異世界魔王の右腕小説家 ~ペンとネコミミで世界征服のお手伝いをするのですっ♪~

@oonukimememe

第1話 人気小説家「ネコミミママ」!

 「よ~し、今日の執筆も終わり~!」


 びよ~んと背もたれに体重を乗せ、腕を上にぐーんと伸ばし、リラックスできる体制を取った。


 辻春広(つじはるひろ)は、年齢42歳の、「ネコミミママ」を名乗る小説家で、現在大ヒット中の転生シリーズの作者である。


 なかなか痛いペンネームで活動している彼だが、これでも過去には、超絶ブラック企業で一番下っ端として、20、30代前半の間は、ほとんどの時間を会社のデスクで過ごしていた経験がある。


 そんな業務を十何年と続けていた結果、ほとんど抜け殻のつまらぬ人間になってしまっていた。


 恋愛も趣味にもまともに打ち込むことができず、彼女歴=年齢の無キャとなった自分をなんとか変えようと思い、パソコンを使ってできる手軽に始められる趣味を業務中に見つけることにした。


 すると、ヒットしたのは、「Web小説家」だった。もっと深く調べてみると、作品を自由に投稿でき、上手くいくと、書籍として発売されると書かれていた。


 「本当か?」と疑いながらも、何か新しいことに飢えていた体にオアシスを与えるために、最近流行っていた「異世界転生」を基盤にした作品を書いた。


 どろどろの人間たちの間で生活していたからか、「青春学園物」のような爽やかな話ではなく、癖の強い人間たちのみで構成された人間の心理を突いた冒険作品が出来上がってしまったのだ。


 裏切り、仲間割れは当たり前。昨日の仲間は、今日の敵。しかし、その状況の中でも勇者は一人、魔王を討伐すると心に決めて魔王城への道を探す。という話だったが、ライトノベルにしては、あまりにも人間心理が現実に忠実に作られすぎているその作品は、社会の人気を買い、特に成人から絶大な人気を誇ることになった。


 初投稿の数話から大絶賛を勝ち取ったこの作品は、この後もとどまることを知らず、うなぎ上りに高評価をもぎ取っていった。


 春広は、小説を書くことがこんなにも楽しいことだと知ってからは、仕事の合間にちょこちょこ書いては新作を公開していった。


 さらには、休み時間だけでなく、業務中にも隠れて小説を書くこともあった。


 そして、投稿を続けていくうちに、ついに念願のアニメ制作の声がかかった。


 そこで、春広は、執筆一本で生活していこうと決め、企業を辞めた。


 アニメ化の影響で、成人だけでなく、中高年からも支持を得るようになり、ほとんどすべての年代が彼の作品に吸い込まれ、完全に一つの時代を築いていた。 


 そして、作品を発表すれば重版確定、アニメや映画にも引っ張りだこ、SNSでも莫大な人気を誇り、全てのアカウントでフォロワー100万人超えは当たり前ほどになった。


 そして、彼は現在、自身の作品を原作とした映画のスピンオフを書いているところである。

 その漫画は、もちろん転生シリーズ。


 映画の時間内に収まるように、作品の一部を厳選し、セリフを変えている作業の途中だった。

 「ふぅ。この調子で行けばなんとか締切には間に合いそうだ。このスピンオフを書き終えた後はまた転生シリーズの続編を書かなきゃいけないからなあ。なかなか忙しいが、自分で決めた道だから苦にはならないけどな」


 そして、彼は、また自身のパソコンの前に座ってスピンオフの執筆を進め始めた。


 本当なら、スピンオフは春広自ら書く予定では無かったが、「なるべく自分で書いて原作に近づけたい」という考えの下、自分で執筆することにしたのだ。


 このように仕事熱心な彼は、与えられた時間を全て創作活動に充てていた。


 仕事を辞めてからは、ほとんど誰とも話すことがなくなったが、ネット上で自身の作品が評価されているところを見ると、これで自分は幸せなんだな。と心の底から思った。

  

 数日して、映画のシナリオも書き終わり、普段通りに毎日の投稿をしているとある日のことだった。


 深夜の2時を回り、ある程度切りのいいところまで書き終えて、そろそろ寝ようかと洗面所に歯を磨きに行ったその時、洗面台の鏡に黒い覆面を被った体の大きな男が立っていた。


 慌てて春広が後ろを振り返ると、刃物を持ち、黒い服に体を包んだずんぐりとした男が春広の目の前に立っていたのである。


 「あ、あんた、だれだよ、、、何で人の家に勝手に入ってきてるんだよ」


 男は、刃物を春広の方に向けたまま動かなかった。


 「お前のことは、よく知っている。「ネコミミママ」という名前で活動しているそうじゃないか、まあ、ずっとお前のことをロックオンしていたのだから、当然といえば当然だからな」


 「あんた、ストーカーか?今すぐに出ていけ!じゃないと警察に通報するぞ」


 ポケットからスマホを取り出し、緊急連絡を入れようとすると、男は、刃物を持った手を上に掲げた。


 「お前、死にたいのか?せっかくここまで上り詰めたのにそれを全て台無しにするようなことをしてもいいのか?おとなしくスマホを地面において手を挙げた方が身のためなんじゃないか?」


 その言葉を聞いて、春広は、覆面マスクの男の言うとおりにスマホを地面に置いて手を挙げた。


 「あんた、何の目的で俺の家に入ってきたんだ!それと、あんたは誰なんだ!俺はネット上でも顔出しをしていないのに、ペンネームを知ってるんだよ!」


 「そうカッカするな。落ち着け。俺が侵入した目的は、金じゃない」


 「じゃあ、なんなんだよ、、、」


 春広の疑問に男は、ぼそっと言った。


 「お前のアカウントを乗っ取る。それが俺の侵入した理由だ」


 「ふざけるな!あんたなんかに、俺のさくひ、、、」


 「黙れ。これ以上喋るとわかっているよな。まあ、君と話すのもこれで最後になるんだけどねえ。なあ、、俺のこと覚えているよな」


 そう言うと、男は覆面を外した。


 「あ、お前は、、、前の職場にいた、、、」


 「ふっ、さようなら」


 男は春広に刃物を突き刺した。


 

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