第52話

「うう、確かに……よし! ミルリーフ様、良かったら勇者の剣を使ってみますか? あっ、あくまで今お貸しするだけですよ!? 差し上げませんよ!? 本当に!」

 父親もアルカンタラの提案に賛成だった。


「はは……分かってますよ。家宝は頂けません。でも、もし貸してもらえるんだったら、振ってみたいです」ミルリーフは言う。


 そうして、飾ってある家宝の剣を慎重に外し、ミルリーフに手渡された。


「これがおじいちゃんの剣……信じられないわ。まさかこの剣を振る日が来るなんて」

 感慨深げな表情になるミルリーフ。アルカンタラもソーサーの剣を近くでじっくりと見る。


「……うん。確かにソーサーの剣はこんな感じだったな。でもなぁ、ピカピカ過ぎるような気がしてならない……100年前の剣だろ……?」


 アルカンタラの小さなつぶやきなど耳に入っていないポピーの父親は目を輝かせ、勇者の剣を持つミルリーフに見入っている。


「うう……こんな光景が生きてる間に見れるなんて……感激です!」


 ミルリーフは再び剣を構える。

 そのたたずまいにアルカンタラの脳裏には、かつてのソーサーの姿がダブって見えた。


「ふふ、ソーサー、お前の子孫……孫の孫か? なかなか良い剣士になりそうだぞ?」

 アルカンタラは誰に言うでもなくつぶやいた。


 ミルリーフは地面に力強く踏み込む。

 そして、剣を振り下ろす……


『パキッ!』


「……ん?」

 嫌な音が響き渡る。金属の割れる音だ。


 ミルリーフは動きを止め、手に持つ勇者の剣に目を落とす。


「……う、うそ……?」

 ミルリーフは凍りつく。


「な、なんですか今の音――――え?」

 ポピーの父親も凍りついた。

 ミルリーフの手にはヒビの入った勇者の剣が……


「そ、そんな……我が家の家宝が……」

「お、お父様……」

 膝から崩れ落ちるポピー親子。


「ど、どうしよう……私なんてことを……」

 青ざめるミルリーフ、アルカンタラはスッと割れた剣に手を伸ばし、剣を眺める。


「……あー、やっぱり。オッサン、この剣は偽物だ。勇者の剣どころか最近作られた安物の剣だな。どおりでピカピカ過ぎると思ったら……」アルカンタラが言う。


「……え?」

 涙を流しながら、口をポカンと開ける父親。


 アルカンタラは割れた剣の断面を見せる。

 本当にソーサーの使っていた剣なら、作られてから100年は経っていることになる。しかし、割れた剣の材質は100年前には使われていない金属だった。


「俺も剣は詳しくねぇけど、これは最近の剣だろ?」


「た、確かに……この製造方法はここ30年ほどで使われるようになったものです……それにの金属の質が悪いな……え? つまりこの剣は……に、に、に、偽物……?」


「……残念ながらな」


 父親の目から光が消えた。


「そ、そんな……我が家の家宝が……家宝じゃなかった……?」

「す、すみません……私が余計なことをしたばっかりに……」


 崩れ落ちるポピー親子、そんな親子にミルリーフはどんな顔すればいいのか分からず、うつむいた。


「それにしてもまあ……ショボイ剣とはいえ、素振りだけで壊すとは……コイツ、ソーサー並みのパワーじゃねぇか……?」


 アルカンタラは一人静かに割れた勇者の剣(偽物)を見ていた。

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