第19話 今、なんでもするっていったよね? いったよね!?(大事なことだから二回言った)

 班別実技試験は学園の裏にある森で行われるみたいだ。ここの森は薄気味悪く、おとぎ話に出てくる悪い魔女とかが毒リンゴでも作っていそうな感じがする。


 ただ、広大な土地なため、ド派手な魔法の訓練には絶好の場所だと言える。騎士の訓練は狭い部屋で素振りだけでも十分訓練になるけど、魔法の訓練はこうやって広い土地が必要だもんね。


 森の中に集められた俺達、一組の生徒の前には金髪の爽やか系イケメンが立っていた。


「みんな、初めまして。今回の試験を担当するジュノー・ハーディングです」


『きゃー。ジュノー様よー♡』


『アルバート魔法団第一部隊隊長のジュノー・ハーディング様よー♡♡』


『こんな凄い方がおられるアルバート魔法学園、しゅごしゅぎるうううううう♡♡♡』


 モブ女子達、解説どうも。


 ジュノー・ハーディングは黄色い声援を受けて、手を振りながらフーラの班の方へ歩んで行く。その行動だけで何人かの女子が鼻血を出して尊死した。


 早くも何人か脱落か。


「フーラ」


 声も爽やかイケメンなジュノーがアルバート王国第一王女であるフーラを気安く呼んだ。


「僕の立場でこんなことを言うのは贔屓になってしまうが、僕はきみを応援している。負けないで」


 教師にあるまじき行為だな、この先生。


 フーラは少し戸惑った顔をしたが、笑顔で答える。


「ありがとうございます。先生」


 あー、やっぱりヴィエルジュと双子だねぇ。作り笑顔が全く一緒だったわ。


「先生……か……」


 ふっ、と爽やかに前髪をかきわけてやがる。爽やか系だねぇ。


『ジュノー様は姫様の婚約者だけど、贔屓するのは、ねー……』


『王族が贔屓されるのはわかるけど、目の当たりにするのはちょっと……』


 ふむ。やはり王族。婚約者がいるのか。姫様も大変だな。こうやって陰口もちょっぴり叩かれるわけだし。しかし、王族に陰口なんか叩いたのがバレたら打ち首じゃね? そのリスクを追ってでも愚痴りたくなるもんなのかね。


 少しばかり暗い雰囲気が流れている向こうチーム。


『みんな!! 円陣組もう!!』


 フーラの班の誰かがそう言うと、みんなで円陣を組み出した。


『絶対勝つぞ!』


『『『『『『おおおおおおーーーーーーー!!!!!!!』』』』』』


 試合前の運動部かよ。


 さっきの暗い雰囲気が一気に明るくなりやがった。


「この学園って俺に容赦なさすぎじゃない?」


「出る釘は打たれる。ですかね?」


「ヴィエルジュよ。それはちょっと意味が違うぞ。これはただの弱い者いじめだ」


「あれ? どこに弱い者がいるのでしょうか。私には強くてかっこいいご主人様の姿しか目に映っておりませぬが」


 言いながら手を突き出してくる。


「ご主人様と私。私達がふたり揃えば敗北の文字はございません」


「ま、それは言えてるな。ヴィエルジュ。俺を勝利に導いてくれ」


 ヴィエルジュの突き出した手の上に自分の手を重ねる。


「当然です」


 えいえいおー。と小さくやってのけると、俺達の目の前にジュノー先生が現れた。


「多勢に無勢の戦い。かなり不利な戦いだけど必ず勝機はある。だから正々堂々と、ね」


 まるでどこかの勇者様みたいなセリフをナチュラルに吐いてくるな。このイケメン様。


「でも、少し残念だ。もし、班が一つしかなかった場合、クラス全員と僕との戦いになっていたんだがね。噂のリオンくん。きみと戦ってみたかったよ」


 うへぇ。そんなことになってたんだ。そりゃ、自主性を重んじるとか言ってたから、班が一つになる可能性もあったよな。


「良かったです。先生とは戦いたくない」


 この先生。なんか怪しい気がするんだよな。普通と違うというか……。なんだろうね。この不気味な感じ。絶対に強いやつってのはわかるんだけど。


「あはは。フラれちゃった」


 爽やかに笑いながら俺にボソリと教えてくれる。


「ここの森にある小さな祠に、学園長が大切にしている剣が眠っているんだとか」


「え?」


「それを手に取ったら、きみは必ず勝つのだろうね」


 言い残してジュノーは、俺の班とフーラの班の中間地点に立つ。


 今のはちょーっと情報量が多かったな。フーラを贔屓していたジュノーがそんなことを教えてくれる理由とか。魔法学園の学園長が剣を大切にしているとか。色々と疑問点は残るんだが……。


「リオンくん」


 前に出て来たフーラが俺の名を呼んでくる。今はそんなことを考えている場合じゃないか。


「班編成は偏りが出ちゃったけど……」


 フーラが申し訳なさそうな顔をして言ってくるから、煽るように言ってやる。


「約束だからな。それに、班編成なんてどうでも良い。完膚なきまでにた 叩き潰してやるよ」


「むっ。言ったわね。手加減なんてしてあげないんだから!」


「手加減なんていらねぇよ。んで、そっちが勝てば約束を守るとして、こっちが勝てばなにをしてくれるんだ?」


「あ、そうね……。うーん……」


 フーラは腕を組んで考え込む。


「あなたの言う事をなんでも聞くわ」


「なんでも……だと……」


「本当になんでもよ。これだけの戦力差があるのだからそれくらいの褒美がないとね」


「今の覚えておけよ」


「ええ。王家に誓って約束するわ」


 フーラとの対話をしていると、「そろそろ両班配置について」との指示が入る。互いの班が逆方向へと歩んで行き、深い森の中へと入って行く。


 これが騎士だったら、そのまま正面からガチンコ対決だったんだけどね。魔法学園じゃ互いに離れた位置からのスタートになるらしい。


「約束というのは?」


 配置に行く途中にヴィエルジュから質問が飛んでくる。そりゃ気になるわな。


「ごめんヴィエルジュ。班別実技試験で俺が負ければヴィエルジュのことを教える約束をしてしまった。勝手に話を進めて本当にごめん」


 頭を下げると、ヴィエルジュは軽く笑っていた。


「そういうことでしたらお姉ちゃんが私の真実を知ることは不可能ですね」


 まるで俺をヒーローでも見るかの様な目で見てくれる。


「ご主人様は無敵ですもの」


「無敵かどうかは置いといて、負ける気はないから安心してくれ」


「そんなことよりも不安なのは、ご主人様がお姉ちゃんにえっちなことを要求しないかどうかです」


「だってあの子なんでも──あの、ヴィエルジュさん。頸動脈をキュッとするのはやめてくれない?」


「えっちな要求なら私にしてください」


「あ、あの……」


「わかりましたか?」


「はい」


 なんだか変な脅しをされてしまったんだけども……。


 ヴィエルジュと喋りながら配置に着くと、パンッと上空から小さな破裂音が聞こえてくる。


 試験開始の合図だ。

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