第2話 追放されちゃった☆
リオン・ヘイヴンには夢がある。
一生、このヘイヴン侯爵家のスネをかじって生きることだ。
自分がゴミみたいなことを言っているのは理解している。
俺の性根が腐ってるのは前世のあの記憶が原因だ。
♢
部長と応接室で退職について話していると、急に部長が電話をしたんだ。
気が付けば俺の目の前には4人の男。向かって左から、部長、課長、先輩A、先輩B。
『きみは私達を裏切るんだね』
『いや……裏切るとかでは……』
『なぁ……』
課長がどこぞの仁義な人かのように偉そうな座り方でにらみつけてくる。
『今なら、吐いたつば飲みこんだら丸く収まるんやから、やめへんって言えや』
本物やん……。
やーさん課長の次に、先輩Aが不満気に言ってくる。
『勝手にやめるとか無責任やろ。転職はみんなでするもんちゃうん』
どこのバグった転職サイトのキャッチコピーです?
『……』
なんも言わんのかい! ただ社歴が1年先輩なだけの年下の分際で何しに来たんだよ、こいつ。
『こんだけ思われてるのにやめるって言うん?』
『すみませんが、やめ──』
『なんやねん。今まで一緒に頑張ってきたやんけ。同じ釜の飯を食うたやないけれど──』
圧迫面接よろしく。この、
そのおかげで無事に退職の話はなくなり、俺は心が腐ったまま前世の記憶を引き継いで転生しましたとさ。めでたし、めでたし。
世の中にはもっと苦しんでいる人もいると思うけど、これは腐るでしょ?
♢
運良く転生先では侯爵家の三男という、なぁんの責任も無さそうな立ち位置に生まれたことを神に感謝し、絶対に親のスネをかじって楽に生きて行こうと決めたわけさ。
しかし、嫌な予感がする。
ライオ兄さんに呼ばれた時というのは、剣の稽古という名の八つ当り。
今回は父上も一緒。父上に期待されていない俺が呼ばれることは稀だ。
「入学するステラシオン騎士学園のことではないでしょうか?」
屋敷の廊下から中庭に向かっている途中、ヴィエルジュがそれらしいことを言ってくれる。
「ああ。学園の話か」
由緒正しき騎士の家系であるヘイヴン侯爵家では、15歳の年に数々の英雄や王国騎士団長を輩出しているステラシオン騎士学園へ入学するのがならわしとなっている。
腐っていても、俺が世界的に有名なヘイヴン侯爵家三男ってことには変わりない。入学は必須。
間違っても優秀な成績なんて取っちまうと、色々なイベントが盛りだくさんになるから絶対に優秀になっちゃだめだ。
給料据え置きで業務が増えるのと一緒だからね。
日陰でコソコソ単位取って卒業すりゃ父上もなにも言ってこんだろ。
後はスネかじりボンバー発動で、まったりお屋敷生活。
子供部屋おじさんイン異世界の完成よ。
なんたる完璧な計画。
♢
「お待たせしました。父上。ライオ兄さん」
ヴィエルジュと共に中庭に出る。
視線が行っちまうのは、金髪をオールバックにした巨体の男、レオン・ヘイヴン。俺の父上だ。
この人のオーラは別格。
幾千もの修羅場を潜り抜けてきた騎士の中の騎士。
流石はステラシオン騎士団団長ってだけあり、オーラだけで何人か気絶できるんじゃないかと思ってしまう。身内ながらに恐ろしい人だ。
「おせーぞ! リオン!」
隣で剣を持って立っているのはヘイヴン家の次男坊、ライオ・ヘイヴン。金髪の短髪で切れ長の目の整った顔立ち。
身体の大きさは父上と同じくらいだってのに、やはり経験値不足か、オーラが小さい。
この人も同年代の中じゃ最強なんだろうけど、王国騎士団長と並ぶと月とスッポンだな。
「申し訳ございません。それで、今日はどのようなご用件で?」
質問には父上が答えくれた。
「リオン。今からお前にはテストをしてもらう」
父上がこちらへ剣を投げ渡してくる。
「テスト、ですか?」
剣を構えながら、なんのテストか首を捻っているところにライオ兄さんが突っ込んで来る。
「おめぇがステラシオン騎士学園に入るに相応しいかのテストだよ!」
答えと共に放たれるライオ兄さんの剣撃。
遅く感じる剣筋だ。
この世界の生物には強かれ弱かれ魔力が流れている。
転生特典なのか、俺の魔力はどうやら普通の人とは違うみたい。
太陽みたいな魔力が流れている。悪い魔力を浄化したり、太陽の光を浴びていると身体能力が上がったりする。
人間、お日様の下で生きてくもんだからね。お日様を浴びてバフになんのは嬉しいよね。
現在進行形でバフがかかっているもんだから、ライオ兄さんの剣撃が遅いのなんのって。
ま、バフがかかってなくても簡単に見切れますけどね。かっかっかっ。
だが、ライオ兄さんの攻撃を回避するわけにはいかない。
ここで回避してしまうと父上に期待を持たれてしまう。
期待を持たれるとどうなるか。
①父上の跡取りとして継承争いに巻き込まれる。
②騎士団に入団させられる。
③前線で戦わされる。
スネかじりが夢なのにこれ以上ない苦痛だわ、そんなん。
毎度やられているフリをしているが、今日も適当にやられたフリをして父上の期待を裏切ろう。
テストだなんだっていっても、由緒正しきヘイヴン家である俺がステラシオン騎士学園に入るのは必須だもんな。
キンッ!
「ウワー」
自分、演技は苦手なんです、はい。
ライオ兄さんの剣撃を剣で受けた瞬間、地面を蹴って吹き飛ばされたフリをする。
ゴロゴロとヴィエルジュの方へ転がる。
「ご主人様は相変わらず演技が下手ですね。そんなところも可愛くて好きですが」
「男子に可愛いは褒め言葉じゃないから」
ボソッと返してから立ち上がる。
「う、うう……」
適当なうめき声を出してみる。
よしよし。父上が憐れみの目で見ているぞ。
それこそが我が子供部屋おじさんイン異世界の第一歩だ。
「おらあ! 次いい!」
ライオ兄さんの追撃が来るので、適当に受け流そうとしたところ、「そこまでっ!」と父上の声が中庭に響いた。
スタスタとゆっくりと俺のところにやって来る父上は、いつもみたいな呆れた顔をしているかと思ったら違った。
ゴミを見る目をしていた。
「お前のような者はヘイヴン家にいらん。追放だ」
「……へ」
あ、やっべ。実力隠し過ぎた結果、無能扱いされて侯爵家追放されちった☆
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