第20話 続・魔猪の塔5F

マナによって起きた超常現象(モンスターの回復、ダンジョンの生成等)は、マナを纏っている。よって、マナを体外に放出して敵を攻撃するマジックスキルも、マナを纏っている。

それが一般的なマジックスキルの認識だ。俺もそう思っていた。


「ブオオアアアアアア!!!?」


怒り狂ったように飛刃が飛んでくる。

青と黄色の光が混在しながら飛んでくる飛刃。拳を同じようにマナと気で覆い、更に力を込める。


「ほっ」


再び飛刃を殴る。軌道が変わり、背後に新しい亀裂が走る。


“うおおおおおおおお!!”

“また弾いたぞ!”

“マジックスキルって拳で弾けるんかww”

“普通は出来ないんだよなぁ……w”

“何だ?今何を見てるんだ!?”


「んー……まだ安定しないな」


マナだけでは不十分。気だけでも駄目。マナと気を二つ使うんじゃなくて、同じ一つのモノとして扱う様に、慎重に練る。


「こうか……?」


流れを見ながら動かすのではなく、身体の一部として。

力み過ぎないように、飛刃をパリィ。


“SUGEEEEEEEEEE”

“戦いながら学習している……!?”

“スイッチがんばえー”

“スレ民も応援してるぞ”

“マジックスキル同士のぶつかり合いを見た事あるけど、スイッチがしてる事それに似てるな”


マジックスキルを受け流す度に、マナと気の扱い方が洗練されていく感覚が身体を巡る。より早く、より丁寧に、より強く。そしてそこに、己の力を加えていく。


「オラァ!」


とうとう飛刃を真っ向から殴り、吹き飛ばす。その勢いのまま、オークジェネラルに肉薄する。


「ブオッ!!」


俺が突っ込んでくるのを読んでいたのか、オークジェネラルは重心を低くし、迎撃の姿勢を取る。

斧を下段から切り上げ。それを斧の腹を蹴って避け、鎧の中心を殴る。


「ブガアアアアッ!!?」


鎧が拳の形に凹み、オークジェネラルが壁に叩きつけられる。しかし、すぐに体勢を整えたところをみるに、ダメージは然程通ってなさそうだ。


「使っているスキルは飛刃だけ。三つ星モンスターが所持しているスキルが一つだけな筈はない。ならば持っているのは恐らくコモンスキル」


固い。鎧もそうだが、その先にある肉体も拳の威力を完全に通さなかった。見た目以上の守備の高さに、思わず笑みが漏れる。


“嘘だろ!?”

“スイッチの攻撃に耐えた!?”

“今まで大体一撃当てれば勝ててたのに……”

“でもスイッチ冷静だな……”

“もしかして、まだ観察中か?”

“winner:オークジェネラルが持つ他のスキルを警戒してるのだろう。鎧が変形する程の攻撃をくらっても平然としているという事は、防御寄りのコモンスキルを有している可能性が高い”

“サンキュー先輩”

“サンキュー先輩”

“なるほどなぁ”


オークジェネラルが斧を振るう。至近距離で振るわれる暴力の嵐をかわしながら、自分のマナと気に意識を向ける。


集中しろ…飛刃を打ち消した時を思い出せ。マナと気をもっと融合させろ、身体全体を使って練り込め。拳だけじゃなく全身に行き渡らせろ。


そして……!


「打つ!」


上段から振り下ろされた斧を迎え撃つ。軽い衝撃と共に、斧が砕け散る。

まだ終わらせない。マナ、気、筋肉全てを連動し、オークジェネラルの懐に入る。


“おおおおおおおお!!”

“決めろ!スイッチ!!”

“いけるぞこれ!”

“三つ星モンスターと対等にやれてるのやべえwww”

“凄すぎてコメント出来ん”


その瞬間、異変を察知。オークジェネラルの口腔に、マナと気が集まっていく。そしてそこから、俺を中心に広範囲の何かが来ることを、魔眼が捉えた。


「ガアアアッッ!!」


雄叫びと共に、灼熱の吐息が俺に襲いかかって来た。

ファイアブレス。主に爬虫類型や鳥獣型のモンスターが獲得している事が多く、人型が獲得している事が稀なスキル。

それを魔猪の、しかもオークジェネラルが使う事など予想していなかった。


“あ”

“うわ”

“嘘だろ”

“チャーシューの意趣返しかな?”

“スイッチーぃいいいいい!!”


俺は、スピードを維持したまま無意識に手を手刀に変える。

炎ではなく、炎に混合しているマナと気目掛けて手刀を振り下ろす。

魔眼を通して分かる。ファイアブレスの練度が、遠距離から余裕を持って放っていた飛刃よりも劣っている事を。不安定な混合で放たれたそのスキルでは、マナの質も、気の量も俺に及ばない。故に……


スパンッ。小気味よく炎が分断される。視界が開け、オークジェネラルが目と鼻の先に見える。


「お前の戦い方、勉強になったよ」


オークジェネラルの膝を、飛び蹴りで鎧諸共砕く。バランスを崩し、絶叫と共に倒れ込んでくる敵へ、俺は貫手を繰り出す。狙いは、体の奥に埋まっている青い球体。


「ひとぉつッ!」


今度は鎧を貫通し、肉を断つ感触が伝わってくる。そして、『ソレ』を掴んだ瞬間、勢い良く引き抜く。


「ブモオオオアアアアアア!!!?」


「モンスターって良いね。腹ぶち抜いても、血が出ずにマナになるんだから」


引き抜いた青黒いビー玉みたいなコアをしげしげと眺めながら呟く。ビー玉よりは柔らかく、ゴムよりは固い。そんな感触だ。少し力を込めると、軽い音と共にコアが砕けた。


“ええええええええええ!?”

“炎ぶった斬ったと思ったらコア引き抜きやがったwww”

“モツ抜きエッグいなぁww”

“情報量が多いわ!w”

“はえーそんな事出来るんすねー”

“コアをピンポイントで狙ったんか!?”

“魔眼でコアの位置分かるなら便利すぎんか?”

“スイッチとオークジェネラルの戦い激し過ぎてコメント打てねえww”


「グモアアアアアアアアアッッ!!!」


膝の再生を終えたオークジェネラルが、怒りの咆哮と共に残った斧を振り回す。

しかし、二刀流だった時とは違い、隙だらけとなった攻撃は、もう見慣れてしまった。


「ふたぁつ!」


逆袈裟をカウンターで弾くと同時に手首を掴み、そこに存在しているもう一つのコアごと握り潰す。


「ボ、ガ……ッ!?」


全てのコアを失ったオークジェネラルは、さっきまでの激しい動きを止め、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。その巨体が、マナとなって俺に吸収されていく。


「ありがとう。お陰様で、強くなれたよ」


オークジェネラルがいた場所に頭を下げる。


その瞬間、俺が入って来た扉が、まるで俺を閉じ込めるかの様に閉まった。そして、オークジェネラルが護っていたであろう場所に扉が現れ、まるで俺を歓迎する様に開く。


「さて……ここからか」


長いようで短かった旅の終点が、いよいよ見えて来た。ようやく、俺の本当の目的にいける。

最期になるだろうし、少しコメントの皆とお喋りしようと画面を見る。


“うおおおおおおおおおおおおおお”

“すげえ!スイッチやるやんけ!”

“不意打ちスキルにも対応出来てたし……あれ?新人…だよな?”

“今のスイッチなら勝てるんじゃね?!”

“え、マジで強いやん”

“winner:三つ星クラスのコアモンスターに完勝するとは流石だね。私が見込んだだけはある”

“先輩もよう見とる”

“先輩動じてないな。もしやダンジョンアタッカーの中でも上位クラスなのでは?”

“スイッチー!スレ民もお前の活躍見てるぞー!”


「おお、皆さんありがとうございます。先輩もありがとうございます。スレ民の皆ー、俺頑張ってるよー」


“イエー!”

“手振ってる。可愛い”

“ワンコ系イケメンね”

“スレ民ってdちゃんの?距離近いな”

“スイッチはdちゃんから生まれた配信者だからな”

“dちゃん民に理解ある配信者。それがスイッチだ”

“スイッチー。レベルアップしたんじゃない?”

“winner:一つ星と三つ星のモンスター達をソロで倒したのだから、レベルアップしてると思うよ”

“サンキュー先輩”

“サンキュー先輩”


「あ、確かにそうですね。次で最期ですし、色々整理しますねー」


スキルかー。確かに色々覚えても良いよな。特にオークジェネラルは強かったし。

スキルカードを画面に映し、俺も中身を確認する。


『覚醒』『魔眼』『適応力』『筋強化』『飛刃』『纏魔気鱗』


「…………???」


何か、見た事無いのがある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る