第15話 試験開始
班別実技試験は学園の裏にある森で行われるみたいだ。ここの森は薄気味悪く、おとぎ話に出てくる悪い魔女とかが毒リンゴでも作っていそうな感じがする。
ただ、広大な土地なため、ド派手な魔法の訓練には絶好の場所だと言える。騎士の訓練は狭い部屋で素振りだけでも十分訓練になるけど、魔法の訓練はこうやって広い土地が必要だもんね。
森の中に集められた俺達、一組の生徒の前には金髪の爽やか系イケメンが立っていた。
「みんな、初めまして。今回の試験を担当するジュノー・ハーディングです」
『きゃー。ジュノー様よー♡』
『アルバート魔法団第一部隊隊長のジュノー・ハーディング様よー♡♡』
『こんな凄い方がおられるアルバート魔法学園、しゅごしゅぎるうううううう♡♡♡』
モブ女子達、解説どうも。
ジュノー・ハーディングは黄色い声援を受けて、手を振りながらフーラの班の方へ歩んで行く。その行動だけで何人かの女子が鼻血を出して尊死した。
早くも何人か脱落か。
「フーラ」
声も爽やかイケメンなジュノーがアルバート王国第一王女であるフーラを気安く呼んだ。
「僕の立場でこんなことを言うのは贔屓になってしまうが、僕はきみを応援している。負けないで」
教師にあるまじき行為だな、この先生。
フーラは少し戸惑った顔をしたが、笑顔で答える。
「ありがとうございます。先生」
あー、やっぱりヴィエルジュと双子だねぇ。作り笑顔が全く一緒だったわ。
「先生……か……」
ふっ、と爽やかに前髪をかきわけてやがる。爽やか系だねぇ。
『贔屓になるのは仕方ないよな。ジュノー様は姫様の婚約者だし』
『お似合いの婚約者だから仕方ない』
ふむ。やはり王族。婚約者がいるのか。姫様も大変だな。
『ま、俺達の班が負けるわけないけどな』
『みんな!! 円陣組もう!!』
フーラの班の誰かがそう言うと、みんなで円陣を組み出した。
『絶対勝つぞ!』
『『『『『『おおおおおおーーーーーーー!!!!!!!』』』』』』
試合前の運動部かよ。
「この学園って俺に容赦なさすぎじゃない?」
「出る釘は打たれる。ですかね?」
「ヴィエルジュよ。それはちょっと意味が違うぞ。これはただの弱い者いじめだ」
「あれ? どこに弱い者がいるのでしょうか。私には強くてかっこいいご主人様の姿しか目に映っておりませぬが」
言いながら手を突き出してくる。
「ご主人様と私。私達がふたり揃えば敗北の文字はございません」
「ま、それは言えてるな。ヴィエルジュ。俺を勝利に導いてくれ」
ヴィエルジュの突き出した手の上に自分の手を重ねる。
「当然です」
えいえいおー。と小さくやってのけると、俺達の目の前にジュノー先生が現れた。
「多勢に無勢の戦い。かなり不利な戦いだけど必ず勝機はある。だから正々堂々と、ね」
まるでどこかの勇者様みたいなセリフをナチュラルに吐いてくるな。このイケメン様。
「でも、少し残念だ。もし、班が一つしかなかった場合、クラス全員と僕との戦いになっていたんだがね。噂のリオンくん。きみと戦ってみたかったよ」
うへぇ。そんなことになってたんだ。そりゃ、自主性を重んじるとか言ってたから、班が一つになる可能性もあったよな。
「良かったです。先生とは戦いたくない」
この先生。なんか魔力が怪しんだよなぁ。普通と違うというか……。なんだろうね。この不気味な魔力。絶対強いやつってのはわかるんだけど。
「あはは。フラれちゃった」
爽やかに笑いながら俺にボソリと教えてくれる。
「ここの森にある小さな祠に、学園長が大切にしている剣が眠っているんだとか」
「え?」
「それを手に取ったら、きみは必ず勝つのだろうね」
言い残してジュノーは、俺の班とフーラの班の中間地点に立つ。
今のはちょーっと情報量が多かったな。フーラを贔屓していたジュノーがそんなことを教えてくれる理由とか。魔法学園の学園長が剣を大切にしているとか。色々と疑問点は残るんだが……。
「リオンくん」
前に出て来たフーラが俺の名を呼んでくる。今はそんなことを考えている場合じゃないか。
「班編成は偏りが出ちゃったけど、約束は約束。守ってもらうわよ」
「一方的な約束だった気がするんですけど。まぁいいや。剣技を使っても良いんだろ?」
「もちろんよ」
フーラがジュノーの方を向いた。
「先生、ルールに剣技を使ったらいけないなんてありませんよね?」
フーラが尋ねるとジュノーが頷く。
「そうだね。班別実技試験は相手の班長を倒したら勝ちっていうシンプルなルール。剣技を使ってはいけないなんてルールはないよ」
先生の言葉に安堵する。
「なら、俺達が負けるわけがないな」
「剣技が使えるだけで随分と余裕ね」
今まで縛りプレイだったからな。
「そっちが勝てば約束を守るとして、こっちが勝てばなにをしてくれるんだ?」
「そうね……。あなたの言う事をなんでも聞くわ」
あれ? 今、この子なんでもって言った?
「本当になんでもよ。これだけの戦力差があるのだからそれくらいの褒美がないとね」
「今の覚えておけよ」
「ええ。王家に誓って約束するわ。私達が負けるはずないけど」
フーラとの対話をしていると、「そろそろ両班配置について」との指示が入る。互いの班が逆方向へと歩んで行き、深い森の中へと入って行く。
これが騎士だったら、そのまま正面からガチンコ対決だったんだけどね。魔法学園じゃ互いに離れた位置からのスタートになるらしい。
「約束というのは?」
配置に行く途中にヴィエルジュから質問が飛んでくる。そりゃ気になるわな。
「ごめんヴィエルジュ。お前の姉さんに、強引に約束をさせられたんだけどさ」
前置きで言い訳をかましてから本題を彼女へ伝える。
「班別実技試験で俺が負ければヴィエルジュのことを教えろって一方的に言われたんだよ」
勝手に話を進めて本当にごめん、と頭を下げるとヴィエルジュは軽く笑っていた。
「お姉ちゃんらしいですね。昔からちょっと強引なのは変わってません」
くすくすと笑ったあとにさも当然のように言ってくれる。
「そういうことでしたらお姉ちゃんが私の真実を知ることは不可能ですね」
まるで俺をヒーローでも見るかの様な目で見てくれる。
「ご主人様が剣技を使って良いとのことでしたら無敵ですものね」
「無敵かどうかは置いといて、負ける気はないから安心してくれ」
「そんなことよりも不安なのは、ご主人様がお姉ちゃんにエッチなことを要求しないかどうかです」
「だってあの子なんでも──あの、ヴィエルジュさん。頸動脈をキュッとするのはやめてくれない?」
「エッチな要求なら私にしてください」
「あ、あの……」
「わかりましたか?」
「はい」
なんだか変な脅しをされてしまったんだけども……。
そんな感じで配置に着くと、俺達が集まっていた場所からパンっと魔法の合図があった。
試験開始の合図だ。
「ご主人様。作戦はどうなさいますか?」
「うーん。そうは言ってもふたりだしなぁ」
フーラの班は俺とヴィエルジュを除いた二八名。うわぁ、改めてえげつない戦いだなぁ。
「ヴィエルジュはなんか良い案でもある?」
尋ねると、少しばかり考えて答えてくれる。
「相手は全員が魔法使い。接近戦に持ち込むのが得策かと」
「やっぱそうだよなぁ。でも、向こうもそう考えているんじゃないか」
「おそらく。遠隔から素早く出せる下級魔法で接近戦に持ち込まれないようにする人達と、その間に大技で決める人達で分かれると思われます」
言いながらヴィエルジュは魔法を唱える。
ブワァっと彼女を中心に優しい風が舞う。今、ヴィエルジュが唱えた魔法は風の力を借りて空を飛ぶことができる魔法だ。魔力量に応じて密着している人も一緒に運ぶこともできる。
彼女から離れたしまった場合は落ちてしまうけどね。
ヘイブン家にいる時、この魔法で色々と彼女とサボりに出かけたものだ。
「空から攻めましょう」
「空からの奇襲ね。それは面白そうだ」
風を帯びている彼女をお姫様抱っこする。
「きゃ♡」
「あれ? いやだった?」
聞くと、ぶんぶんと首を横に振る。
「や、その……。いきなりだったもので……強引なご主人様も素敵だなぁと」
「いやいや、いつもお姫様抱っこしろって言うだろ。『お姫様抱っこじゃないとヴィエルジュてきにまじ飛べません』とか言うじゃん」
「そうなんですけど。そうなんですけどね……。こっちが言わずともお姫様抱っこしてくださって幸せというか。このまま駆け落ちしません?」
「魅力的な提案だけど、駆け落ちするにも仕事も金もない」
「むぅ。それは仕方ありませんね。このイライラは試験にぶつけるとします」
「八つ当たりだなぁ」
そんないつも通りの会話をしながら空を飛ぶ。
薄暗い森から一変、視界にはどこまでも続く青い空が見えた。今まで太陽の陽が通りにくい森の中にいたからよけいに空が明るく見える。
太陽の下、スカイブルーの空をヴィエルジュと飛行するのは気持ちが良く、一瞬、本当にこのまま駆け落ちしたくなる。
けどね、ちゃんと現実を見よう。一時のテンションに身を任せるとロクなことにならん。
「あいつら少数で編成して俺らを挟み撃ちしようとしていたな」
下に見える森の中から、バラバラの場所にクラスメイトの魔力を感じた。
「セオリー通りですね。挟み撃ちは効率が良いでしょうから。どうしますか? このままお姉ちゃんの魔力を探って、一気に攻め落としますか?」
「班長を倒したらこの戦闘は俺達の勝ちだが……。やっぱり二八対二っていうのは分が悪いよな。二八人の魔法使いに囲まれたら流石にきついかも」
「一編成ずつ確実に倒して数を減らしますか?」
「堅実に行くか。ほんならとりあえず真下の奴等から行くわ」
「……ぎゅっ」
「あのー、ヴィエルジュさん。ぎゅっとされると降りられないのですが?」
「この天国よりも優しい場所の居心地が良すぎるのが悪いのです。ご主人様から離れたくありません」
「あとでいくらでもしてやるから、今は離れてくんない?」
「本当です!?」
ガッと綺麗な顔を近づけてくると、ニコッと微笑んで俺の唇に人差し指を当ててくる。
「言質とりましたからね。約束ですよ♡」
ヴィエルジュはそのまま俺から降りると、俺は一気に重力を感じて真っ逆さまに落ちて行く。
ゴオオオオオオと風を切る音と共に、俺はロングコートより杖を取り出した。その杖に魔力を込めてやる。
一気に森の中に入り、数名のクラスメイトが見えたその中心の地面へ俺は杖を突き刺した。
『
「て、敵──ぎゃああああああ!」
クラスメイトが俺の存在に気が付いた時にはもう遅い。
数名のクラスメイト達の足元からゴオオ! ゴオオ! とマグマが噴火している。それを防御する暇もなく、クラスメイト達はマグマの餌食となった。
杖での剣技だし、手加減してやったので死にはしないだろうが、これは相当に熱いぞ。
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