第35話

「こ、これが森の主……」

 ミルリーフはゴクリとツバを飲む。冒険に出てから何度もモンスターとの戦いを経験し、魔法使いとして成長できてると感じていた彼女だが、森の主を前に体が硬直していた。


「ふふふ……こいつはなかなか手ごわそうだ、ミルリーフは下がってろ」

「で、でも……」

「いいから!」

 自分も戦闘に参加したいと思う一方、現段階の自分の魔法ではアルカンタラの足を引っ張ってしまうと感じたミルリーフは悔しさをにじませ、ポピーと2人で後方に下がった。


 自分のテリトリーを侵された森の主は怒り狂い、鼻息を荒くアルカンタラをにらみつける。


「いいぞ……この感じ……久しぶりだぜ」

 現代に甦ってから、間違いなく一番の強敵との対決にアルカンタラは喜んでいた。


 森の主はアルカンタラ目がけ突進する。通常のイノシシ5頭分はあろう大きな体でアルカンタラに向かってくる。


「あ、危ない!」

 戦いを見守るミルリーフはとっさに大声を上げる。


「……くらえ!」

 しかしアルカンタラは冷静だった。

 突進する森の主に手をかざし、衝撃波を放つ。


『ドンッ!』

 閃光がほとばしり、森が揺れた。


 イノシシモンスターの長い2本の角は砕け落ち、体を地面に倒す。

 森の主は一撃で戦闘不能になった。


「……なんだよ、案外弱ぇえな……」

 アルカンタラの繰り出した魔法は、今までの雑魚モンスターを倒してきた手加減した衝撃波ではない。しかし、フルパワーには程遠い半分ほどの魔力を込めた衝撃波だった。


「うーん、まあCランククエストのボスだもんな……こんなもんか」

 久しぶりの強敵のと戦いかと心を躍らせていたアルカンタラは拍子抜けした表情だ。


「……さすがね、アルカンタラ。まさか森の主を一撃とはね」

 アルカンタラの魔法を何度も見てきたミルリーフもあまりの強さに驚いたが、ポピーの驚きはそんなものではなかった。


「……す、すごすぎます……あのモンスターを一撃で……」

 ポピーは信じられないという表情で立ちすくむ。


「アルカンタラさん、あなたの魔法は……古代魔法ですよね……? と、と、と、という事は……アルカンタラさんは本物の……うぅ……」


 興奮しすぎたポピーは鼻血を撒き散らし気絶した。



「きゃあ! だ、大丈夫ポピーちゃん!?」

 ミルリーフはポピーを抱き抱える。恍惚の表情で白目をむいて気絶するポピー。

「……大丈夫そうね……。でもどうしよう、アルカンタラのこと……バレちゃったかしら?」


「……このガキ、古代魔法も知ってんのかよ……本当に何者だ?」


 こうして、アルカンタラ達のクエストは終わった。

 森の主討伐の証明に折れた長い角を持って帰ることにした。


 しかし、この時アルカンタラ達は気づいていなかった。

 Cランククエストの討伐対象のモンスターは森の入り口で全滅させたコウモリモンスターだったことを……



◇◇◇作者あとがき◇◇◇


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