幕間 大河内源蔵、無罪を謳歌する

 俺は地獄に堕ちるべき人間ではなかった。


 だから大灼熱地獄の判決が出た時は、心底納得がいかなかった。


 人を殺せと言われたから殺していた。空いた民家から物を奪ってこいと言われたから奪っていた。


 


 それのどこが罪だと言うのだろう。俺の罪は、自ら進んで負った訳ではないのだ。


 何故、それが分からないのか。何故、閻魔達はそんな事にも気がつかないのか。

 俺は灼熱の湯に沈められ、魔の者共に嬲られ、責め苦を与えられる人間ではない!


 俺の心は、ひどく憤懣としていた。


 だが、本物の神は分かってくれていたのだ。この俺が「救われるべき存在」であると。

 だから俺は灼熱の地獄から逃れられ、再びこちらの世界を生きる事が出来る様になったのだ。


 日本国はひどく様変わりしていたから、混乱したものだが。地獄と比べたら、幾分もマシだった。


 いや、最高そのものだった! 如何せん、あの悍ましい灼熱もなく、魔の者共から殺される事もないのだから!


 俺は生者の世界を生きようと決め、生者として振る舞う事にした。


 まぁ、しかしすぐに上手くは馴染めなかったのだ。自分の知る日本国とは、えらくかけ離れていたものだから。

 高度な技術が備えられた数々の物には、幾度も驚いたものだ。


 だが、一番の驚きは男と女の姿だ。


 女は楚々として男を立てるべきであるのに、高慢ちきで男を侮辱する奴がいる。男は目上の者には口答えせずに諂うべきであるのに、明らかに目上であると言う俺を面白おかしく侮辱する奴がいた。


 大変遺憾であり、心底驚いてしまったが為に、俺はその者達を殺してしまった。


 しかしながら、この俺の行いはやいのやいの取り立てられる事ではない。この日本国をあるべき姿に正す為の粛正であるのだから、罪とは呼べないのだ。


 そう。のだ。


 俺は正しい事をしているだけで、何も間違ってはいないのだから。


 罪があるとしたら、それは相手の方だ。


 だから今、地獄から追っ手として寄越されたガキ共に暴力を振っている事も、無罪である。


 コイツ等が、地獄に連れ戻そうとするのが悪い。コイツ等が、救いのない存在を見誤っているのが悪いのだ。


 この俺は、何の罪も無い善人だぞ。


 だから絶対に、地獄には戻らぬ。

 このガキ共を殺してでも、何としてでも、俺はこの世界に居続けてやるのだ……!

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