ハーレムなんていりません(困る

神無月ナナメ

プロローグ 発端からの繋がりで

「きゃあぁぁぁああぁぁぁぅぁぁっ!」宵闇を切り裂くように響くのは少女の絶叫。


 後から思い返して考えてもわからない。もちろん義侠心にかられたわけでもない。

ひょろっとした体形で格闘技どころか殴り合いのケンカ経験ないオタク野郎だから。


 そう……ある種の職業病。古臭い表現なら中二病なんて呼ばれる類かもしれない。

見えない誰かの手のひらにもてあそぼれるように運命に巻きこまれたのは結果論だ。



 そもそも実務終わりチラ見したX……デビューから愛読する書籍作家のつぶやき。

月半ばの週明けで事務所に詰める必要ないからファミレスで読書三昧するのもいい。


 先行者の刺激を浴びながら……次回作のプロットぐらい捻りだせるかもしれない。


 それがリアル体験みたいな犯罪行為……こんなことがあろうかの事前準備もない。

両手に下げたビニールはかなりの重さ……のっけからこれで対応するしかないよね。



 とりあえず歩き疲れた激重の両脚に力をこめながらかなり久方ぶりのダッシュだ。

ここは大阪市浪速区日本橋裏通り……オタロードから外れた南海電車の狭間になる。



 いくつも怪しいネオンや電飾が灯された店舗の先に見える植樹と遊具の児童公園。

夏が近づいた季節がら薄着で学生風の少女たちが三人と正面は背中を向ける男たち。



 立ち読み防止の意味合いで個包装されたマンガやラノベに被害がないとベストだ。

サイアクは破れなければ読むのに問題ないし少女の身代わりなら本望かもしれない。



“オレらに重さ強さで期待すんな。辞書や開くのも難しい分厚い厚いヤツらに頼め!”


 もしも紙書籍に意識があるとするならそんな驚愕の叫び声で非難された気がする。

もちろん本は武器じゃない……個々の内容で読者に痛手を与えることは可能だけど。



 リアルな意味で本を武器に使うシチュエーションなど普通なら起こるはずはない。



 時間が絶えず流れつづけるものならば実際ほぼ一瞬の出来事だったかもしれない。

頭を抱えて座りこむ金髪少女に茶髪パンク野郎がのしかかろうとした背中に直撃だ。


 すぐ傍でニヤニヤしながら電子タバコを咥えた坊主頭のタトゥーに追撃が刺さる。



 本の持ち主として『よくやったお前ら!』なんて内心の叫び声を上げて突っ込む。

もちろんこぶし攻撃なんてしたくもないしできないからドラム型のバックパックだ。



 まん丸に膨らむ艶消しブラック35リットルを抱えて連打すると下からうめき声。

かなりの衝撃で何発かお見舞いしてやった直後に絶妙のタイミングで声かけされる。



「叫び声でかけつけたんだけど……あぁそいつら犯人ね。おもっきしやっちゃいな」

 襲われる少女たちとは同年代か幼くも感じるピンク髪の美少女がニヤリと笑った。



「エーちゃんちょい待ちステイステイステイ。悪いやつでもやっちゃったらマズい」

「女の子を襲うようなクズ野郎なんてかばう意味ない。今回は珍しくエーが正しい」



「全員ストーップ……そこのキミもこれ以上は禁止ね。これでもわたし警察官です」

 瘦身に黒い上下サマースーツ……黒髪女性が手帳じゃないけれど証明書を掲げる。


 警察官と耳にした直後に男たちは不利を悟り逃れようと考えて即座に動き始める。

「ふぅ」思わず溜息を漏らしながらバックパックを抱えて座りこむと小声が届いた。



「助けてもらい……ありがとうございました。それで……あのぅこれなんですけど」


 オーノーと声にならない否……だせずに悲鳴を上げたい彼女の提げたラノベ表紙。

もちろん十八禁ヤバい本じゃなくても少々じゃなくて肌色の成分が多い美少女たち。



 いやいやいや……羞恥心で走りだしたいぐらいなんだけど。リアルにラノベ展開?


 金髪碧眼ロリ少女表紙のラノベを掲げる。驚きの……金髪碧眼ロリ美少女ちゃん。

黒髪ロングに赤メガネの清楚な少女は頬を赤くして掲げたラノベそっくりに見えた。



「ひょろっこくてヤバい連中にトッカンすんのはヤベぇしょ」茶髪のギャルが笑う。

 ちょっと待った……オタクに優しいギャルが表紙。妄想本を掲げたリアルギャル。



 いつのまにかゲーム世界に転生しちゃうタイプのラノベ……主人公みたいじゃね。

悪い夢なら早く醒めてくれ……じゃない。リアルにワンチャンあったりするヤツだ。


 お約束みたいな流れに頬をつねって確認すると痛いからもちろん現実の出来事だ。

待て待て待て……ちっぽけな福祉事業所経営者の三十路野郎で趣味は夢の小説書き。



「ちょっと待った……どこか見覚えがある。仕事関係じゃない……あぁ高坂くん?」


 声かけされた相手は電動車いすに乗り傍らに美少女二人をはべらしたアイドル系。

どことなく見覚えがあるような表情でオレの本名まで……ジョウか! 城佳二くん。


「もしかしてジョウくん。高校時代に陸上のエースだった中退したクラスメイト?」



 ジョウくんの傍にいる立姿のウサ耳美少女……あれってレイヤーじゃないよなぁ。

この世界にダンジョンが生まれてからリアルとフィクションの境界まであいまいだ。

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