女装王妃は男装殿下と別れたい
ぶっちょさん
序章
――これは、少しだけ昔の話。
その大陸では、遥か昔から1つの大国と10数個の小国により支配されていた。
大国はすべてを持っていたが、その周辺に点在する国は何かに非常に特化し何かに劣っていた。
強欲な大国はある日考えた。大陸のすべて――小国をも含めた――を手にすることができたなら、自分たちはこの世でも有数な超大国になれるに違いない、と。
その思考は大陸全土を巻き込んだ大戦のはじまりであった。
突如として始まった大国の暴挙に、それほど親交があるわけでもなかった小国はそれぞれに手を結び戦のあらしから自国を防御するために立ち向かったり、あるいはわずかな犠牲でどうにか生き残ろうと策略を巡らせたりした。しかしそれも風前の灯火、あるいは薄氷を踏むような博打でしかなく、小国の半数以上は大国の数に物を言わせた戦術の前に敗れ去り、亡骸は次々と吸収されていった。平和的解決を望んだ小国もいつしか大国の傀儡となり果て、自然消滅していった。
大国は大きく、強靭にその力を増していった。
――いつしか戦は終ったが、あとに残ったのは傷を負いながらも生き残ったわずかな小国と肥大した大国、焼け野原になった大陸ばかりだった。
そんな惨状の中、大陸の端に存在する2つの小国はこの大戦の中でもほとんど類を見ないほどに大戦以前のまま生き残った。大国から最も遠く、同時に国土を山海に囲まれた地理的条件だったのが幸いしたのか、少なからずダメージはあれどすべてを奪われる羽目にはならなかった。
この大戦で初めて正式な国交を結んだこの2つの小国は、今まで国家としての付き合いはほとんどなく、人民や物資の移動はあれど互いを国としてみたのは初めてだった。
片方の国――スリア国の王は、生き残った城の中で山を一つ隔てた隣国であるダチルマ国を眺め思った。かの国は兵が異様なまでの強さを誇っている。先の大戦ではその戦力に助けられたものだ、と。
実際ダチルマの兵は騎馬兵や歩兵だけでなく、砲兵、水兵に至るまでがよく訓練されており、破格の強さを誇っている。対してスリア国の兵は、あちらの兵に比べると力に劣る。
スリア王は蓄えた口ひげをひねり思案する。
しかしダチルマ国には物資が乏しい。食料はもちろん、武器防具に必要な資材は輸入だよりだと聞く。現に大戦ではこちらの支援がなければどうなっていたかわからない。それはどちらの国にも言えることではあるが。
それならば、と王は子どものように目を輝かせ臣下を呼び寄せる。忠実にそばへ控えていた臣下はすぐさま王のそばへ寄り、彼の提案を聞いた。
よいですね、と臣下はにっこりと微笑み王に告げる。だろうと答えた王は老化に節くれだった指をぱきぱきと鳴らし、自らの良い発想を現実にするために立ち上がった。
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