ハルへ

はるのいと

「プロローグ」

 僕は夢を見る。

 

 真っ暗な部屋に煌々こうこうと光る、ノートパソコンの液晶画面。

僕は机に腰を下ろし、静かにその画面を見つめいていた。

そこには幸せそうに微笑む、一組の家族が映っている。

優しそうな両親と利発そうな幼い娘。

コマーシャルなどで見るような、絵に描いたような理想の家族。

本当に幸せそうだなあ……。

 

 机の上には今しがた書き終えた、遺書が置かれていた。

因みに遺書は遺言書とは違い、法律的な制約はない。

だから基本的にはなにを書いても構わない。

例えば両親への思い、恋人や友人たちへの感謝の気持ち……だがそのどれもが僕には欠落していた。


 恥ずかしながら、取り立てて書くべき事柄がない。

だがこの先、自分がやろうとしていることを考えるとつたない遺書でも残さずにはいられなかった。


 よし、これでやり残したことはもうない。あとはその時が来るのを、只じっと待つだけだ。

ふと、時計に目を向けると時刻は午前1時を少し回っていた。

今日はカウンセリングの予約が入ってる。そろそろ、寝よう。

ベットに寝ころびながら瞼を閉じると、途端に眠気が襲ってきた。

そしていつもの夢が、ゆっくりと近づいてくる。

だがそれも、もうすぐ終わりを迎えることだろう。


 そうだろ? **ちゃん。

 うん、そうだね。


 僕は夢を見る。

 

 そしていつものように黒い世界に包まれながら、静かにそしてゆっくりと堕ちてゆくんだ。

どこまでも、そう、どこまでも…… 。

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