第8話 魔猪の塔2F
螺旋になっている階段をゆっくり登る。
小休止を挟んでも、体力が殆ど戻っていない事を、壁に手をついてしまう度に実感する。
「ふぅ……ふぅ………」
グゥウウウ……!!
“winner:2階層のモンスターは、ガトリングシェル。身体中を貝殻が覆っていて、それをマシンガンの様に飛ばしてくる。貝殻の数は有限、一度撃ち尽くしたら柔らかい肉しか残ってない”
“サンキュー先輩”
“でもスイッチの調子がなぁ…”
“フラフラやんw”
“大丈夫かこれ?w”
“ソロでモンスター一匹狩れただけで上出来だよ。戻っても誰も笑わない”
「嫌です…!帰りません……!!まだ何も、出来て…ない……!」
……そうだ。俺は何の為にここに来た。
「スレ民との約束……俺は、スレ民に死に様を見せると啖呵を切ったんだ…」
突然失われた俺の日常。俺の家族。
仲が悪い両親だった。いつも俺を仲介してコミュニケーションを取る様な、冷たい家庭。
でも……二人共、優しかった。俺が泣いた時は慰めてくれたし、誕生日にはケーキとプレゼントをくれた。二人が違うケーキ買ってきて、「こんなに食べれないよ」なんて笑いながら、一緒に食べたっけ。
だから…これは、俺の意地だ。
俺は俺の日常が奪われた事が許せない。でもそれ以上に……俺の両親が、『D災で死んだ被害者の一人』にされてしまった。それだけが、ただただ悔しい。
二人は俺の……
このまま、心までダンジョンに屈したくはなかった。
「あの人達に、俺がどこまで行けたのか、どれくらい強かったのか、見せつけてやらないと…はぁ……はあ…!そしたらさ、死んだ時に父さんと母さんに自慢出来るじゃんっ……?二人の息子は頑張ったよって、伝えたいし…」
“スイッチ……”
“やめてくれよ……”
“まるで遺言じゃねえか”
“ええ子や……”
「どんな形だっていい……。皆に無様だって……笑われても…俺は『俺』が生きた証を誰かに刻みたい……」
「そしてあわよくば俺を見捨てた親族にこれを見せつけて、『お前達のせいで人が死んだぞ』って罪悪感を植え付けたい……!!!」
“草”
“報復の仕方が邪悪すぎる”
“遠回り過ぎて大草原
“うーんこれはdちゃん民”
“いいぞ、ダンジョン出たらボッコボコにしたろうぜww”
“winner:感動を返せ”
“先輩ブチギレやんwww”
“台無しだよぉ!!!wwww”
“ ア ホ く さ ”
“コイツほんまww”
「あ、先輩助言ありがとうございます、助かります。大丈夫です、先輩の顔に泥を塗る気はないので。俺が死んだ時は先輩のせいじゃない様な戦いにするんで」
“winner:ブッコロス”
“こわいこわいこわいw”
“ヒエッ…”
“スイッチもう喋んなwww”
“お前さあ……お前さあ……ww”
「…あれ?」
先輩にお礼を言いながら登っていた足を止める。
「……これ、扉……壊されてる」
大きな物体が突撃してきたかの様にひしゃげて階段に転がっているが、確かにイジェクションボアと戦う前に見た扉と同じ。
これが既に壊されているということは……
「ッッ!!」
階段の影に身を潜める。数瞬遅れて、俺のいた場所が小さく、だが豪雨の如き勢いで抉り取られていく。勢いは衰える事なく、俺が隠れる壁まで抉っていく。
“あああああああ”
“また不意打ちかよ!”
“スイッチ、マジで運ねえな…”
真綿で首を絞められる様に、ジリジリと影が無くなっていく。
しかし、壁が全て削られる前に凄まじい音が聞こえなくなる。どうやら、全ての弾を吐き出し切ったようだ。
「……弾丸は100発。撃ち尽くすのにかかる時間は8秒か」
“うん……うん?”
“は?”
“数えてたの?今の状況で?”
リロードに何秒かかるか分からない。すぐさま飛び出して『ある物』を掴む。
「よしっ」
壊された扉。1階層で触った時点で鉄製だということは分かっている。そして何より……
「お前、この扉突進で壊したろ」
弾丸で破壊された壁や床は、小さく抉られるような痕が無数に存在していた。しかし、この鉄扉は大きくひしゃげているだけで、その様な痕は無い。
「つまりお前の弾丸は、鉄を壊す程の破壊力はない。だから先に、扉を『吹っ飛ばして』おいたわけだ」
“マジか”
“今の攻撃だけでそこまで分かったのか!?”
“天才かよ…”
“馬鹿と天才は何とやら”
“何だ?スイッチがカッコよく見えるぞ?”
“眼科行け”
“どっちに対しても辛辣なの草生える”
ギュリュルルルルルルルル……!
「ぅ……クソ…!」
“winner:ダンジョンの扉は丁番が付いている間は人の手でも押せる程軽い。しかし、丁番が外れると本来の重量を取り戻した様に重くなる。現在スイッチ君が持ってる鉄扉だと200キロは超えている筈”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩”
“200キロの扉を持てる新人ダンジョンアタッカーって何…?”
“いや持ててないぞこれ!力入ってねえ”
分厚い鉄扉を持ち上げたは良いものの、空腹のせいで力が入らない。結局、床に置いて立てることで、盾としての体裁を保つ。
ガガガガガガッッ!!
「ぐっ……!」
盾にした鉄扉を抉ろうと、轟音と衝撃が伝わってくる。腕だけで踏ん張りきれず、体全体を使って盾が倒れない様に支える。
「リロード時間、さっきの奴より早くねえ?ふざけんな……!」
こっちはまだ敵の姿すら見れてないんだぞ畜生。
イジェクションボアとは違って攻撃力より連射に力をいれてるな。
いや猪なら突進して来いよ。
俺が盾から様子を伺ってる事を懸念してる?
ひたすら遠距離から仕留めようとしてるみたいだ。
「……!」
思考が混濁する最中、ある閃きが浮かぶ。
俺は一瞬だけ手を盾から出し、弾丸を掴んで引っ込む。
「……よし、分かった」
“これジリ貧じゃね?”
“鉄扉盾にしてたら逃げることも出来ないねえ”
“一瞬でミンチにされるわこんなん”
“スイッチ、何か思いついたんか?”
「次、連射が終わったら。アイツを殺しに行く」
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