第10話 続・魔猪の塔2F

ガガガガガガッッ!!!


“マ?”

“無理やろ”

“お前新人だろ。流石にパワーあっても無謀すぎ”

“自信過剰過ぎな。力の差も分からん馬鹿はミンチにされちまえ”


耳が痛くなる程の轟音を背に、マシンガンの攻撃を耐える。


「弾を撃ち切るまで……」


シン…と衝撃と音が止む。


「……今っ!」


バッグに入れていたイジェクションボアの骨を投げ、遅れて反対へ飛び出す。


ズガガガッッ!!


骨が地面に落ちる前に粉微塵に砕かれる。


やっぱり、フェイクだったか。

さっき撃っていた弾丸の数は90発。撃ち尽くすのにかかった時間は約7秒。最初に計っていた数と時間が合わない事から、奴が余力を残していた事は明白。ならば次は、俺が出てきたタイミングで残りを撃ってくるだろうとフェイントを入れたら、案の定それに引っかかってくれた。

砕かれた骨を横目に見ながら、敵を視界に入れる。



「いた…!」


フィールドの端、次の階層への扉の前に、赤い肉を丸出しにした猪を見つける。銃弾として使われていた貝殻の様な体毛が、凄まじい速度で肉体を覆っていく。


「シッ!」


握っていた弾丸……ガトリングシェルの由来となった貝殻の様な体毛……を全力で、水切りの要領で投げる。弾丸は手裏剣の様に飛び、ガトリングシェルの左目を抉り、中まで深く突き刺さった。


「プギャアアアアアアアアアッッ!!!?」


絶叫が響く。潰した目の死角に入るように駆け出す。


「はっ、ハッ…!」


クソ、走ったらすぐ息があがる。コイツを相手に足を止めるのはまずいのに…!


「プブルルル!!」


ガトリングシェルが大きく息を吸い込み、姿を消した俺を蜂の巣にしようと、鼻の穴から体毛を連射し始める。ていうか、そこから発射してたのね…。


「……ッ!」


バッグからまた骨を取り出し、また投げる。今度は、ガトリングシェルの右目の視界を素早く横切るように。


「ギュウウウウウ!!」


ビンゴ!焦りと怒りで我を忘れた奴は、骨に照準を向けてくれた。

その隙を逃さず、奴の死角から近付く。


「死ね」


拳を固め振り抜く。狙うは、奴に深く突き刺さった貝殻状の体毛。

固い感触と共に更に深く、深く……深く刺さった体毛は、ガトリングシェルの生命活動を止めるのに十分だったようだ。


頭を揺らし、地面に沈むガトリングシェル。数秒経ち、肉体がマナになり俺の体に吸収される。


“うおおおおおおおおおおおおお”

“マジか!絶対無理だと思ったのに!”

“スイッチようやった!!ようやった……!”

“今の「死ね」、めっちゃ怖かった……”

“背筋が寒くなった。何だ今の”

“期待の新星じゃん。このダンジョンアタック成功したらチャンネル登録したるわ”


「…………」


“おーい、スイッチ?”

“どうした?”

“あれ?画面止まった?”

“動け動けー”


………。


“…え?”

“スイッチ……?”

“嘘だよな…?”


………………


“起きろスイッチ!!”

“起きろおおおおおおおおおおおお”

“気付け気付け気付け気付け気付け気付け”

“嘘だろおおここまで来たのにいいいい”

“スイッチいいいいいいいいいい”


「………………ぁ……?」


気付いたら、膝立ちになっていた。

俺、何してたっけ……。


“生きてるううううううう”

“セーフ!!”

“スイッチ生きてた!”

“良かった……スイッチ…”


……ああ、何か戦ってたんだっけ。頭痛いな、内側から殴られてるみたいだ。

あ、素材ガチャ……。


「……肉、無い………」


“最初にそれかよw”

“あれ、赤貝落ちてねえ?”

“うわ、レア素材じゃん!!”

“大当たりー”

“winner:ブラッディシェル。ガトリングシェルが落とす非常に珍しい素材で、その深いルビーの様な美しさから宝石として用いられる事も多い。また滋養強壮にも効き、煎じて飲む事で3日間不眠不休で働き続ける事が出来ると言われている。ギルド査定は150万円”

“スイッチやったぞ!”

“おめでとうスイッチ!!”

“今日は焼肉や!ww”


敵がいた場所を探しても、赤い貝殻以外何も無い。床を叩いても、周りを見ても、他には何も落ちてなかった。

仕方なく、落ちている赤い貝殻をバッグに拾い、次の階層を目指そうと立ち上がる。


「…お、ぁ……?」


何か見える、というか……視える…?


“スイッチどした?”

“生きてるのは良かったけど、おかしくね?”

“大丈夫かスイッチ”

“コメントみろー”

“スイッチー起きろー”


ダンジョン内が青い光で覆われている。天井、壁、床……まるで、銀河の海の中にいるみたいだ。


「……綺麗だ…」


“スイッチ……?”

“おい……おい!”

“やべえぞ!スイッチの意識戻ってねえ!”

“餓死寸前じゃん”

“winner:いや、これはスキルを獲得したのではないか?”

“スイッチ…お前……眼が!!”

“いやいやいやいや”

“その前にスイッチ多分栄養失調で気絶してるからな?!”

“スイッチ頼む!!俺達に何が起きたのか教えてくれ!”

“コッチヲミロオオオオオォ”


………疲れた。

でも動かないと……先に進まなきゃ、飯が食えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る