幼馴染に「好きにしていいよ」と言われたので好き勝手にしたら好きになっちゃいました。
そうなんです!!
第1話 ファーストキス
「私を好きにしていいよ」
真っ白のマットレスの上。私は幼馴染と…。
好きにして、なんて言われたら、幼馴染にだって変なことをしてしまいそうだ。それは単純に私の幼馴染、
青紫色の髪は艶があって、顔立ちがいいのはもちろんのこと、身長は平均並みだけどスタイルがいい。
私だって胡春が異性から何回も告白されているのを見ている。
だからちょっとエッチなことでも、嫌ではない…はずだ。
<数分前に遡る>
「ねぇ。亜希は彼氏とか作らないの?」
私の家で胡春はジュースをゴクリと飲みながら聞いてきた。最近というかここ数年、学校帰りにどちらかの家に行くのが日課なのだ。
私の名前は
「彼氏ね…私はそういうのいいかな」
私は今の生活に十分満足している。胡春と話している時間は楽しくて私にとって特別だ。
「そう?欲しいって思ってるんじゃないの?」
「なんでよ」
「だって私が告白されているとき、羨ましそうに見てたから」
胡春が告白されているときに影から見ていたのは事実だ。でもそれは決して羨ましいと思っていたわけではない。ただ私の幼馴染の相手に相応しい男かを見極めようとしただけだ。
「別に。まあキスとかはしてみたいって思ったことあるけど…」
きっと王子様のような男の人とのキスは輝いている。幼い頃からの憧れとして美化されているだけかもしれないが、今でも憧れている。
「ヘンタイだね」
「いやいや。おとぎ話みたいな恋に憧れることくらいあるでしょ」
胡春はうーんとなにかを考える。
「そこまで言うなら…私を、好きにしていいよ」
「えっ」
誰かを好きにするなんて意味がわからない。きっと私に
私は胡春と真っ白なマットレスの上にいた。胡春の顔は朱に染まっていて煽情的に見えてしまう。幼馴染という、親友以上家族未満な関係。このドキドキは押さえなきゃいけないのに、跳ねる心は収まらない。
「好きにって、なに?」
「さっき亜希がしたいって言ったこと、私にしていいよ」
さっき私がしたいっていったこと、それは、キスだ。もちろん胡春としたいという意味で言ったわけではない。
「なんで…胡春に?」
「いいじゃん。幼馴染なんだから。それくらい普通よ」
それが普通と言われたらそうなのかもしれない。
幼馴染という関係性は特別で変えの効くものではない。だけど、キスをするのは恥ずかしくて、憚られる。
「そうなのかな…」
「うん。ほら亜希、してちょうだい」
胡春は私のベットの上に横たわる。起伏のある体のせいで胸が強調される。もともと同じくらいのサイズだったのに、今では私のものよりも大きい。それは身長だって。
「なんでその体勢になるの?」
「この方がキスしやすいかと思って」
めっちゃ乗り気じゃん、と突っ込みたくなる。
青紫の髪は絵の具のように、真っ白なマットレスの上に広がる。真っ白な脚は美しく、魅惑の何かを感じる。
幼馴染だから動揺するのは違う気がするが、ちょっと緊張する。それは胡春が可愛いからかそれとも…なんだろう。
「ホントにするの?」
「うん。なんならそれ以上まで、好きにしていいよ」
「いやいや。それ以上は恋人同士がすることでしょ!」
好きにしていいよとは酷い言葉だ。決定権を全て押し付けるような気がしてならない。それでもここで引くのは負けな気がするので踏みとどまるつもりはない。
「じゃあしていい?」
「お好きにどうぞ」
胡春の余裕綽々とした笑み。私の動揺。胡春の真横から、彼女の頬をそっと押さえる。
「あっ…」
控えめだけど跳ね上がるような高い声。ただ頬を触るくらい、いつもやってることなのに。
「変な声出さないでよ」
ごめんごめんと軽く謝る胡春の頬は少し熱い。緊張しているのだろうか。
「じゃあいくよ」
そう言って真横から顔を胡春の方へ近づける。ショートケーキのような甘い、いつもの胡春の香りがする。
そっと唇をくっつける。
胡春の香りがさらに強くなって、息をする音が聞こえて、いつもは見るだけのぷるんとした唇は生暖かくて、そして少し湿っていて、不思議な感じだ。
世の中の幼馴染はこんなことを平気するのだろうか。
「うぅ」
うめき声のような胡春の声。
私の真っ青な髪は胡春の上で踊る。
「嫌だったの?」
「いや…全然。むしろ嬉しかったよ」
「それは…困ると言うか…」
胡春は絶対に嬉しかったなんて思ってない。いつもの延長線上で私を少しからかっただけ。
そのはずなのに、ちょっとこの感触はクセになりそうだ。
いつもより胡春が近くにいて、私のものだって思えた。そのときの胡春はきっと五感の全てで私を感じたはずだ。
「ねぇ。今度またしようよ。嬉しかったんでしょ?」
「亜希は欲張りだね…いいよ、私を好きにさせてあげる」
「その言い方どうにかならないの!?胡春」
「いいじゃん。望むなら何だってやるよ」
「またぁ。そんなことばっか言う」
特に最近はこういうからかいが増えている気がする。意識させようとしていますよ、みたいなのを露骨に出してくるのだ。
「ねぇ、ご飯食べてく?」
「今日はいいや。いつもお世話になりっぱなしだからね。それに早く帰って勉強しないと」
私が胡春の家で夕食をごちそうになったり、胡春が私の家でご飯を食べたり、そういうこともしょっちゅうだ。
「そうか…テストね…」
「私とご飯食べたかった?」
「うん。最近はいつも胡春と一緒だったし。寂しいかも」
私たちは就寝時以外はほとんど一緒にいる幼馴染だ。私としては四六時中、一緒でも構わないのだがそれは胡春に迷惑かもしれない。
「そっか。じゃあ明日は私が作るから一緒に食べよ」
「えっ。胡春の手作り?」
「うん。不満でも?」
「いやいや。胡春の料理って久しぶりかも…」
「確かに去年の調理実習以来かもね」
胡春の料理は普通においしい。小学生の高学年の頃、胡春が料理にハマった時期があった。その時はほぼ毎日胡春の料理を食べていた。母の味が胡春の料理になるのではとママが心配していたくらいだ。
その後、人の興味は短いことに、胡春は料理をあまりしなくなり、でも胡春の家でごちそうになっていたという事実が残りどちらかの家で夕食をとるようになった。
「楽しみにしててよ。腕によりをかけるから」
「うん。今日はじゃあね」
「また明日」
胡春はそういうと私の方に手を伸ばす。その手は私の頭に向かい、優しく撫でてくれる。温もりが伝わってくるようで、心地よい。
胡春と身長は数センチしか変わらないはずだ。でも胡春に包まれているような感覚になってぽかぽかする。
「頭撫でられるの初めてかも…」
「そう?前はよくしなかったっけ?」
「そうだっけ…」
「私なりのお詫びってことで。亜希に寂しい思いをさせるのは心が痛いからね」
「じゃあ、そのつもりで受け取っておくよ」
「うん。じゃあね」
胡春はそう言うとゆっくり扉を閉めた。私はその温もりを噛みしめるようにベットに体を預けた。
幼馴染という親友以上、家族未満な関係。でもこのドキドキは…きっとそんなに単純じゃなさそうだ。
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