侯爵騎士は魔法学園を謳歌したい〜有名侯爵騎士一族に転生したので実力を隠して親のスネかじって生きていこうとしたら魔法学園へ追放されちゃった〜

すずと

一章

第1話 平和な午後の昼下がり

 美味しい紅茶を飲んでいると、ふと前世のことを思い出しちゃった。


 前世の俺はしがない日本人。


 技術職だってのに営業みたくノルマ、ノルマと言われて疲労が溜まっていた。


 ある日、唐突に意識がプツンと切れたかと思ったら、ヘイヴン侯爵家の三男、リオン・ヘイヴンとして生まれ変わっていた。


 異世界転生ってやつだ。


 リオンとして生まれて早15年。すっかりこっちの生活にも慣れたんだけど、異世界の料理と言うのはあまり美味しくはない。


 前世の日本人としての記憶が残っているからこそ、日本料理の偉大さを思い知る。日本って美味しい料理ばっかりだったな。


 ああ……深夜に食べるラーメンをもう一度経験したいなぁ。


 なんて叶わぬ夢を抱いてしまう。


 美味しいものの少ない異世界だからこそ、美味しいものに触れると前世を思い出しちゃうね。


「本日の紅茶の出来はいかがでしょう? ご主人様」


 侯爵家の俺の部屋。


 窓辺に設置されたテーブルで午後の紅茶を楽しんでいると、隣に立っているプラチナの髪の美少女が首を傾げてくる。


 このプラチナの髪の美少女、単に美少女と片付けるだけでは収まらない程に美少女だ。


 後ろの髪は肩に届く程の長さ。もみあげだけ胸まで届いている長さの特徴的な髪型。


 たれ目気味なのに、顔全体で見るとクールっぽくも見える顔立ち。キュートとクールを良い具合に混ぜた神の最高傑作。


 身長はやや低めだが、成長が身長ではなく胸に行ったかのような豊満なボディ。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。でも痩せすぎじゃない理想的な美容体型。


 定番のメイドのカチューシャ。オーソドックスなメイド服をオフショルダーにカスタマイズしたメイド服が最高に似合っている。


 俺の専属メイドであるヴィエルジュだ。


「今日も美味しいよ。ヴィエルジュ」


 ヴィエルジュが淹れてくれる紅茶は日本で飲むよりも美味しい。というか、この子が作ってくれる料理は全てが美味しい。


 異世界で食事が楽しめるのはヴィエルジュのおかげだ。


「それは良かったです」


 可愛らしく手を合わせる姿に、可愛い笑顔だなぁとか油断していると、ちょこんと俺の膝の上に座ってきやがりました。


「ヴィエルジュさんやい」


「なんです? ご主人様」


「メイドが主人の上に乗っても良いもんかね」


「ご主人様は乗られるのが嬉しい派かと」


「確かに騎乗位派だな」


「ふふ。私、ご主人様のためにめちゃくちゃ頑張りますね♡」


「下ネタを普通に返されて焦っているところでまともな質問だ。なんで俺の上に座っている?」


「今日もご主人様へ美味しい紅茶を作ったご褒美です」


「ご褒美は与えられるものだ。自ら貰いに行くものではないぞ」


「私、積極的なメイドですので」


「そんな積極的なメイドさんやい。そろそろ俺の理性が爆発しちまうぞ」


「ご主人様の理性が爆発された場合、当主様の怒りが爆発するかと思います」


「死よりも恐ろしいや」


 理性を我慢しなかったら死よりも恐ろしい父親の説教が飛んでくる。いや、ありゃ説教じゃなく拷問だな。


 紳士たるもの紳士たる行動を。


 なぁんて古臭い家訓を掲げてやがるヘイヴン侯爵家だ。


 俺がヴィエルジュに手でも出したら死んだ方がマシだと思える罰を与えられるだろう。


 ぶるぶる。


 考えただけで恐ろしいや。


 しかしだね、それを差し置いても今の状況でヴィエルジュとイチャコラしたくなる。


 んで、この美少女メイド様は理性と欲望で揺らぐ俺を見て楽しんでやがりますとも。とんだドSメイド様なこった。


 そんな欲求の狭間にいると、俺の部屋が勢い良く開いた。


「リオン兄様!」


 バンッと、勢い良く開いた扉と同時に俺の名前が呼ばれ、長い金髪の少女が入って来る。


 妹のレーヴェ・ヘイヴン。


 年は俺と一つしか変わらない。


 妹に美少女と付けるのはシスコンみたいだが、客観的に見ても美少女だと言える顔立ち。


 身長はヴィエルジュよりも高いが胸は絶壁。うんうん、これから、これから。


「や、レーヴェ。丁度ヴィエルジュとお茶をしていたところだ。一緒にどう?」


「レーヴェ様。今日の紅茶も美味しくできましたよ」


「わぁい。ヴィエルジュちゃんの紅茶だー」


 無邪気に俺の向かいの席に座ると、手早くヴィエルジュが紅茶を用意する。


 いや、用意して立ったのならそのまま立ち続けなさいなメイドさん。


 なんで律儀に俺の膝に戻って来るんだ。この子ったら永久的に良い匂いがして理性やばいんだっての。


 でも、妹の前でオオカミになるのは絶対に避けなければならない。


 そんな妹のレーヴェが、カチャリと食器を鳴らす辺りに俺達といる油断が垣間見れる。


 ヘイヴン家の淑女たるもの午後のひとときもマナー違反は許されないからな。ま、俺といる時は例外だけど。


「うーん……美味ぃ」


 味わうように飲むレーヴェは昼下がりの空を眺めて落ち着いていた。


「ヴィエルジュの紅茶は美味しいよなぁ」


「だよねー」


 兄妹共に、ヴィエルジュの紅茶で満たされていると、膝の上に乗っかっている彼女が可愛らしく振り返ってくる。


「ご褒美の追加は頭なでなででよろしいですよ」


「妹の前でそんな恥ずかしいことできるかよ」


「では、頭なでなではふたりっきりの時にしてもらいましょうか」


 仕方ないとため息まじりにヴィエルジュは俺の頭をなでてくる。


「ヴィエルジュさんやい」


「なんですか? ご主人様」


「なんで俺の頭をなでてんの?」


「普通にご主人様の珍しい黒髪をなでたかったからです」


「きみはそろそろ離れなさい」


 そろそろ理性が限界なんです。


「無駄です」


「嫌とか無理とかならわかるけど、無駄ってなんだよ」


「無駄無駄」


「いやいやをする駄々っ子みたいに首を振るな」


 こちらのやり取りを、妹と言うよりは姉の様に見守ってくれているレーヴェ。


「今日もリオン兄様とヴィエルジュちゃんは仲良しだねー。平和だー……じゃないよ!」


 がちゃんとテーブルを叩いて立ち上がるレーヴェは焦った顔をしていた。


「こらこら。淑女的にどうなん、それ」


「リオン兄様といる時はどうでも良いの」


「俺もその方がありがたい」


「じゃないよ! ライオ兄様が中庭に呼んでる!」


「ライオ兄さんが?」


 はぁぁと大きくため息が出てしまう。


「まぁた八つ当たりかよ。ったく……」


「今回は違うと思うよ。お父様もいるみたい」


「父上もいんのかよ」


 なぁんか嫌な予感がするなぁ。


 うわぁ。行きたくなーい。

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