第13話 お姫様の宣戦布告
アルバート魔法学園に入学して数日が経過していた。
まだまだ新生活に慣れたとは言えない日常を送っている。
流石は魔法学園なだけあって魔法の授業ばかりであった。チンプンカンプンな授業内容は、前世の英語や古典の授業を聞いているかのようであった。
まぁ、授業はね、別に良いんだよ。平和そのもので。ああ、俺、学生してるなぁ。とか、教室から窓の外を見上げて物思いにふけったりしてね。
でも──。
鐘の音が鳴り響いた時、地獄の門が開かれん。
キーンコーンカーンコーン。
──ダッ!
チャイムが鳴り響くと同時に、俺は教室を一目散に出て行った。
ドタドタドタと廊下を走る。全力で走る。
廊下は走らないの貼り紙を見て、そんな悠長なことを言っとる場合かとツッコミを入れておく。
まるで購買の人気総菜パンの争奪戦に向かうように。
そうだったらどれだけ平和的で良かったことやら。
『待てええええええ! 落ちこぼれがああああああ!』
『止まれええええええ!』
『決闘しろおおおおおお!』
「やっぱり今日もですよねー!?」
昼休みは必修科目の鬼ごっこ。
後ろからは大量の生徒が俺を求めてやってくる。
ぼくちゃんモテ期到来☆ とか言ってる場合じゃねぇ!
こうなったのも、全部学園長が悪いんだ。
噛ませ犬との決闘の後、学校の掲示板に貼られていた通知書にはこう書かれていた。
『リオン・ヘイヴンと決闘をして勝った者には
ナニヲイッテイルノカワカンナイ。
いや、初めて見た時は頭の中真っ白になったよね。だって意味わかんないもん。なんで俺が単位の景品になってんだよ。こんなん、前世の世界だったらコンプライアンス的にアウト過ぎるだろ。
しかし、ここは異世界。コンプライアンス? なにそれ美味しいの? 状態。
もちろん、抗議しに学園長室へ出向いたけど、あの美魔女ったらいっつも留守にしてやがる。学園長って忙しいのね。くそったれめ。
おかげで無事に俺だけ必修科目の鬼ごっこが強制追加されたよね。一対複数の鬼ごっこ。なにこれ、どんな罰だよ。
『くそおおおおおお! 待てええええええ!』
『待てよ! 逃げるなああああああ!』
「あーははは! ガリ勉共は足がおせーなー!! 脳筋一族の速さなめんなよ!! ばーか! ばーか!!」
あ、うん。魔法使いの人達って基本的に足が遅い。というか、全体的に運動神経が悪いって感じだね。そりゃ魔法使いってのは頭を使うからねぇ。勉強は必須。運動は捨てないといけないもんね。
だけど、こちとら運動必須の騎士の家系じゃい。足の速さは伊達じゃないんよ。なめんな、ぼけ。
今日も今日とてガリ勉魔法使い共を振り切って、コソコソと俺の隠れ家へと向かう。
隠れ家と言ってもただの屋上だ。
屋上は立ち入り禁止。魔法使いのガリ勉優等生共は律儀にそれを守っている。そもそも屋上は施錠されているため、普通は立ち入ることができない。
だけど──。
「パワー」
俺は力ずくでドアを開けてやる。立ち入り禁止? 知るか。こちとらそんなことを守る余裕なんてないわ。
屋上のドアを開けて、塔屋の壁に背中を預けて座った。
「はふぃ」
ここは安全地帯。一息つく。
『おつかれみたいだね』
「ふょ!?」
ドキンと心臓が跳ねて、反射的に立ち上がる。
「あはは! ふょ!? だって あはははは!」
隣を見ると、ピンクの長い髪の美少女が妖精みたく、くすくすと笑ってらっしゃった。
「フーラ。なんでここに……」
どうしてクラスメイトのお姫様がこんなところにいるのだろうか。
「──はっ!?」
まさか、こいつも俺を狙っているのか!?
姫様と言えど学園ではアルバート魔法学園の一生徒。単位取得は王族、貴族関係なく平等。単位なんてもんは喉から手が出るほど欲しいはず。
警戒し、ゆっくりと後ずさると彼女は笑いながら教えてくれる。
「ここは私のお気に入りの場所なんだよ。鍵も借りてるし」
言いながら鍵を俺に見してくれる。
「というかあれだね。毎回屋上の鍵が壊れて先生が魔法で直してくれていたけど、その犯人はリオンくんだったんだ」
「なるほど。毎回パワーで潰したってのに、次の日に直っていたのはそういうことか」
「もう。ダメじゃない。ちゃんと鍵で開けないと」
「面目ない」
「というか、騎士の家系の人って鍵なんて関係なく扉を開けられるの?」
「フーラよ。追いかけられた奴の火事場のクソ力ってやつだ。普段はそんなことできん」
「あ、はは……。そうなんだぁ」
フーラは引き笑いをしていた。
「私は大丈夫。リオンくんを取って食おうってわけじゃないから安心してよ。ここで会ったのはたまたまの偶然なんだから」
「でもわかんないぞ。姫様ったら実は単位で焦っている可能性もあるからな」
ヴィエルジュから聞いた話だと、魔法の天才らしいからそんなことはないと思うが、警戒はしないとね。
「いやー。難しいよね。魔法の勉強って」
「ん?」
「なに、あの意味わかんない術式とかなんとか。まじで意味不明過ぎて笑えるよね。実技なら満点取れるけど、筆記だったら0点の自信しかないよ」
あー、なるほど。まじもんの天才か。
1から順に100まで積み上げていく秀才じゃなくて、いきなり100が使えるから1とかの意味がわかんない天才タイプ。
勉強はできないけど仕事のできるタイプね。前世の職場にもいたなぁ。Fラン大学出身とか言ってたくせに一度見たものは覚えて一気に係長に上がった奴。
「その点、ルージュは勉強も魔法も出来て凄かったなぁ……」
チラリと俺の方を見て来やがる。もしかしてサラッと俺に探りを入れてらっしゃいます?
「入学前のレストランで会った時に出て来た名前だな。妹さん?」
ヴィエルジュは彼女に本当のことを打ち明ける気はないみたいだし、俺は知らんぷりをしておこう。
「ヴィエルジュはね、私の双子の妹にそっくりなんだ。もし生きて成長していたらあんな感じになっていただろうって思ってね。つい、声をかけちゃったんだ」
ううん。と首を横に振り俺を見つめてくる。
「あれは私の妹。仲の良かった大事な妹だよ」
確信を得ている者の目をしている。
ヴィエルジュも言っていたが、自分が姉のことに気が付いているのなら、フーラもヴィエルジュのことには気が付いていると言っていたな。
双子特有のなにかが彼女達の間にあるのだろう。
「ねぇ。どうして死んだはずの私の妹が、リオンくんにべったりの専属メイドなんてしてるの? というか、あのメイド服はリオンくんの趣味?」
「可愛いメイド服だろ?」
「確かに可愛いし、私も着てみたいとは思うけど、お父様に知られたら怒らちゃうかも」
やっべ。王様に知られたら俺処刑だわ。ペットのポチの餌にでもされるかも。
こりゃ俺的にもヴィエルジュの正体をバラすわけにはいかなくなったな。
「や、そこじゃなく。どうして死んだはずの妹がリオンくんのメイドをしてるの?」
「フーラ。レストランで会った時、ヴィエルジュは人違いって言っただろ。なら、それが全てだよ」
「だったら、だったらさ。リオンくんはどこでどうやってヴィエルジュと会ったの? どんな感じで、どんな風に」
「悪いな。俺はヴィエルジュの主人として彼女の尊厳を守らないといけない。俺の大事なメイドの過去を、俺の口から教えることできないよ」
はっきりと断ってやると、彼女は頭を下げる。
「……ごめんなさい。あなたの言う通りね。人の過去を簡単に聞こうなんていけないわよね」
生き別れたと思っていた妹が生きていたと知った喜びが大きかったのだろう。彼女の気持ちもわかるため、別に気にしていないという意味を込めて微笑んでおく。
「でも、こればっかりは譲れない」
「はい?」
引く感じの雰囲気から一変、彼女はビシッと指を差して宣戦布告してくる。
「まどろっこしいのはやめたよ。リオンくん。今度の班対抗実技試験であなたに勝ったら洗いざらい吐いてもらうわ」
「ちょ? は? なにを勝手に……」
「あなたの得意な剣技でもなんでも良いから全力で来なさい。私も全力でいくわ」
話が勝手に進んでいくんですけど。自動的に進んで行くんですけど!? 止まってくれませんかー!
「完膚なきまでに叩き潰してあげるから覚悟してよね」
まぁたなんかややこしいことになってきたなぁ……。
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