第1話 再起動

 故郷広島。親元に帰ることができたのはうれしかったが、それ以外は別に楽しくはない。

 私自身は故郷に格別の思い入れは無い。ここには友人もいないのだ。

 広島に今もいるのは中学校以前の知り合いだけで、当時は学校での暴力騒ぎが酷かった時代だったので、友人と呼べるものは誰もいない。

 実を言えば、会社を辞める前から次の会社の目星はつけていた。とある伝手を辿って見つけた神奈川県の会社だ。

 良い機会なので、半年と期限を切って何か好きなことをやろうと考えていた。

 もちろん、貯蓄だけでは心もとない。ここは失業保険にお出まし願おう。

 失業保険とは言っても、自己都合退職なので最大三か月まで、貰っていた給料の80%までしか出ないので、これも僅かと言えば僅かなのだが。


 不健康に浮腫んだ息子の体を見て仰天した母親が、見よう見真似で整体マッサージをする。

 あっと言う間に体の浮腫みが引き始める。心づくしの料理を毎日食べているのだが、一日五百グラムずつ体重が減り始め、ついには十キロも体重が減った。つまりこれらの体重増加は全身に溜まった水だったのだ。

 ストレスはどんな病気よりも命取りと知った。


 美術館巡りもやってみた。地方なので大したものは無い。すぐネタが尽きた。

 当時台頭し始めていたネットにつなぎ、ネットゲームを作って見る。対戦型サイコロRPGと集団戦型戦略ゲーム。この二つだ。

 そこへどうせあんた時間空いているのでしょ、うちの息子の家庭教師やってよ、と姉が馬鹿息子の一人を放り込んでくる。

 どうやら皆さん、私の手が相手いるとみると何とか利用せねばと考えるらしい。

 そうこうしている内にどんどん時間が経っていく。


 失業保険の受付の人の視線が気になるので、広島の会社の面接を受けて見た。自動車電装系の子会社だ。会社自体は親会社の敷地の中に建っている。川に沿って作られた大きな工場、ずらりと並んだ出荷前の車体。大学の実地見学で一度来たことのある大会社だ。

 あの時はどうしたのだっけ。そうだ、貴重な石油を燃料として燃やすことをどう思います、とガイド役の技術者に尋ね、石油はまだまだたくさんありますから、という返事を聞いて、友達と顔を見合わせて呆れたんだった。

 燃料に使うなんて問題外。貴重な石油化学系原材料を~。と二人で嘆いたものだっけ。


 面接官にざっと説明を受け、そのまま質疑応答を受けた。手に持っていたコウモリ傘の分析を問われ、数十種類の分析結果を出して見る。ああ、こういう面接は好きだ。


 帰って二、三日すると電話がかかって来て雇用条件を教えて貰えた。提示されたのは年棒四百万円。冗談でしょう。前の会社では残業込みだが五百万円貰っていたし、目星をつけておいた会社は年棒六百万円に加えて移籍料200万円を提示されている。

 ここまで年棒が違うのでは、考えることもない。

 念のためにタロットカードでこの転職を占ってみる。

 六百万円の会社に出たカードは悪魔のカード。中央の悪魔バフォメットの両脇に鎖で繋がれた男女の絵柄だ。

 意味は『欲に鼻づら繋がれて引き回される』だ。

 私の占いは相当に当たる。だがこの条件ではさすがにこの就職を捨てるというわけにはいかない。

 不安は残るがそれでも前進してみよう。


 この選択の結果を先に言えば、大失敗であった。それも天地がひっくり返るほどの

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