第14話 獣耳女性冒険者。

 

 3時間くらいそんなことを繰り返していると、やがてカゴ一杯になった。

 僕はその大量のポーション草を魔法収納袋に収める。

 理由?

 だって草って言っても大きなカゴ一杯だと結構重いよ。

 収納袋に入れてしまえば重さはなくなるからね。




「こんなところかな」




 僕は帰り支度を始めた。

 休憩のために使った水筒や弁当箱を仕舞ったりなんかね。

 そういうもの一切合切を収納袋に収める。




 そしてそんなときだった。

 どこからか剣戟の音が聞こえてきたのだ。

 金属と金属がぶつかり合う固くて激しい音だ。




 ガキン、ガキン、ガキン。




 そしてときおり獣の唸り声のようなものまで聞こえてくる。

 これって、もしかしたら誰かが魔物と戦っているのかもしれない。




 僕はその音を無視して帰ろうかなと考えてみた。

 魔物は危険だし、巻き込まれるのは困るからね。

 それにこんな森の中で魔物と戦っているのはどうせ冒険者だろうしね。




 ……だけど、である。

 僕は好奇心が強いんだよね。

 だからちょっとだけ覗いてみたくなってきた。




「遠くからちょっと見るだけだったら大丈夫だよね」




 僕はなるべく物音をたてないように森の中へと入って行った。

 そしてものの2、3分も歩かないうちに戦いの場所を見ることができたのだ。

 大きな樹木の影から少しだけ顔を出してみる。

 そこでは冒険者と魔物の戦いが繰り広げられていた。




「わ、ひとりだよ……」




 軽量の皮の胸当てをつけた女性冒険者が体長2メートルはあるオークの群れとひとりで戦っていた。

 オークっていうのは豚頭の二足歩行の魔物ね。食用として有名。




 女性は短剣を得物としている冒険者のようで逆手に持ったその剣でオークが持つ金棒をいなして避けている。




 だけど数が悪い。

 オークは5匹もいて、徐々に囲まれてしまっている状態になっているのだ。




「あれ? 亜人だ」




 女性冒険者の頭に耳があるのに気がついた。

 よく見ればお尻にはフサフサとした長くて髪の毛と同じ淡い銀色の尻尾も見える。




 亜人の冒険者は逆手に構えた短刀を目の高さに構えながら周囲を警戒している。

 構えに隙はないし、それなりの腕前の持ち主だね。




 そしてそのときだった。

 冒険者の背後に位置したオークが金棒を振りかぶって襲いかかったのだ。




「ブモーッ!」




 唸り声とともに金棒が振り下ろされる。

 だけど女性冒険者は短剣の刃を金棒に滑らせて躱し、一気に懐に飛び込んだんだよ。




 そして切る。




「ブモモッ……!」




 下から逆袈裟斬りに切られたオークが悲鳴を上げる。

 だが攻撃は止まらない。

 短剣の攻撃は浅いのだ。とても急所には届かない。




 だから冒険者は首を狙った。

 グサリと首を掻ききった。

 頸動脈を切られて大量の血液を噴水のように吹き出したオークは無言のまま、どうと倒れた。




 しかしオークは残り4匹も残っている。

 オークはそれほど頭が良い魔物じゃないので連携プレーとかはしないけど、それでも一斉に襲いかかるのが有利だとはぐらいはわかっているようだ。

 なので残りのオークは一斉に金棒を振り上げながら獣耳女性冒険者に襲いかかる。




「「「「ブ、ブモーッ!!」」」」




 ……これってマズイんじゃない?




 僕は4本の金棒で一気に潰されるんじゃないかと思ったのだ。

 だけど女性冒険者は一瞬の隙をついて金棒を躱しオークの囲いから外へと飛び出したよ。でもかなり消耗しているのか、そのまま走って脱出することができない。

 肩で息をしているのがわかる。




 おそらくだけど、元々この獣耳女性冒険者さんはオーク5匹と正面から戦うつもりはなかったんだと思う。

 きっと偶然鉢合わせしちゃたか、1匹と戦っているうちに仲間を呼ばれたとかじゃないんだろうか。



「あの~。お手伝いしましょうか?」




 僕は木の陰から声をかけてみた。

 すると獣耳女性冒険者と目が合う。




 ……わ、美少女っ!




 ドキリとするくらいの美少女だった。

 涼やかな目、すっと通った鼻筋、桜色の小さな唇。

 そして革製の胸当ての上からでもわかるたわわな実り。

 年齢は十代後半に見える。僕よりも少し年上だね。




「お、お願いできるっ? あなた魔法使いよね? なんとかなるかしら?」




 僕の存在に安堵したのか、獣耳美少女冒険者はへなへなと地面に座りそうになる。

 でも、ここで座ったら間違いなく死ぬので力を込めて立ち直った。




「オークを転がします。だからトドメをお願いします」




「へ? 転がす? どういうことかしら?」




 意味不明とばかりに獣耳美少女冒険者は怪訝そうな顔になったよ。

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