第7話 魔猪の塔・小休止
「お、あー……」
ヤバい、頭が働かない。
“おーマジでオッドアイだ”
“初見でーす。イケメンな新人さんが配信してると聞いて!ww”
同時接続者50人…?
このコメント…スレ民じゃないよな?
何でこんな集まってるんだ?
俺なんて正真正銘、無名のダンジョンアタッカーだぞ?
あ、挨拶しなきゃ…!
グルルルルゥ……
「えーっと……初めて見てくれた人こんばんわ。昨日ダンジョンアタッカーになったスイッチです。よろしくお願いしうっ……!」
グゥウルルルルルルゥ……!!
激しい運動したから、体が今まで以上にエネルギーを求めている。
こ、こうなったらイジェクションボアの素材から肉が出るのを祈るしかない…!
“今の腹の音か?w”
“うるさっ!?”
“さあ、素材ガチャの時間だ…”
“ちゃんとご飯食べた?”
イジェクションボアの輪郭がボヤけていき、肉体を構成していたマナが塵となっていく。塵となったマナは俺の体に吸い込まれる。
モンスターはマナで作られた生命体。死体はマナとなり、まるで新たな宿主を探すようにダンジョンアタッカーに宿り、新たな力となるのだ。モンスターは死体を残さない代わりに、肉体か装備の一部をその場に残していく。
通称素材ガチャ。出てくる物は完全にランダムなのだが…
「骨と……デカい白身?」
“はいハズレ”
“終わり!解散解散”
“winner:白い肉の塊は魔猪の獣脂。食料ではないが、燃料として換算すれば1キロで乗用車のガソリン満タンくらいの量はある。ギルド査定はキロ単位3000円。骨は100円”
「そ、そんな…先輩……」
どんな部位でも良いから、食料になるものが欲しかったのに……!先輩からの非情なコメントに、思わず項垂れる。
ぎゅるるるるるるる………
「うぅ……思い出したら腹が…!」
“どうしたどうした”
“初見さん、この人衣食住の食住ないんすよ”
“うせやろ…?”
“じゃあさっきから鳴ってる腹の音ってガチなんか”
「こ、ここはこれで……!」
ギルドから支給された簡易バッグ(新人は必ず貰える。しかしギルドでは1万円でもっと良いバッグを買えるので、金に余裕がある人はさっさと買い替える)から、ある物を取り出す。
“おん?”
“何それ”
“木の枝?”
「これはですね……唯の葉っぱです」
“は?”
“何で素材でもないゴミ持ってんの?”
“まさか……”
“winner:嘘でしょ…”
「ダンジョンに入る前に、近くの木の枝を折って入れてたんです。地面に落ちてる葉っぱは、土とか虫が付いてたりするんで」
ムシャリ。口の中に青臭い葉っぱ独特のえぐみが広がる。
“たwwwべwwwたwww”
“まさかの食用かよwww”
“うわあああああああああ”
「ゔっ……オエ…!」
吐きそうになるのを必死で堪える。すぐさま水を飲み、大量の唾液と共に喉の奥へ流し込む。
「んっ……ふ〜〜ぅぅうううう………」
“ガチで草食ってるやん”
“ゲテモノ系目指してんの?”
“これ、スイッチを知ってる側からしたら辛いなぁ…”
“頑張ってくれスイッチ”
胃が少し満たされ、腹の音が小さくなる。
気休めでしかないが、今はこれで乗り切るしかない……。
「えー改めてこんばんわ。スイッチと言います、よろしくお願いします」
“イケメンが苦しそうに何かを飲み込む……イイネ!”
“今の…叡智じゃん?”
“変態おって草”
“今どこ?”
「今は魔猪の塔の1階層をクリアした所です。これから2階に進んでいきます……あ、牙折れてる」
コメントから目を離し、モンスターのいた場所を見ると、モンスターにトドメをさした牙が先端から3分の1くらい折れてしまっていた。
「まあしょうがないかぁ……一応、モンスターが切り離した部位も素材扱いになるけど、骨と同じで殆ど金にならないんだよなあ」
ボヤきながら、壁や扉に刺さった牙を抜き、バッグに閉まっていく。折れた奴は……先端だけ懐に入れて、残った3分の2はバッグに入れとこう。
“金ないの?”
“金稼ぎの為にダンジョンアタッカーになったのか”
“女遊びに使ったんか?イケメンだしめっちゃ女食ってそうww”
“金どころか家も無いぞ”
“その辺の葉っぱ食ってる様な奴だぞ。女どころか普通の飯食う余裕すらねえよ”
“誰も片手で牙抜いてる事に言及しないのは草なんだ”
「レンタルした機材の料金8万円、スマホの通信料大体5000円……食費……寝床………」
ヤバい。お金の事考えると泣きそうになってきた。同時に、腹が騙された事に気付いてまた空腹を訴えてくる。
“極貧なのに、最初に出てくる金の使い道がレンタル代なのね”
“言動がおかしいだけで、根は普通に善人なんだよな”
“魔猪の塔って事はパーティやろ?取り分も少なくなるし、お金欲しいならもっと敵倒せるダンジョン行けば良いのに”
“ソロだぞ”
“先輩の垢から見に来てる人も意外といるな。やっぱ被写体がイケメンだと食い付き良いのか”
「あー……」
なるほどなあ。初見の人がどんどん来ると、こういう事になるのか。
ていうか先輩?同接増えたの先輩が理由ですか?何で拡散してくれてるんですかありがとうございます。
「……よし。先輩、スレ民の皆お願いします」
“草”
“丸投げすんじゃねえwww”
“これはお前が始めた物語だろ”
「一つ言えるのは、俺は文字通り『死ぬ気で』このダンジョンにソロで挑んでます。どうぞ、ゆっくりしていって下さい」
“は?”
“何だこいつ”
“一つ星ダンジョンアタッカーがソロで魔猪の塔?正気?”
“winner:良いよ。キミの選択を尊重しよう”
「先輩……ありがとうございます」
さて、体は相変わらず疲れてるけど、そろそろ先に進まないとな。
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