第38話 王族には影が見えがち

 ライオ兄さんとの一回戦を終えてから、トントン拍子に勝ち進むことができた。


 二回戦は騎士候補の人。


 準々決勝は騎士学園の生徒。


 準決勝は三番隊の団員の人。


 準決勝の人を倒した時に、「リーフ様ぁ」と言い残したのはネタとして受け取って良いのかね。


 そして決勝戦までやって来た。


『おいおい。ヘイブン家の恥さらしがここまで残っちまってるぞ』


『なんという番狂わせ』


『だがしかし、次の相手は──』


 外野のみなさま前置きありがとう。


 そう。決勝の相手というのがこれまた面倒なんだよな。


「あなた! 魔法学園の生徒とか言いながら騎士の家系じゃないか! しかも、レオン殿のご子息とは……あたしを騙したな!!」


 ルべリア王女ったら怒っているなぁ。


 コロシアムの中心で向かい合い、まだゴングが鳴っていないのに剣を抜いてこちらに刃先を向けてくる。


 彼女が握っている剣も俺と同じようなロングソード。そういえばこの王女様もエスコルさんの剣だな。


 あれ? んじゃ、エスコルさんの剣同士で戦うわけだから、十分に宣伝になったんじゃない? もう良いんじゃない?


 でも、エスコルさんには優勝しろって言われたもんなぁ。


 それに、決勝まで残って棄権なんて空気を読まなさすぎだよな。最後までやるか。


「魔法学園の生徒なのは間違いないですよ?」


「屁理屈を……! あなたも騎士の家系ならプライドを持て!!」


「プライドがないから追放されたのですが」


 今となっては、ぬる〜い追放なんですがね。


「追放されてもその態度……。その飄々とした態度が気に食わん。性根を叩き直してくれる!!」


 あかん。火に油だったわ。


 でも、これはなにを言っても怒られる仕様になっているっぽいな。


 いるよね、何言っても怒ってくるやつって。


 人生上手くいってないのかな、お腹空いているのかなって思うよね。


 王女様も色々あるんだろうね。きっと。


 どうせどんな態度でも怒られるなら、挑発して怒らせておくか。


 怒りは周りが見えなくなるからね。せっかく決勝まで来たのなら勝ちたいし。


「王女様は真面目な人がタイプです?」


「あたしより強い人がタイプだ!」


 そこは普通に答えてくれるんだ。


「じゃあ、俺が勝ったら王女様の理想のタイプは俺ってわけかぁ」


「は、はあ!? どうしてそうなる!?」


「いやー、困ったなぁ。王女様に告られたらどうしようかなー。うーむ。ごめんなさいですなぁ」


「ふざけやがって……!」


『決勝戦。ルべリア・ステラシオン対リオン・ヘイヴン。試合開始!』


 審判の合図と共にルべリア王女が瞬時に間合いを取って攻撃を仕掛けてくる。


 ライオ兄さんよりも速い剣撃。


 体感で言えば四方八方から剣を出されているような感覚。


 だが、挑発の効果でめちゃくちゃ怒っているため、魔力が漏れてるのなんのって。


 どれだけ速い剣撃も、どこに攻撃が来るか魔力で予想できるなら避けるのは容易い。


「よっ、ほっ、っと」


「おおおおおお!」


 最後の一撃は避けるよりも受け止めた方が良いと判断し、相手の剣を自分の剣で受け止める。


 キンッ!!


 金属音がコロシアムに響き渡ると、数秒の間が空いてから、うおおおおおお! と観客から歓声が沸き上がる。


「……ふっ。流石は決勝まで来る騎士だ」


「俺は騎士ではないですよ」


「その挑発はもうあたしには通用しない」


 ありゃま。もう冷静を取り戻したか。


 流石は王族の騎士様ってところだね。怒りをすぐに鎮めた。


「魔法学園の生徒と偽り、実力を偽り、相手を挑発して怒りを買う。怒りは剣に出て簡単に見切られる。あたしはその作戦にまんまとハマっていたようだ」


「魔法学園の生徒なのは本当なんですけど」


「冷静になったあたしの実力はこんなもんじゃないぞっ!」


 聞いちゃいない。


 ルべリア王女はバックステップで俺との間合いを取り、剣を構え直す。


 空気が変わった。


 刹那。


「うおっ!」


 先程よりも更に速く攻撃してくるもんだから避ける暇さえなく、反射的に剣で受け止める。


 鳴り響く金属音の中で次の攻撃に備える。


 確かに速い剣撃だが、受け止めるには容易な剣だ。


「くっ……!」


 攻撃を続けているルベリア王女からは苦しそうな顔が見られた。


 これだけ一気に加速させて攻撃を仕掛けたんだ。疲労も一気に来ているのだろう。


「あたしは負けられない」


 剣撃を放ちながらなにか言っている。


「ステラシオン剣術大会の決勝で勝って、みんなにあたしを認めさせる」


 段々と剣撃が速くなる。


「あたしがクレス王子の妹ではなく、ルべリア・ステラシオンという騎士だということを認めさせるんだあああ!」


 気合いの言葉と共に、ルベリア王女の剣から魔力を帯びて光を感じる。


閃光五月雨斬せんこうさみだれざん


 魔力の光を放つように無数の剣撃が俺を襲う。


 こりゃ、避けるだけじゃ当たるな。避けながら受け止めても当たる。当たると痛いやつだ。


 だったら──。


「うりゃ!!」


「なっ……!?」


 一瞬の隙を突いて、上空へ剣を弾き飛ばす。


 くるくると落ちてくるルベリア王女の剣を、サーカスみたいにキャッチして相手に剣を突きつける。


「俺の勝ちだ」


「……まだ……だあああ!!」


 ルベリア王女の蹴りが俺の手の甲にクリーンヒット。


「っと……」


 彼女の剣を弾き飛ばされてしまった。


「あたしは!」


 ルベリア王女様は叫びながら攻撃を仕掛けてくる。


「あたしを! みんなを認めさせるために! 負けられないんだあああ!!」


 執念の連続蹴りをしてくるルベリア王女。


 彼女には負けられない理由があるのだろう。それがなんなのかはわからない。ただ、武器を失っても戦おうとする執念は、熱き思いは、俺より真っ当な理由というのは明白。


 ここでわざと負けるようなことをしたら、彼女の騎士道に泥を塗ることになる。そもそも俺の学園生活もかかっているんだ。俺だって負けられない。


「はあああ!」


 バンッ!!


 連続で蹴りを繰り出してくるルベリア王女のドレス風の鎧を砕くように剣を振るった。


「がっ、はっ……!」


 鎧が砕け、柔肌を露出させながらこちらに倒れ込んでくる。


 彼女の露出した部分を隠すように受け止めてやる。


 感触は年頃の女の子。


「リ、オン……ヘイヴン……。あたしは、まだ……」


 だが、その執念は騎士の精神が宿っているようであった。


 しかし、執念だけではどうにもならず、彼女は俺の胸元で気絶してしまう。


『勝者、リオン・ヘイヴン!!』


 番狂せのステラシオン剣術大会は、ヘイヴン家の恥知らずリオン・ヘイヴンの優勝で幕を閉じた。

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