第30話~閑話休題:新宿の掟~

ドアが開くと数名の御客様がさっそく入って来たね

「彩美ちゃん美香ちゃん紗季ちゃん三番テーブルお願いします」

三番テーブルに行くと上田と見覚えがあるよ新人の二人だね

「えっママ」

やっぱしなったかぁ

”お久しぶりです上田さん”

声を聞いたら

「彩美ちゃんママにそっくりになってて驚いたよ」

私が上田の横で向かいに座る新人二人の横に紗季で間に美香が座る


”お飲み物はいかが致しますか”

「上田さん!彩美さんの復活記念日なので僕がシャンパン入れていいですか?」

かなり練習してきた感あるけど慣れないセリフを記憶から全力読み上げで棒読み感が全開で可愛いね

「おう接待とか経験して慣れてきたな」

メニューと睨めっこする新人君ってもう新人じゃないよね

「恥ずかしながら僕の給料じゃモエでお願いします」

モエ・エ・シャンドンは店で一番安くてよく出る定番のシャンパンだね安いと言っても2万円だから新卒サラリーマンで頑張ってるよ

美香が手をあげライターで黒服を呼ぶ

「モエ頂きました」

「三番テーブルさんシャンパン頂きました」


”金額とか気にしないでね私達は気持ちを頂けることが本当にうれしいからね”

「ありがとうございます」

「しかし彩美ちゃんが留学先で性転換手術してたのは聞いてたけど驚いたよ完全に純女で色気もマシマシで」

”留学してすぐにホルモン始めたら相性がよかったのか自分でも驚いてる状態で”

シャンパンが届き黒服がグラスに注いでいく

「「かんぱい」」

「「頂きます」」

”う~ん久々のシャンパン美味しい”

新人君の顔がほころんでくれて嬉しいよ


五人で飲むとあっという間にシャンパンは空になったね

「よし!俺も男気を見せないとだな!といってもお小遣い制度の身なのでモエですまん」

”お気持ち本当に感謝ですよ”

美香が黒服を呼び伝える

「三番テーブルさんシャンパン頂きました」

すぐにシャンパンが届き再び乾杯

新人君二人も月一位で上田と一緒に通ってるみたいで空気感にも慣れて美香と紗季と会話も弾んでるね


まだ上田ともう一組なので0番テーブルには多くのキャストが待機してる

「何あの女は!!ママと同伴とか訳わからないし初出勤で指名とかシャンパンをいきなり二本とか」

美人だけどかなりキツメの顔の赤いタイトスーツを着たキャスト

「礼子さあ先月に入店初月でNO3の貴方でも彩美に対抗心はやめた方がいいよ」

「初出勤に私が負けるとかいうの!!」

「もう棘々しないの彩美は初じゃないよ訳あって今は臨時キャストになってるけど春まで週末専門だったけど去年夏のデビューからずーっと月NO1だからさ」

「週末だけで!?気に喰わない」

凄い形相で爪を噛む

「それと女じゃないよNHね」

「余計気に喰わない彩美って名も気に喰わない」


「彩美ちゃん八番テーブルお願いします」

”シャンパンありがとうございました”

シャンパンを入れてくれた新人に微笑むと頬が赤くなって可愛いよ

”では行ってきます”

「おう帰りをまってるよ」


八番テーブルには常連さんの四人グループがいたよ

”金田さんお久し振りです”

「やあ久々に顔が見れてうれしいよ」

金田の横に座り

”お飲み物はいかが致しますか”

「彩美の記念日だし頑張ってシャンパン入れちゃうよ」

”ありがとうございます”

黒服を呼び注文を伝える

「八番テーブルさんシャンパン頂きました」


「なんなのアイツ」

やっと指名で席に呼ばれていた礼子はコールを聞いて小声で呟きストレスを溜めて行く

こっちは指名でもハウスボトルとか湿気た客なのに

私も礼子も気が付いていなかったけどスタッフは七海の指示で刻が来るまで意図的に二人を同じテーブルにしないようにしてたんだ


「彩美ちゃん六番テーブルお願いします」

六番テーブルへ行くと徳さんと信さんだよ

えっ!?梶原も!?

ああ懐かしい

既に徳さんの横に七海が居たので信さんの横に座る

すぐに徳さんがジャックナミナミのグラスを渡してくる

「何はあれど乾杯だ!」

一気に飲み干すと徳さんがすぐに注ぐ

”本当に皆んな懐かしい”

七海から聞いてる今テーブルにいるメンバーは全てを知ってる

「無事に帰って来て一安心じゃ七海から最初に聞いた時は七海が壊れたかと思ったぞ」

「ひどーい徳さん」

「彩美の物語を読まされてなんか納得したんじゃ」

「お帰り彩美」

”信さん会いたかったよ”

「お帰り彩美ちゃんあっ俺はウーロン茶だよ」

”ただいまってわかってるよ梶原君は大切なものがあるから一緒にお酒飲めるのはもう少し待つよ”


「よし!彩美の無事帰還記念だ!」

七海が黒服を呼ぶ

「ヴーヴと一番でかい一番でかいフルーツ盛りで」

「かしこまりました六番さんヴーヴ・クリコとビッグフルーツ頂きました」


(何アイツ次はヴーヴにフルーツ)

下を向き髪で顔を隠し客に見られないように鬼の形相になる礼子

「すいませんお手洗いで」

トイレで隠れて電話している礼子だった


すぐにヴーヴが届き改めて乾杯

「しかし女体化してと聞いたがそれより男の時でも七海とかなり似ているとは思ったが今は生き写しじゃな」

「気を付けないとツルペタ税の比にならない税金になりそうだな」

”梶原君こっちにいる間に稽古お願いね!”

「いやマジで煩悩捨てるの大変だけど楽しみだよ」


「礼子ちゃん六番テーブルお願いします」

・・・アイツと同じテーブル・・・覚悟しな!

「失礼いたします礼子です」

横が空いてる梶原の横に座る

「おー礼子ちゃんか初めてじゃな!」

すでにヴーヴは空になっていたので徳さんがナミナミとジャックが注がれたロックグラスを礼子に手渡し皆のグラスにも改めてナミナミ注ぐ

「ほれ乾杯じゃ!」

「「かんぱいーい!」」

礼子と梶原以外のメンバーはロックグラスのジャックを飲み干す

梶原はキャストが間違えてアルコールを出さないように二十歳未満用専用のコースターを使ってるよ

(なんなのコイツら馬鹿じゃないのジャックのストレートをロックグラスで一気とか)

「おやジャックは苦手だったじゃったかな」


礼子がテーブルについた瞬間に誰だかわかってるよ私

だから梶原の横に美香でなく礼子が呼ばれたんだね

って全員グルかい!!

七海に念通を送る

”これって仕込みってことでいいの?”

「気が付いてるか流石だね」

”だって忘れる訳がない”

「彩美は復讐は否定しないって前に言ってただろ私も同意見だよ」

念通を終える


”徳さん圧が強いよおジャックの洗礼は七海と美香に私以外は無理だって”

あざと過ぎるな私のセリフ

(七美ってママを呼び捨てとか何者なのコイツ)

「では頂きます」

礼子がジャックを一気に飲むが

「げほごほ」

そりゃ普通は咽るよね

「おー凄い頑張ったからご褒美じゃ」

徳さんが礼子のグラスにナミナミ注ぐ

(コイツら馬鹿じゃないの)


「さて彩美の一時といえ復帰に改めて乾杯じゃ!」

徳さん煽り過ぎだけど礼子の性格を上手く把握してるね

やはり学園長にコネなしで出世するだけあって色々人を動かすのは上手だよ

(本当に馬鹿かコイツら)

礼子も合わせてグラスを空ける

(やばいぞ彩美って奴をボコる前に私が・・・)

黒服が新しいボトルを持って来たので徳さんが皆のグラスに再度ジャックを満たす


フルーツ盛が届き黒服が取り分ける

「礼子さんと言ったかな遠慮なく食べてくれ」

「ありがとぉうごじゃいます」

(コイツらなんで酔わないのよ私はもうフォークが上手く使えないし気持ち悪い)

そろそろ仕上げ時かな


”私と美香が酒やタバコの誘惑に勝てなかったのに梶原君は柔道のため誘惑に負けない本当に格好いいね”

「俺は柔道が全てだしな・・・中学で違うクラスだったけど彩美は気になってたから酒を飲まなくても御一緒出来て楽しいよ」

”私の魅力って中学生から溢れてたのかあ嬉しいね”

もう流れを作る為には躊躇心は捨てるよ梶原も渾身で演じてくれてるしね

(柔道で梶原・・・中学で一緒だったアイツか!梶原と同じ学校ってことは世田谷第二中学校で同学年で一緒だった!?)

酔いと動揺が凄くなりグラスを落とす礼子

グラスを受け止め

”おっと加藤じゃなかった私も珍しく酒が回ったかな失言は皆んなスルーだよ礼子!大丈夫!?”


礼子の顔色が青を通り越して血流不足で黒に近くなる

”どうしたの礼子ちゃん”

トドメだね

「あれダーリン!久々の出勤で礼子と初なのに姓を知ってるの?」

からぁ二人のマリッジリングを強調とかオバーキルモードだよ

(私がイジメてた彩美に間違いない!彩美のような雑魚が新宿伝説の人と恋人関係なのか?雑魚が雑魚が雑魚が雑魚がぁ!雑魚の癖に私の前に立ち塞がるなぁ!)

礼子が血の気の無い顔を上げキッっと睨む

(雑魚が私の欲して仕方ない誰もが羨む恋人にトップに・・・分不相応な物を手に入れてるんだよ・・・私の許可なく許さない・・・いつも逃げてた私の睨みで昔のオドオドして泣き叫ぶ雑魚に戻れ!)

私と視線が合い私の目を見た瞬間にガタガタ震えだし両手を膝の上で力いっぱい握り出す

(怖い!なんで雑魚に・・・怖い・・・怖い・・・殺される・・・なんでクソ雑魚だぞ彩美は・・・ああ・・・怖い)


黒服の恵子が近くに来て小声で

「彩美ちゃん二番テーブルね」

これは何かあるね

”わかったわ恵子さんありがとう”

一礼して恵子が下がる

”少しだけ行ってきます”

「おうコッチは任せておけ」

頼もしいね信さん


二番テーブルは柱の陰で六番テーブル以外からは見え難いテーブルなんで全て仕込まれている流れだね

テーブルに到着すると予想通り何かあったね

加藤の手下を昔からやってる金子に木下だね

”彩美でございます”

「あん!その声は彩美!?」

金子が凄んで言い放つ

まだ昔の私と思ってるね人は愛し愛される人の力で変われるんだよ

”加藤に呼び出されたか?メンドイから最初に言うこれ以上さ愛する七海の店を汚すなら殺すぞ”

二人に哀れ以外の感情が湧かないので棒読みで話す私

「はっ俺らに撫でられただけで泣き叫んでいたお前がか」

木下が凄むけど今の私には何処吹く風だよ

”メンドイから死んでもらおうか”

「はん!?テメー何を言ってるか分かって・・・」

金子が立ち上がって私に手を伸ばそうとする

顔を上げて目線が合った瞬間に殺気を軽く送り込むけど魔力耐性ゼロのガイア人は量間違えると多分即死なんで難しいよお


突然固まり胸を抑えうずくまる二人

「くっく・・・」

”御客様どうされました?”

「な・・・な・・・なんだ・・・その目は・・・」

苦しく絞り出すように金子がまだ凄もうと頑張ってるよ

私の目の中に何を見たのか・・・目線を逸らせば胸の苦しみから逃れらると本能で感じてるはずなのに凝視してる二人


目線は既に外れているけど脂汗にまみれ肩で息をしてる

ウイスキーのハウスボトルで水割りを作り二人に出す

私も珍しくハウスボトルをロックで用意する

”はい乾杯”

視界の端にある男が数人で飲んでたテーブルを立ち上がりコチラに向かって来るのを見つけた

私はロックを一気に飲み干し他のテーブルに聞こえないように小さく低音でまだ純男だった中学時代の声を演じて囁く

”金か体目当てで加藤に尻尾振ってるんだろうけど世間知らずのガキがイキがってトラの尾を踏んじゃったね”


向かって来るのは近藤と言うかなり恰幅の良い四十代のインテリを感じさせるメガネをした頭が切れそうな見た目の男

近藤は表の人間だけどヤクザのフロント企業代表なので限りなくグレーな人間だよ

その迫力と力はマジ物と変わらないけど普段は陽気なオジサンを演じてるから気が付く人はいないけどね

「彩美ちゃんお久しぶり」

”あっ近藤さんお久しぶりです”

「何か久々に顔を見かけて無粋だが声をかけてしまってスマンスマン」

近藤が意味もなく無粋をする事はまずないから私も色々と察してるよ

「無粋の詫びに一杯奢りたいので御一緒していいかな御二人さん」

はは普通に聞こえるけど迫力が凄くて常人では断るの無理なオーラだよ

完全に固まる二人を無視して私の横に座り

「彩美ちゃんヴ―ヴで」

”ありがとうございます”


下を見て沈黙を続ける二人

「さて君達がしてきたことは夜の新宿では絶対に破ってはいけない暗黙のルールの一つだったんだよ」

やっぱしか手配書だったんだね

なんでこの混沌の新宿が崩壊しないかって?

それはどんなにやりたい放題に見えてもいくつもの暗黙ルールがあり守られているから破れば相応の反応があるのは当たり前でね

黒服がヴーヴを持って来てグラスに注ぐ

「ほら彩美ちゃんの復帰祝いだ飲んでくれ」

一口でグラスを飲み干す私と近藤

”おいしい!近藤さん幸せだよ”

「それは本当にうれしいね御二人さんも暫くは酒と無縁の生活を送る事になるんだ飲んでおけ」

二人はガタガタに震え半分くらいを溢しながら飲み切る


近藤の後ろに恵子が控えてる

「さて行くか」

二人を促し席を立つ

恵子が案内してバックルームに向かう

キッチン経由で裏口からだね

私は六番テーブルに戻るよ


時間にして数分で六番テーブルに戻ったよ

礼子・・・いや加藤は下を向き両手を膝の上で強く握りガタガタ震えてる

二人が近藤に連れていかれるのを見て何か感じたね

”お待たせいたしました”

信さんの横に座ると徳さんがグラスを渡してくれる

「じゃあ改めて乾杯じゃ!」

一息でグラスを空ける

さて仕上げるか

”無欠勤が誇りの静香が休みってことはでいいのかな七海”

静香は常に月間TOPスリー圏内の凄腕キャストでコロナとかインフルエンザの伝染病とかで強制出勤停止にならない限りは店営業日は無欠勤を誇りに頑張って結果を残してる凄い子だよ

静かに首を縦に振る七海

”私はもう過去の事と割り切っていたけど又も自分の価値を間違えて同じことをしていたとは”

「トップになる為にはどんな手段でも皆やってるでしょ」

振るえる鳴き声でイキがっても張り子の虎にしか見えないよ

「それが礼子の正義だった訳だな彩美も私も舐められたものだな」

おおよそ想像は付いて来たよ

歌舞伎町で二人を使い私に仕掛けようとしたようにライバルを追い詰めて時には裏で暴行とかしてバレそうになると店替えを繰り返して歌舞伎町に居場所がなくなり二丁目に流れてきたね

自分の手配書が回り始めたのも知らずに


「彩美も私も多くのトップ達も自分の全力で挑んだ結果がトップでトップをとるために人を傷付ける事は絶対にしない」

”まあこれですぐに生き方を変えれるほど簡単ではないよね・・・なら加藤は加藤の信じた道で生きて行くといいよ・・・絶対に・・・本当の意味を持つ幸せを掴めない人生をね”

「差し出がましいが自分で言うのもだが金持ちとか太いと呼ばれる客は君が考えてるほど馬鹿じゃない君の腹の中なんてすぐに見破るから君に附く事など絶対にない」

ジャックを飲んで一息入れる信さん

「だから上をいくら蹴落としても意味がない無駄なんだ太い客は順位なんて関係なく居心地のいい場所に流れるからな」

加藤は怒りの形相で両眼を強く閉じて泣いている

「私は特別なんだ・・・特別なんだ・・・選ばれた家に生まれ・・・いつでも女王で自由だ・・・それを再び取り戻そうとして何が悪い・・・」

「まあ儂の耳にも色々聞こえてきてる少なくともトップだとか考えられる歳では帰って来れない位の時間はあるからゆっくり考えるのじゃな」

”力で手に入れた物はより強い力を持つ者が簡単に奪っていく”

加藤が固まる

”力に頼らない生き方は思うように行かない事の方が多いけど手に入れた愛や友情に信頼関係は誰も奪う事なんて出来ない人生の宝になる”

加藤が机にうつ伏し嗚咽を上げ始める

「なんで雑魚が雑魚が幸せになってんだよ・・・」

駄目だなこれは・・・これ以上の言葉を紡ぐ必要はないね

七海が阿吽で私の考えを把握して手を上げライターを着ける


恵子が近藤の居たテーブルに行き声を掛け二人の黒スーツにオールバックの男とテーブルにやってくる

無言で加藤を引き起こし二人で挟んで付いて来るように促す

恵子が先行して案内をしバックルームの入り口横にある出口へ

出口の横でマキが加藤のバッグを渡してる

振り返り鬼の形相で私を睨む

すまし顔で見返す私に肩を落として出口へ消えて行く

”風が吹けば全て失う砂城の女王”

思わず呟く私だったよ


美香がテーブルに呼ばれジャックで乾杯をすると私は他のテーブルへ

加藤のドタバタで徳さんのテーブルは長く居過ぎたので戻る事はなく他の指名テーブルを閉店まで渡り歩く

途中で全ての解決を聞いて少しでも無欠勤頑張りで出勤してきた静香とすれ違うと

「ありがとう彩美ちゃん」

って声をかけられたよ

私は私のためにやったことだけど感謝されて嬉しくない訳はないよ


閉店になり御客様をお見送りしてマキも一緒に四人タクシーで徳さんが達が待つお店へ

明治通りから大久保通りを抜け神楽坂へ

神楽坂の裏通りにある雑居ビルの前に信さんの車が止まってるね

信さんの車横のビルに入りエレベータに乗り三階で降りると寿司屋造りの入口だけど看板も暖簾もないよ

引き戸を開けて入るとカウンターが八席だけの店だった

ビルの外観から想像できない高級な木目を基調とした内装になってる

檜一枚板のカウンターは迫力と高級感が凄いね


「お待たせいたしました」

店に入ると七海が信さんに一礼をする

信さんと徳さんにおっ梶原も居るね

信さんと徳さんはビールで梶原はウーロン茶かなで私達の到着を待っていたよ

奥から梶原・美香・信さん・私・七海・徳さん・マキの順で座る

「お飲み物はアルコールを召せる御客様にはお料理に合わせた日本酒を少しずお出しさせて頂きます」

「じゃ俺は日本酒でなくウーロン茶でお願いします」


「では始めさせて頂きます」

コースは前菜のお造りから始まり何種類かの創作料理が続く

料理に合わせた日本酒が一品ずつ合わせて冷や燗で御猪口で出て来る

「遠征で接待とか労いで色々連れて行ってもらったけどこんな素晴らしいのは初めてだよ」

「梶原君ね最近後援会に入った信越勝田運輸さんって信さんの会社なんだよ」

「こら美香ばらすな恥ずかしいじゃないか」

「信越勝田運輸さんってもの凄い大口で本当にありがとうございます海外遠征とかが本当に楽になり助かってますが何で俺に?」

「彩美のお礼もあるが俺も若かった頃は少し柔道をやっててな活躍を聞いて応援したくなったよ彩美の師匠でもあるしな」

”信さんは大学の時にオリンピック候補にもなってるんだよ”

「こら彩美!恥ずかしいだろ現役オリンピック決定選手に」

赤くなる信さんが可愛いよ


「勝田・・・信・・・勝田信さん!?」

「俺を知ってるのか?」

「知ってるもなにも伝説の選手じゃないですか」

”信さんって凄い選手だったの!?”

「凄いも何も選考会を兼ねた国際大会で次回オリンピック金メダル候補の一人を開始数秒で瞬殺一本で倒したのは子供の頃にテレビで見ていて記憶に焼き付いています」

「でも何で信さんってそんな凄かったのに候補で終わったの?」

「ふっ美香はストレートで大好きだよ一本はよかったが無理があったのかアキレス腱断裂したんだよ勝利の瞬間に」

「本当に信さんがオリンピックに出れてれば個人戦も団体戦も・・・」

「まあ嘆いても俺の体がそこまでだったんだよ」

”で遊び人の信さんにジョブチェンしたんだね”

「そうそう!って彩美い~!」


会話の間も料理は続いてたよ

何品かの魚貝を使った創作料理の次はメインの寿司に進んでるよ

鯛からイカそしてコハダと淡泊な魚

コハダは酢の〆具合が本当に素晴らしいよ合わして出てきた日本酒の不老泉は酢と出会うと甘みが強調されて面白かったね

そこからマグロの中トロで大トロから赤身って順番が憎いレベルで上手いね

赤身が最後で一番自信があるって本当に美味しいマグロを仕入れてる証だよね

さらにマグロを〆にせず茶碗蒸しを挟んで生赤エビの濃厚な甘みから締め鯖で口内スッキリして余韻が楽しい穴子の煮詰め目の甘みでフィナーレ

本当に凄いよ合わして出て来る日本酒が引き立てる効果もあるけど何より全てのネタに自信が出来ないセオリー無視の唯一無二のハーモニーだよね


「ママと美香足りてるか?」

流石の信さんだね

「信さーん少し足りないよー」

私がメネシスに居た間に信さんとかなり信頼関係を作れてたんだね美香

「じゃあ親子裏巻を追加で」

「はい」


追加料理が出るまでに今日の反省会

色々を知った美香が

「三人はドラム缶にコンクリートで東京湾なの?」

おい美香ぁ!感覚が昭和臭凄すぎ

”昭和の時代ならそうだったかもだけど近藤さんは弁護士資格も持ってるんだ”

「今の時代は新宿でもね裏世界は昔ほど自由でないからね」

”証拠を集め警察に突き出し逮捕後に立件で検察がなあなあな対応が出来ない状態に持って行き合法的に罰を与える”

「まあ法の庇護下を逃れてる者たちが法を使うパラドクスな世界だね」

”だから近藤さんは多くの被害者キャストか関係したママから多くの情報を集め今日の実行に至ったんだよ”

なんか口がポカンの美香と梶原

”まあ今回の実施時期は七海が私に気を使ってくれたからもあるタイミングだけどね”

「惚気でなく礼子の幕引きは彩美が最適で一番ダメージを与えられるから他にも同じような事を考える馬鹿が絶対いるから見せしめも含め屈辱でも一月以上を耐えたよ私も新宿の安寧を守る一人として」


「まあ複数と言うか数十件の強盗傷害の二人と示唆した女だからの最低でも十五年で件数が多すぎなので無期もありえるかもじゃな」

あいつらは脅迫するだけでなく慰謝料って称して素直に金出さない子を暴行したり強姦して金を奪っていたマジで殺しとけばよかったって思うレベルの屑まで落ちていたとかさ

”で近藤さんは一件一件は少額でも件数が集まればそれなりの高額になる恨み晴らしのシノギを本人もあるけど被害を受けた店からの場合もで集め新宿の闇は続くんだよ”

「闇属性の彩美ちゃんが解説するとぉ凄いリアリティーだね」

おい!闇の意味が違うって!まあ空気が和んだので無罪に処すよ美香

最低でも十五年後かあ今の私にはきっと明日レベルに感じれるけど十九歳から三十四歳が最短刑期で無期なら最短で上手くいっても仮釈放まで三十年まあ頑張れ!しか言えないね

やりてババアを受け入れらるなら返り咲きの一芽あるかもだけど・・・逃した華を未練に・・・何も出来ず・・・最後は捨て値で業界しては高齢でも出来る体を使う安価風俗堕ちで・・・そこまで私が考える必要もないね


親子裏巻はなかなかの華やかさでかなり満腹でも手が出ちゃったよ

鮭のハラスを炙ったのを芯に海苔を内側に巻いた裏巻にコレでもかって!イクラが乗せられ胡麻とネギもメイッパイ散らされた太巻き

マジで至上の親子丼を巻物にしたって!・・・すいません・・・今日みたいな日は私も興奮を隠せません

てか私は一巻の半分で限界だけどぉ皆なあ二巻食べてる!食べきれなかった私の残り一巻半も美香の腹に!

「うん堪能じゃな信さんは本当に色々な店を知ってて楽しいな」

「いえいえ徳さんの穴場も素晴らしいのが多く楽しみですよ」

なんか上流世界の会話が聞こえて来るよ


旬の栗を使った自家製ジェラートと熱い緑茶で〆てアフター終了

店を出て信さんの車前

”信さん今日はありがとうございました本当に・・・”

「本当に俺も安心したよ久々に会えてやっぱし俺の一番推しは彩美だな」

”本当に皆んなありがとう”

涙が出そうなのを堪えるのに空を見上げると街の灯りで星はほとんど見えないけど雲一つない綺麗な夜空だね・・・薄く明るいけど・・・その明るさは人々が生きてる証・・・本当にいい闇だよ

”信さん!徳さんとの前に梶原とマキもお願いしていいかな”

「おう」


”認識阻害”

これで周りからは私達が普通に道端で会話してるだけにしか見えないよ

翼を出し大きく広げる

「うわ彩美ちゃん!」

「これは凄いな」

「物語にあった魔法使いの証じゃな」

右腕を七海の腰に回し左腕は美香の腰に回す

”本当に今日はありがとうございました”

翼を羽ばたかせ一気に信さんの車が点になる高度まで上がる


「空を飛んでる!」

緊張で少し体が硬くなってる美香が驚くのは普通だけど対して七海は私の首に腕を回して顔を私の顔に寄せリラックスしてるよ

数分だけど新宿の街並みが一望できる空の旅

「綺麗だねえ」

腕の力で二人を支えてる訳でないよ

回してる腕は私の制御する重力圏内から出ないように押さえてるだけ

翼で飛んでるのはイメージで実際は翼を依り代にした重力制御の魔法だよ


少し寄り道もいいよね

マンションを行き過ぎ西武新宿駅近くで高度を下げる

「えっ大騒ぎになっちゃうよ」

”認識阻害で私達は見えてないから大丈夫だよ”

高度数メーターで花道通りを西武新宿側から風林会館に向けて飛び抜ける

三時過ぎだけどまだまだ花道通りは人波が途切れず不夜城だね

「なんか凄いよ!」

美香が喜んでくれてるの嬉しいよね

七海が頬を寄せ耳元で囁く

「彩美と新宿空の旅なんて夢のようだ」


本当はこのまま高度を上げて部屋のテラスに着地で興奮冷めやらぬ三人が抱き合ってる姿から夜空にパーンアウトでエンディングロールへがアニメとかの綺麗な定番の流れですがテラスの出入り口は鍵が内側から掛かってるのでマンションエントランス近くの人目に付かない場所に着地して認識阻害を解除

なんか最後は綺麗に締まらないのは私プレゼンツだからオチってことでね

美香は四階でエレベータを降り今晩は七海と二人だけで部屋に戻る

部屋に入ると七海の濃厚な口付けから

「でもさぁ”力で手に入れた物はより強い力を持つ者が簡単に奪っていく”って無敵チートの彩美が言うとギャグにしか聞こえなくて笑いを堪えるの大変だったんだぞ」

”じゃあ全身全霊を込めて慰謝料を払わないとね”

七海だけじゃない私が大切で今の私を大切にしてくれる皆んな・・・まだ無敵チートという力がない無力な私が自力で手にした・・・それをわかってくれてる七海だから言える軽口が気持ちいいよ

前触れなく七海を御姫様抱っこする

驚くのでなく私の首へ自然に腕を回す七海

そのまま・・・寝室の扉を開けベッドへ・・・

明日の朝も足がガクガクな予感で闇は深けて行く・・・

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