、この瞬間にもゴブリンたちが潜んでいて、次の瞬間には僕たちに襲いかかってくるかもしれない。

 そう思うと身体全体に緊張が走るのだった。




 そして僕とエリーゼは更に森の奥へと移動した。

 もう木漏れ日はほとんどなく、薄暗く視界が悪い。




 そんなときだった。




「……森を抜けるわ」




 先頭を歩くエリーゼがそう僕に告げた。

 すると急に明るくなって視界が開けた。

 だけど森が終わったのではなかった。




「……あ、あれは……?」




「ゴブリンたちの集落ね」




 そこは木が切り倒されて開拓された広場のような場所だった。

 そこに丸太を適当に組んで作った粗末な小屋がいくつかあった。

 そしてその周囲には武器を持ったゴブリンたちの姿が見えたのだ。




「やはりあったわね」




「数はどれくらいいるのかな?」




「小屋の大きさと数から考えて40匹ってところかしら」




「じゃあ、さっき乗合馬車を襲った群れを差し引くと……」




「残りは20匹程度ね」




 そう告げたエリーゼは前方を指さした後、ハンドサインを送ってきた。

 それは事前に打ち合わせていたもので、討伐実行を意味するものだった。

 どうやらさっきの乗合馬車襲撃のときに僕の転倒魔法が有効だったので、この数でも大丈夫だと判断したようだ。




「了解」




 高速で移動を始めたエリーゼに続いて僕も足早に行動する。

 そして樹木や岩に身を隠しながら集落に入った。

 今度は粗末な小屋の影に隠れながら全体を視察する。




「まずはあそこの群れをやるわ。5匹くらいだから簡単でしょ?」




 小屋が並ぶ向こう側が広場のようになっていて、そこで武器を手にしたゴブリン5匹がぼんやりとあちらを向いていた。

 つまりまったくの無警戒。




「転倒」

「転倒」

「転倒」

「転倒」

「転倒」




 杖をゴブリンに向けて僕は転倒魔法を発動させた。

 それぞれのゴブリンの足元の地面に魔法陣が浮かび上がる。




 ――ツルリン。

 ――ツルリン。

 ――ツルリン。

 ――ツルリン。

 ――ツルリン。




「「「「「ウギャギャギャ……ッ!」」」」」




 5匹のゴブリンたちが一斉にすっ転んだ。

 そして立ち上がろうにもまた転んでその場でもがいている。




「シッ……!」




 鋭い呼気を発したエリーゼが風のように素早くゴブリンたちに殺到する。

 そして順に頸動脈を断ち切り命を奪うのであった。




 そのときだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る