第11話 魔猪の塔3F
視界がボヤける。足元がこんにゃくみたいだ。
青い光が俺を包んでいる。水の檻に囚われているかの様に体が上手く動かせない。
俺は今、階段を登っているんだよな……?
“スイッチ、おまえ……”
“コイツ、もう意識が…”
“winner:3階層のモンスターはマッハショット。魔猪の塔では最もだが、恐るべきはそのスピード。名前の通り、マッハスピードで突進してくる為、対抗策が無いとそのまま身体を爆散させられて終わる”
“あの、戦う前に死にそうなんですが……”
“もう米欄すら観れてねえよスイッチ…”
「…ぁ……」
あ、落ちる。
頭では理解してるのに、体が動かない。スローモーションの様に、視界が天井を向いて…
「……っ!?」
頭に衝撃が走り、世界が明滅する。
酸素が一気に全身に巡っていく様に、感覚が戻っていく。
“うわ”
“モロに落ちたやん”
“スイッチー!”
“しっかりしろ!ここまで来ただろ!”
“winner:いや、ガトリングシェルに挑む前から既に限界はきていたようだ。今思えば、私達のコメントを拾ってなかったのは、もう拾える程に彼の体力は無かったんだろう”
“サンキュー先輩、じゃあスイッチはもう…”
“頼む…生きててくれスイッチ……”
「…ああ、配信してたんだっけ………」
そうだ。スレ民の皆に死に様見せるって言って、配信してたんだっけ……?今から1階層、いや階段登ってるから2階層…?
「………えー…………スレ民の皆、こんばんわ。スイッチと言います」
“虚な目のイケメンがいるううううううう?!”
“顔色ヤバっ。死にそうやんけ”
“スイッチ……”
“ん?眼の色変わってね?”
“初見です。魔猪の塔ソロって聞いて来ましたけど、どこまで行く予定ですか?”
“新人が無謀な挑戦してると聞いて”
「あー……階段登ってるんで、これから2階層に向かっていますね。良ければ、見ていって下さい」
“ん…?”
“あれ?”
“スイッチお前……”
“意識飛んでるやんけコイツ”
“※実際は3階層です”
“意識ないなってて草なんだ”
“人って執念だけであれだけ動けるのか”
身体の至る箇所に鉛が入ってるみたいに重い。それでも壁を這いずる様に階段を登っていき、長い時間をかけて扉の前に立つ。
「はぁ………はぁ…………行きます…」
中に入ると、俺の膝くらいまでの大きさしかない猪がいた。
「あれ…2階層って、ガトリングシェルじゃなかったっけ……?」
“これ大丈夫か?”
“ダメそうですね…”
“まだ完全に意識戻ってねえな”
“しっかりしろスイッチ!”
“頑張ってくれとしか言えねえ……”
“あれ、確か眼って片方の色白だった気がするんだけど”
確かガトリングシェルって、貝殻みたいな体毛に覆われている猪の筈なんだけど……イレギュラーとか言われる個体なのか?
「ん……?」
敵から黄色い光が真っ直ぐ俺に向かって飛んでくる。何となく嫌な感じがしたので、光を避ける様に体を横に引く。
パアンッ!!
“ふぁっ!?”
“消えた!”
“winner:今のがマッハショットの突進。あの質量をマトモに受けたら、中堅のダンジョンアタッカーでも無事には済まない”
「おー……」
破裂音の後に凄い音がしたと思ったら、いつの間にかチビ猪は扉を破壊して壁にめり込んでいた。
音速を超える時って確か、あんな音が出るんだっけ。
“外れたの奇跡だな”
“外れた?外した?”
“スイッチ横に避けた気がしたが…”
“winner:無意識かもしれないけど、彼は突進を避けているね。さっき入手したかもしれない魔眼のスキルが関係しているのかもしれない”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩”
“ああ、スイッチが上見て「綺麗」って言ってたやつ?”
“確かにオッドアイの眼の色が白→紫になってたな”
“俺、今でもスイッチが完全にイカれたと思ってる”
“もしマジで魔眼スキルなら、どんな効果なんだ?”
チビ猪はすぐさま壁から体を引っこ抜き、俺に向き直る。すると、また黄色い光が真っ直ぐ俺に向かってきた。
「くう……!」
光を再び避けようとするが、体が上手く動かない。倒れる様に光から逃げると、また破裂音と共に突風が俺の横を通し過ぎていった。
“やばいやばいやばい”
“スイッチ逃げろ!”
“こ無ゾ”
“マッハで追いかけてくる相手に逃げれる訳ねえだろwww”
“まあ、こうなるよねっていう”
“またかわした?すげーな”
ヤバい、さっきと違って激突音がしない。また来る。
「ふっ……ふっ……!」
前方に這いずって逃げる。破裂音と突風が、俺の背中を掠めていく。
でも破裂音が弱い……気がする。何とか上体を起こし、チビ猪を視界に収める。
黄色い光が俺を貫いていた。咄嗟に横に転がる。
パァンッ!!
“うおおおおおおおお”
“凄え!また避けてる”
“winner:やっぱり敵の次の行動が視えているね。魔眼の能力だとすると破格の性能。だけど……”
“今のスイッチじゃ…”
“避けるだけで精一杯なのに、反撃する余力なんてないだろこれ”
避ける。
避けれた。
体が動かない。でもはずせた。
立て。立って敵を……
「あれ……?」
敵が、見えない……
パアンッ!!
「カッ…………!」
“スイッチいいいいいいいいいいい”
“うわあああああああああああああ”
“あ、死んだ”
“いやよう頑張ったよ、マジで”
“流石に無理だったかー”
“てか攻撃くらったの、ダンジョンアタック始めて初めてじゃね?”
“マジか”
“そうなんか。ガチの有望株だったのか”
“うーん惜しい”
“スイッチ……マジかよ…”
“せめてスキルの性能教えてから死ねよ。使えねーな”
横っ腹に凄まじい衝撃。自分の体がゴムの様に跳ねて壁に激突するのを、どこか他人事みたいに感じていた。
「………ってえな……!」
痛みが、徐々に俺の意識を覚醒させていく。あやふやだった世界が色を取り戻し、俺に一撃をかましてくれたチビ猪の姿をはっきり捉えた。
“え?”
“は?”
“え?”
“嘘やろ!?”
“生きてるううううううううううう”
“スイッチ!!生きとったんかワレェ!!”
“あれくらって生きてるのヤベエwww”
“体無事なのか?!”
「そうか……!お前、マッハショットか…」
そうだ、思い出した。俺が何者で、今何をしていたか。
そして今、何をすべきか……!
「お前を、殺す……!」
“コッッッッッッッッワ”
“よう言うたスイッチ!それでこそ漢や!!”
“ここまでガチな殺害予告初めて聞いたわ…”
“鳥肌立ったわ”
“イケメンの冷酷な顔って良いよね……”
“↑この状況のお前の精神が羨ましいわ…”
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