第12話 寮の部屋わりに納得できないみたい

「納得、できませええええええん!!!」


 珍しくヴィエルジュが叫び散らかしてやがる。


 彼女の声はワンルームの部屋に響きまくって、俺──リオン・ヘイヴンの耳をキーンとさせる。


 耳を塞いだってのに凄い声だったな。


「まぁまぁ。落ち着けって、ヴィエルジュ」


 どぅどぅと落ち着かせるが、ふんがーふんがーと、彼女の怒っているアピールは止まらない。


「これが落ち着いていられますか! 別室ですよ? ご主人様と別室なんですよ!? ああ……ご主人様と私のイチャラブ同居学園生活が……」


「同居系ラブコメは良きだよねー」


 メイドと同居するラブコメなんてどんだけファンタジーなんだよ。とか、ファンタジーな世界から発信してみせたりして。


「どうするんですかぁ。これからの生活どうするんですかぁ」


「いや、生活にはなんの支障もねぇだろ」


「大ありですよ!!」


 荒れてんなぁ。今日のヴィエルジュ大荒れですなぁ。


 彼女が荒れているのは寮の部屋のことである。


 全寮制のアルバート魔法学園へ、無事に合格できた俺達にも例外なく部屋が分け与えられた。


 正直、あんまり期待はしていなかったんだよなー。


 だって寮だぜ、寮。どんなイメージよ? って聞かれたらさら、狭くて汚い部屋に二人、三人をぎゅうぎゅうに詰め込んだ二段ベッドってイメージよ。


 それでも良い。全然良い。寝床があるだけマシ。ベッドで寝られるからめちゃくちゃ良いとまで思っていた。


 だけどそれは、良い意味で裏切られてしまう。


 部屋は一人一部屋。間取りは普通のワンルームって感じだ。


 え、なにこれ? 優遇され過ぎでは? なんて思ったよね。流石は由緒正しきアルバート魔法学園。生徒への扱いが手厚い。福利厚生最高。


 そりゃ確かにヘイヴン家の自室と比べると狭いが、一人暮らしをするのに何不自由ない部屋だ。


 それなのにヴィエルジュが荒れている理由──。


「普通に考えて男子と女子が一緒ってありえんだろう」


 アルバート魔法学園の寮は学年ごとに男子寮と女子寮に分かれているみたい。


 それは至って普通のことだ。


「私はご主人様のメイド。それなのに一緒の部屋じゃないなんて──」


 すぅーとヴィエルジュは大きく息を吸い込んだ。


「納得、できませええええええん!!!」


 これがヴィエルジュが荒れている理由ってわけだ。


 さっきから俺に割り振られた部屋で、超絶な絶叫タイムに突入してる。


「そう言われても規則なんだから仕方ないだろ」


「規則とか知りません! 私はご主人様の嫁なのに一緒じゃないなんて嫌です!」


「ヴィエルジュさんやい。興奮してさらっとメイドから俺の嫁にジョブチェンジしているぞ」


「メイドの未来予知なのですよ」


「強くて、可愛くて、料理ができて、未来予知までできるメイドとかチートのてんこ盛りだな」


 とか、話を脱線させている場合じゃないな。


「俺とふたりになったら色々問題あるだろうが。そもそも、この部屋にふたりは狭いっての」


「毎日ギュッ、しましょ♡ そしたら問題ありません」


「……ッ!?」


 ヴィエルジュと毎日ギュッとする。それはなんともそそるなぁ。アリよりのアリとか思ってしまっている自分がいる。


「ご主人様? ヴィエルジュと一緒なら、毎日お背中お流しできますよ?」


「毎日お背中お流し、だと……?」


 くっ! なんて魅力的なんだっ!!


 ヘイヴン家でそんなことをしたのなら、父上に半殺しにさせられただろうからな。その行為はヘイヴン家の家訓である紳士に背く行為。


 しかーし!


 追放されてひとり暮らしになった今、その夢も叶うってものなのか!


 ──あかん、あかん。今、思いっきり理性に流されそうになったわ。


「だ、だけど、ほら、ベッドもひとつしかない」


「毎日添い寝ができますね♡♡」


「くっほっ!」


 ヴィエルジュと毎日一緒におやすみをして、ヴィエルジュの体温と共におはようの朝日を浴びるのはなんて魅力的なのだ。そんな、俺は前世でどれほどの徳を──。


 あ、俺の前世、ただのブラック企業出身の社畜だったわ。


「ヴィエルジュ。俺の性欲をなめるなよ。今までは親の監視の下だったから理性を保っていたが、ヴィエルジュみたいな可愛い女の子と一緒に寝たら理性が爆発して襲っちまうぞ」


「ご主人様のリビドーなら全身で受け止める覚悟です♡ 子供なら何人でも望むままに♡♡ 私、がんばっちゃいますね♡♡♡」


「手を出すのを簡単に容認してくるのやめてくれー」


「子供なんぞ作ったら退学は必須。学園を退学になったらヘイヴン侯爵家を追放されている俺達は路頭に迷うことになるんだぞぉ」


「ご主人様との子供……えへへ、絶対可愛いですよ♡」


 ヴィエルジュの妄想スイッチオン。


 可愛らしいニタニタ顔で俺との将来を妄想しております。


「でもでも、やっぱり子供の前に結婚式を挙げたいですよね。あ、そうです。純白のウェディングドレスはご主人様が決めてください♡」


「話が明後日の方向へ跳躍してんぞ。どっからどうなったらウェディングドレスが出てくんだよ」


 とにかく! と話を戻してメイドにきつく言ってやる。


「ダメなもんはダメ。規則なんだから我慢する。わかったか?」


「やだやだやだー! ヴィエルジュはご主人様と一緒が良いですー!!」


 普段、クールで従順な完璧メイドな分、タガが外れると駄々っ子メイドとなってしまう。


 あまりにも激レアなヴィエルジュの状態に俺もたじたじになっちまう。


「うう……ご主人様はヴィエルジュと一緒したくないです?」


 ヴィエルジュの会心の一撃。


 潤んだ瞳の上目遣い。


 リオンに五億のキュンダメージ!


 わかっている。この上目遣いが計算尽くされたものだということはわかっている。


 だがな、このリオン・ヘイヴンに美少女の上目遣いは、効く! 効果抜群よ!


 結局ね、一緒に風呂だの添い寝だのなんだのよりも、ヴィエルジュの上目遣いには勝てんのだ! 


 こぉんの小悪魔めええええええ。


「ぅああああああ!」


 俺は我慢できなくなり、ヴィエルジュを抱きしめた。


「きゃん♡」


 漏れる甘い息が俺にかかり、俺のボルテージはMAXになる。


「寮長に! 寮長に相談しに行くぞおおおおおお!」


「はい♡ ご主人様♡♡」


 俺達はマッハで寮長に相談しに行き、秒で却下されちゃった。


 そりゃそうだわな。

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