第42話
ポピーの家に招待されたアルカンタラたち。
ひとまず、暗黒水晶の情報が入るまでの数日間はこの家のお世話になることに。
ポピーの家は豪邸だった。さすがは父親がギルドの所長だけの事はある。
それでいて、実用的な無駄に華美ではない家具の並べられた住み心地の良さそうな家だ。
それよりも驚いた事は圧倒的な本や資料の量だ。
まるで図書館のように、アムハイナ国王の資料室並みの貯蔵量だった。それもほんとんどが勇者パーティーに関わるものだ。
「ふふふ……お恥ずかしいことに、うちは先祖代々勇者の大ファンの家系でしてね……あっ、も、もちろんアルカンタラ様のファンでもありますよ!?」
「別にいいよ……そんな取り繕わなくて……」
アルカンタラはそういうものも、実際『アルカンタラ』と言う名前だけでピンときた様子のポピー親子は相当な勇者オタクなのだろう。
ポピー親子は得意げに、自宅の勇者コレクションを見せて回った。
「これはソーサー様が、エルフの森に行った際に使ったとされる湯呑みです!」
「あー、うん、湯呑みをこんなの使った覚えがあんなぁ」
アルカンタラは古びた木の湯呑みを見て、昔を思い出す。
「おお! やはり本物でしたか。当時を知っているアルカンタラ様のお墨付きですな。
そちらはソーサー様が精霊に送ったとされるお手紙です! 古いもので文字はかすれておりますが、精霊との友好がうかがえますなぁ」
父親はボロボロの紙をうっとりとした目で眺め。
「……こんなの送ったのかな? あー、この紙、見覚えがあると思ったら、どっかの国でもらった飯屋かなんかのチラシじゃねぇかな? ただの古い紙だぞ」
アルカンタラは古びた紙をペラペラと持つ。
「チ、チラシ……? そんな……ソーサー様と精霊の同盟の証の手紙と聞いて買ったのに……」
父親の顔がサッと青ざめる。
「……オッサン、騙されたんじゃねぇかな?」
「うぅ……で、ではこれはどうです? このオリハルコンの破片! これは勇者ソーサー様の装備品に使われていたという伝説の鉱物、オリハルコンです!」
緑色に輝く鉱物を大事そうに手に取り、アルカンタラに見せつける。
「……ああ、それは……」アルカンタラは気まずそうにつぶやく。
「それは……俺たち勇者パーティーの槍使いジャッジの槍の破片……だな?」
「むむ!? ソーサー様ではなくジャッジ様の!? ま、まあ勇者パーティーの品ならそれでも……! オリハルコンは今では採れない貴重なモノに変わりは……」
「……それオリハルコンじゃないぞ。ペドロっていうアムハイナの長老が売ってた偽物だ……」
アルカンタラは気まずそうにミルリーフをチラリと見る。以前、ペドロ長老のアイテムショップが偽物のオリハルコンを売りさばいていたことはミルリーフも知っている。
「そ、そんな…………」
「お父様……」
ポピー親子は肩を落とす。
「もう! 余計なこと言わなければ言いじゃない。夢みせてあげなさいよ!」
ミルリーフは小声でそう言い、アルカンタラをこづいた。
「ふ、ふふふ、しかし……我が家にとっておきがあります……」
プルプルと体を震わせポピーの父親はリビングへと案内する。
「あれこそが……我が家の家宝! 勇者ソーサー様の剣……つまり、勇者の剣です!」
リビングの壁のど真ん中、これでもかと立派に飾られた光り輝く剣をアルカンタラ達に披露する。
「どうです、アルカンタラ様!? あれは本物でしょう!? 本物……ですよね……!? ねぇ!」
額に汗をかきながらアルカンタラを願うように見つめる。
「おー、うん……たしかあんな感じの剣だったと思うな。俺は剣は詳しくないからよく分からないが、装飾なんかはソックリだ」
「ソックリじゃないんですッ! 本物なんです! この剣を勇者様は握り、戦い、魔王を斬ったんです!」
「お、おう……魔王を倒した後は俺は氷漬けだったから知らないが……よく見つけたもんだな。ピカピカじゃないか」
熱くなる父親に気押されるアルカンタラ。
「へぇ、あの剣で……おじいちゃんが……」
ミルリーフはしげしげと壁に飾られた剣を見る。初めてみる先祖の武器だった。
「よかった……あの剣が偽物だったら私はもう生きていけなかった……いくらしたことか……」
「お父様……よかったですわ!」
ホッと胸をなでおろすポピー親子だった。
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