第49話 夢ってのは叶ってから喜ばないといけない

 ルべリア王女誘拐の犯人はステラシオン王国騎士団三番隊隊長のバンベルガ・クロムウェルであり、王女誘拐を隠蔽するためにアルバート魔法学園にテロ行為を行った。


 それを阻止したのが俺こと、リオン・ヘイヴンってことで、ステラシオン王より功績を称えられ、感謝と共に金一封を頂いた。


『まさかヘイヴン家の三男が? ありえない』


『しかし、剣術大会でも優勝していたし』


『どうなってんだ?』


 王城では、俺の噂を知っている人達が困惑しているようだった。そりゃ、ヘイヴン家の恥さらしがこうも活躍していたらそんな反応にもなるだろうよ。


 これからステラシオン王国騎士団の再編成が行われるらしい。リーフ兄さんが副隊長から隊長に昇格するとかなんとか聞いた気がするけど、正直いって興味はない。


 この状況で父上と会うと面倒臭いことになりそうなもんで、貰えるもん貰ったんだからさっさと退散。ってなわけで、俺はそそくさとアルバート魔法学園に戻って来た。


 バンベルガの学園騒動において、被害ってのは講堂の一部と闘技場だけらしい。奇跡的に怪我人は0。そんなもんだから、筆記試験の終わった学園は通常授業に戻っていた。


 騒動なんてなかったかのような学園の教室の風景は、なんだか落ち着く気がする。


 騎士の家系の奴が魔法学園の教室が落ち着くってのもおかしな話だが、住めば都って言うもんね。慣れってのは大事だ。


 それにしても、俺ってば一気に金持ちになっちまったもんだ。ステラシオン剣術大会での賞金に加え、ステラシオン王よりもらった金一封により、最早これだけでじじぃまで生活できるレベルまで達しちまっているんだな、これが。


 こうなると、もう学生をしなくて良いわけだし、働かなくても良いってもんだ。


 え、待って。そうなるとさ、自分で家を買って、一生その家で引きこもりかませるじゃんか。つうかそれをしてもお釣りが来るレベルの金だぜ。


 子供部屋おじさんイン異世界なんかよりよっぽど良いやん。


「げへ、げへ」


「リオンくんが壊れている」


 ほとんど夢が叶ったかのような顔をして、いつもの席に座っているところにフーラの手痛いツッコミが突き刺さる。


 しかしだ、今の俺にはそれすらも小鳥のさえずりに聞こえて仕方がないのだよ。


「人間、夢が叶う瞬間ってのはこういう顔になるもんさ」


「夢が叶う?」


 フーラは訳がわからないと言った様子で首を傾げながらヴィエルジュを見る。


「さぁ……」


 ヴィエルジュもわからないと言った様子で首を横に振る。


 二人にはたんもり金を貰ったことは話していない。まぁ、話しても良かったんだけど、色々とバタバタしており話すタイミングがなかった。だから今度、サプライズでなにか買ってあげるか。


「あ、そうそう、そういえばウル──」


 フーラのセリフの途中に校内放送が入る。


『リオン・ヘイヴン。至急学園長室まで来なさい』


「……」


 学園長室に呼び出しで今まで良かったと思ったことがない。


 いやーな予感しかしないんですけど。




 ♢




「リオン・ヘイブン」


 相変わらず見た目は二〇代を思わせる美魔女の学園長先生がギロリを俺を睨んで来る。


 もう嫌な予感しかしないので、こちらから仕掛けることにした。


「学園長先生。この剣の件ですよね!」


 修理した学園長先生の病み剣を渡す。


「きゃぁん♡ レオンがきゅぅれた、きゅぇぇん♡」


 剣に頬をすりすりしている姿はまじでやばい絵面なんですけど。病みが深いなこの先生。


 物理的にも精神的にも重いんだよな、その剣。もう戻ってくるなよー。あるべき場所に帰って、祀られててくれよー。


「じゃ、失礼します」


「お待ち!」


 そそくさと出て行こうとした所で止められてしまう。


「ええっと。まだなにか用で?」


「ああ。今回お前を呼んだのは他でもない」


「学園長先生。真剣モードで話すなら、剣から頬を離してください」


「嫌よ。やっとレオンの剣が戻って来たのに離すなんてことできないわ」


 ナイフを舐めるやばい奴ってのはどっかで見たことある気がするけど、大剣を舐める奴ってのは初めて見たな。年食うと頭おかしくなるんだね。


「リオン・ヘイヴン。此度の活躍、見事であった」


「へ? あ、ああ。ど、どうも」


 なんだ。怒られると思ったのに褒められるのか。


「ステラシオン王女を救い、学園をテロリストから守った。その功績は輝かしいものである。アルバート魔法学園としても鼻が高い」


「ありがとうございます」


 なんだよ。お褒めの言葉をもらうだけか。だったらそんな怖い顔で言わなくても良くない。


「ただ──」


 あ、なぁんか嫌な予感がする。


「今回の被害は大きい。講堂と闘技場の修理。そして地下にあった遺跡も含め、莫大な金額になっている」


「へ、へぇ。そりゃまた大変なこって」


「もちろん、ステラシオン王国とアルバート王国より資金は出ているが……。それでも少し足りないのだよ」


 キリッとこちらを見てくる。


「そこでリオン・ヘイブン。お前にも修理代を請求することになった」


「はあああ!?」


 なんちゅうこと言い出すんだ、このクソババァ。


「いやいや、なんで俺が!?」


「そりゃルべリア王女を救い、テロリストを倒したことは名誉なことだが、建造物を粉々にしちゃいかんだろう。二つの王国が金を出してくれているだけ恵まれている方だぞ」


「待て待て待て! なんで俺!?」


「講堂の件はお前の仕業ではないというのはわかる。ただ、闘技場と遺跡の件に関してはリオン・ヘイブンが壊したという話になっているのだが?」


「正確には俺じゃねぇよ!」


「証人がいるんだがな。良いだろう。改めて証明してもらおうか。入りたまえ」


 証人だぁ? それってのはヴィエルジュかフーラか。それともルべリア王女か。いずれにせよ庇ってもらうしかないだろうよ。さぁ入ってこい、俺の弁護人!


「……へ?」


 中に入って来たのは、長い髪をツインテールにした可愛らしい女の子だった。


「ウルティム……」


 ウルティムはみんなで話し合った結果、アルバード城で管理されるていたはず。暴れもしないし、ぽけーっとしているとフーラも言っていたっけ。


「この娘が、リオンがやったと言っているんだ」


「いやいやいや。犯人この子だから。この子がえげつない魔法をぶっ放したから」


「こう言っているが?」


 学園長先生がウルティムに問うと、ふるふると首を横に振る。


「わたしはマスターに従ったまで」


「ちょっと! 無口キャラなのに普通に喋るやん!」


「というわけだ」


「なんでこの子の言う事を簡単に信じているんだよ!」


「見苦しいぞ」


「冤罪だ!!」


「というわけで、修理代をきっちり耳を揃えて払ってもらうぞ!」


「横暴だああああああ!」


 こうして俺は、ステラシオン剣術大会の賞金と、ステラシオン王から頂いた金一封を失い、夢のマイホーム購入からの引きこもりの夢が砕け散ったとさ。

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