第19話 魔猪の塔5F

“ニュアンスがおかしいと思ったら、ガチで死ぬ気だったのね”

“そら死にたくもなるわ”


「だから、ここのダンジョンに出てくる『奴』の動画を載せれば、DAGへの貢献になると思ったんですよ」


“なるほどね”

“意外と考えてるんやな”

“意外は草”

“まあ言動がアレすぎて、マトモな考え持ってるなんて思わないし……w”

“一般的な感性と倫理観は持ってるぞ。それ以上に頭がアレなだけで”


「じゃあいよいよ、5階層ですねー」


椅子にしていた魔猪の兜をバッグに入れ、階段を登っていく。


“winner:オークジェネラル。魔猪の塔のボスモンスター。強固な重装備に身を包み、斧を使った近接戦闘を主体とする。しかしマジックスキルを取得しているので、距離をとっても油断する事は出来ない。ギルドが指定する三つ星クラスの危険度を誇り、コアの数は2個”

“サンキュー先輩”

“サンキュー先輩w”

“コア2個!?1つだけや無いんかい!”

“ザ・オールマイティやね”

“シンプルに強いんだよな”

“強いコアモンスター程、コアの数も多いよ”

“三つ星の時点でスイッチより格上なんだよな”


「先輩ありがとうございます。コアモンスターはダンジョンアタッカーと同じように、強さで星のランク付けがされてるんですよ。さっきのオークソーディアンとチャーシュー……オークソーサラーは一つ星です。俺と同じですね」


“スイッチと同じなんか”

“同じ……?”

“やめてくれ。一つ星ダンジョンアタッカーのハードルが上がってまう”

“お前と一緒にするな”

“winner:実際、スイッチ君は最低でも四つ星相当の実力があると思うよ”

“マジで!?”

“覚醒は当たりスキルだったんか”

“振り幅は個人差があるし、相当の地獄を潜り抜けないと獲得できないレアスキルだ。顔付きが違う”


スレ民と会話していたら、いつの間にか扉の前まで来ていた。体力が戻ってから、ホントに体が軽くなったなあ。


「じゃあ、今回は敵にも見せ場をあげましょうか」


“謎の上から目線草”

“油断すんなやww”

“スイッチの目的からしたら確かに通過点だけどさぁ……w”

“まあさっきの動き見たら、危うげ無く勝ちそうではある”

“やってみせろよ、スイッチ!”

“オークジェネラルだと!?”

“負ける訳がない!”

“フラグ立てんなw”


「うん、スレ民も通常運転ですね。逝くかー」


最早俺の進行を諌めるコメントは無く、適当にボケてツッコミするだけとなったスレ民達に、思わず笑みが溢れる。

扉を開けると、もう見慣れて円形のフィールド。その最奥に、まるで行手を遮る門番の様に、ガチガチの装甲に身を包んだオーク……オークジェネラルが腕を組んで俺を睨みつけていた。


“ひゃっ……”

“今の笑顔すっごい良かった”

“イケメンがガチ恋距離であんな風に笑ってくれたら、そりゃ堕ちますわ”

“距離が近くて男でも惚れそうになるわ…”

“スクショした”


「ん……?」


まずは相手の出方を見ようと、お互いに睨み合いになる。すると、不思議な事に気付いた。

マナと気を見る(と思われる)魔眼は、マナで構成されているモノを青い光で認識する。その魔眼が、オークジェネラルの体内に、青いビー玉程の球体がある事を捉えた。それも2つ。


「アレって……」


思考を巡らせるより早く、敵が動く。

オークジェネラルが、地面に刺していた俺と同じくらいの大きさの斧を担ぐ。体内の球体から光がオークジェネラルが持つ斧へ流れ出す。

瞬間、黄色い光が斧と俺を結ぶ様に伸びてきた。青い光は斧を通じて黄色い光と混ざり合いーー


「ブモアッ!!」


飛刃ひじんッ!」


 俺の上半身と下半身を泣き別れさせる様に、横一文字の斬撃、マジックスキル『飛刃』が飛んでくる。それをジャンプでかわし、更に敵の出方を伺う為に軽く動く。


「アアアアアアッッ!!」


斧を二刀流にして、オークジェネラルが飛刃を乱舞させる。縦、横、斜め、十字……幸い一つ一つは振りが大きいし、軌道も分かっているので避けやすい。


コイツからは、色々な事を教えてもらえそうだ。


“うわあああああああああ”

“あ、これ無理や”

“こんなの近付けねえわ”

“威圧感やべえな……”

“魔眼で気も視えるんだっけ?それ無かったらもう八つ裂きやろ”

“これが三つ星ってマジ?”


「………」


見る。視る。観る。

マナと気の流れ、身体の使い方とそれに従って巡るマナ、攻撃、重心……そして、俺の身体を巡るマナ。


“スイッチ避けるだけで手一杯やんけ!”

“あんなイキってた割に大した事ないやんww”

“winner:これは観察してるだけだね”

“いやいやいや”

“そんな余裕ある訳ないやろw”

“声出す事も出来んくらい追い詰められてて草”

“新人くん、これに懲りたら調子乗った発言やめよーなー?ww”

“コメントで持ち上げられ過ぎてて笑える。どこが強いん?”


「ボアアアアッッ!!」


飛刃が袈裟斬りで飛んでくる。


「ほいっ」


マナと気で固めた拳で『マナで作られた』真空の刃を殴り、軌道を逸らした。背後の壁に亀裂が走り、ちゃんと敵のスキルを逸らせている事を確認する。


“は?”

“え?”

“は?”

“は?”

“え?何した?”

“殴ったwww”

“スキルを殴って攻撃を逸らしたぁ!?”

“ウッソだろおまえ”


驚きで目を見開いているオークジェネラルを尻目に、スキルを殴った手をフリフリ、グーパー。


「うん、うん。なるほど、ありがとうオークジェネラル。この眼とマナの使い方が段々分かってきた」


“winner:やはり、魔眼の検証をしていたんだね。尤も、スキルを殴り飛ばすのは予想外だったが”

“先輩スゲエエエエエエエエエエエ”

“スイッチのやってる事お見通しだったんか!”

“流石の先輩でもスキル殴るのは予測出来なかったか…w”

“出来るかあんなんww”


「まだ色々試したい事があるんだ。だから……





死なないでくれよ?」


“ヒエッ…”

“コッワ……”

“本物の殺意ってこんなハッキリ分かるんだな……”

“スイッチ、たまにガチモード入るよな”

“風格が新人のそれじゃない”

“調子乗ってさーせんした”

“スイッチがコメント見てなくて助かったニキ多そうww”

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