第37話 フラグを折った先の方が大体ハズレ
年に一度の剣の祭典、『ステラシオン剣術大会』
腕に覚えのある人達がコロシアムに集まった。
観客達も一回戦第一試合、第二試合と終わり、盛り上がりを加速させている。
まさか昔から見ていた剣術大会に出ることになるとは思いもしなかったな。しかも王女様に目を付けられるし。
そもそも王女様ってば、性根を叩き斬るったって、対戦するとは限らないんだけど、そこんとこどうなのよ。
でも、なんか王女様と一回戦で戦う予感はあった。こういう時の予感って結構当たったりするよね。完全に王女様とのバトルフラグが立っているんですけど。
でも違った。
一回戦の相手はルべリア王女ではなかった。
ただね、俺としてはルべリア王女の方が幾分もマシだったわ。
「よぉリオン。こんなところで弟に会うなんて奇遇だなぁ、おい」
俺の対戦相手、ライオ兄さんなんだわ。
コロシアムの中心で再会するヘイヴン家の次男と三男。
なんなのこの状況。まじで最悪なんですけど。
『次はステラシオン騎士学園の№1と呼び声高い、ライオ・ヘイヴンか』
『対戦相手は……なに!? ライオの弟のリオン・ヘイブンだと!?』
『あいつはヘイヴン家の恥さらしで追放されたと聞いたが』
『あれじゃねぇか。剣術大会に出て、レオン様に認めてもらいたいんじゃないか?』
『しっかし、相手が騎士学園の№1と呼び声高い実の兄ってのは酷な話だねぇ』
外野の言う通りだ。ほんと、まじで勘弁して欲しい。
「おめぇがどんな理由でよぉ、この大会に出たか知んねぇが、運が悪かったな。いつも通りにいじめてやるよ」
「お手柔らかに」
互いに剣を構える。
俺の剣はエスコルさんから借りたロングソード。これといった特徴はないが、手に馴染みやすく扱いやすい剣だ。ちゃんと柄のところにエスコルさんの店のマークがあるのはちゃっかり広告してんなぁと思う。
対してライオ兄さんは身の丈よりも大きな剣だ。流石は父上を一番尊敬していることだけあり、父上のスタイルと似ている。だが、大剣を片手で使えるわけではなさそうだ。父上は大剣を片手で二つ持つスタイルだからね。ライオ兄さんはただの大剣使いだ。
『一回戦第三試合、ライオ・ヘイヴン対リオン・ヘイヴン。試合開始!』
審判の試合開始の合図が響いた。
瞬間、ライオ兄さんが一気に間合いを詰めてくる。
「おらあ! 死ねやあああ!」
ただの大剣使いだけども、その大剣を軽々と縦に振って来やがる。
「うぉ!」
ただ、魔力が駄々漏れだったため、簡単に避けることができる。
できたけど、すんげぇ威力。当たってたら斬れるじゃなくて壊れるって感じの攻撃だな、おい。
「まだまだあああ!」
素早く水平に振って来やがった。
「おっ!?」
ブリッジでかわした俺の顔面の前を、ビュンと風圧と共に大剣が目の前を通過する。
地面に手をついて、ブリッジの反動を利用して大きくライオ兄さんから間合いを取る。
「おいおい。本気で殺しに来てません?」
「当たり前だろうがっ。真剣勝負じゃ!」
「俺達兄弟ですよね?」
「安心しろや。この大会には
「全然安心できない!」
「おらあ! 行くぞ、リオン!」
お喋りは終わりだと言わんばかりに、ライオ兄さんは攻撃を仕掛けてくる。
本当にそれは大剣なのかと疑うレベルの素早い攻撃を次々と繰り出してきやがる。
ただ、この人は脳筋で力み過ぎだ。魔力が駄々漏れになっていて避けやすいのなんのって。
「くそがっ! 相変わらずちょこまか逃げやがって……!」
ライオ兄さんがイライラとしている。
いつもライオ兄さんの八つ当たりを受ける時は、イライラした時が頃合いだ。これ以上ライオ兄さんにストレスを与えると後が面倒になるからな。
ただ、今回は負けるわけにはいかない。こちとら平穏な学園生活がかかっているんだ。これからも毎日、魔法使い共と鬼ごっこなんてごめんなんだよ。
「があああ! 面倒くせえええ!」
そういえば、イライラがMAXになったライオ兄さんってのは見たことなかったな。ここまでストレスが溜まるとどんな攻撃をしてくるのか、ちょっぴりだけ興味はある。
「お前を見ていると本当にムカつくぜ。これで終いにしてやらぁ!!」
ライオ兄さんは大剣を思いっきり地面に突き刺した。
『
ヘイヴン家直伝の剣技を放ってくる。
『出た!! ライオの十八番!』
『ライオのこの剣技の前に立っていた者はいない』
『ライオも手厳しいな。実の弟相手にあの剣技を繰り出すとは』
『ヘイヴン家の恥さらしをしつけるためじゃないか』
外野共の解説どうも。
「くたばれや!! リオン!!」
足元がグラつき、地面が突き出してくる。
元々の岩礁噴火陣ってのは、地面が突き出す様子が、まるでマグマが噴火するように見えることから名づけられたヘイヴン家の剣技。でも、正直言って俺の剣技の劣化版って感じだね。俺のは名前通りにマグマを放つから。
それにネタが割れている剣技だ。身内に使う剣技じゃない。こんなもんはライオ兄さんの通常攻撃よりも避けるのは容易い。
簡単に避けて、一気に間合いを詰める。
「なっ……!?」
ライオ兄さんが大剣を引き抜こうとするが、その前に突き刺さってある剣を、俺の魔力の込めた剣で叩き斬る。
パリンッ!!
刺さっている大剣が砕けた。
「っ、ぅそだろ?」
「おらあ!」
そのまま回し蹴りを横っ腹にかましてやる。
「ぐおおっ!」
ライオ兄さんが大きく吹き飛んだが、そこまでのダメージではないだろう。
倒れているライオ兄さんが起き上がろうとしているその顔に剣を突きけた。
「……ぉ、ぁ」
「降参してください。武器を失くした兄さんに勝ち目はありません」
「……ッ!」
ライオ兄さんは黙り込んでしまい、降参するのを躊躇っていた。
「くそがああああああ!」
怒号と共に思いっきり拳を地面に叩きつけた。足元が揺れ、地面には軽くクレーターのような穴が空いてしまう。
「お前はどうして今まで実力を隠してた!? ああ!?」
怒りの声を上げながらライオ兄さんを訴えるように言って来る。
「お前はいつもいつもいつも俺の八つ当たりに反撃して来なかった。俺なんて簡単にやり返すことができるってのに、どうしてやり返してこなかった!? バカにしてんのか!?」
「ライオ兄さん……」
「答えろや!!」
すみません。この状況で目指せ子供部屋おじさんとか言えない。ここは黙っておこう。沈黙が正解ってのも、時として存在するよね。
「無視かよ……! ああああああ!!」
ドンドンドン!
「くそがっ! くそがっ!! くそがっ!!!」
駄々っ子みたいに何度も地面を叩いて少し冷静になったのか、俺をギロリと睨んでから吐くように言って来る。
「……降参だ」
『勝者。リオン・ヘイヴン!』
うおおおおおお!
観客席が沸いた。
『騎士学園の№1と呼び声高いライオが負けたのか?』
『リオンって恥さらしじゃなかったのか?』
『まさか……』
番狂わせの第三試合に会場は大盛り上がりであった。その中でライオ兄さんが会場を後にする。
「……リオン」
振り返らずにライオ兄さんは背名で語りかけてくる。
「今度会う時は絶対に殺してやる」
ライオ兄さんの背中からは、憤怒の獅子が見えた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます