第13話:化粧品

「うっるっるちゃ〜ん!飲んでる〜?」


 節目瑠々子が姫乃澤うるるに後ろから抱きつくみたいに覆い被さって絡んできた。


「節目さん、結構飲んてる感じ!?」

「へっへっへ〜、帰りがけに送り狼されるの♪」


 ダメだろそれ。


「誰か狙ってるの?」

「うへへ〜。ひ・み・つ♪」


 めんどくさい絡み方だなぁ。姫乃澤うるるも心なしか笑顔がかげってる。


 でも、その関係は『高校生らしい』。大人になって社会に出たら、会社の人とこんな感じになることはない。


 そもそも会社関係のつながりって『会社の人』って感じで、『友達』ではないように感じる。


 10年ぶりに会ったってのにこんなに親しくできるのは、やはり『高校生らしい』と感じる。


「節目さん酔ってるなぁ〜」

「うるるちゃんばっかり見てる坂本に私を見るようにさせないとだから!」


 ん?節目瑠々子は坂本に気があるのか!?


 また面白い組み合わせだけど、二人とも今回の同窓会の幹事だから元々つながりがあるのかもしれない。


「そ・れ・に・してもぉ~」


 今度は節目瑠々子が姫乃澤うるるの目の前に来て、両掌で姫乃澤うるるのほほをサンドイッチした。


「この肌のきめの細かさはなに!?高校生から変わってないの!?」


 どうも肌のきれいさを妬んでいるらしい。


 高校時代の節目瑠々子は面倒見がいい生徒だった。


 それが、酒が入るとこんな風に絡むとか、高校時代では想像もできなかった。


「どこの化粧品使ってるの?」

「どこのって、自分で作ってるやつだよ」

「え?化粧品自分で作ってるの!?できるの!?化粧品って!」


 なんだか酔いが覚めたくらいの勢いで節目瑠々子が驚いている。


 たしかに、化粧品ってなんとなく『買うもの』って思ってた。なんでもできてしまう姫乃澤うるるは、益々すごいことが分かった。


「作るって言っても、化粧水と乳液だけだよ~」

「ちょっと待って、良いファンデがあると思ったのに、これすっぴん!?」

「一応、軽く……って、節目さん、恥ずかしいから!」



 なんか化粧の話って女子トークっぽくて男の俺が聞いてていいのだろうか。


 少し恥ずかしくなって、俺はハイボールを一口飲んでその場の空気に溶け込んだ。


「……だから、高校の時から簡単な化粧品を作ってたの。私は肌が弱い方だから、自分に合うように微調整をして」

「うっそ。化粧品を作る人とか初めて聞いた!そう言えば、高校の時からお化粧してたもんね!」


 ビールのグラス片手に節目瑠々子が驚いている。


 高校の時は化粧をした姫乃澤うるるは大人に見えた。でも、大人になった今 見たらナチュラルメイクって言うのか、随分自然な感じに見える。


「今、化粧品の会社にいるから、試作品とか出来たらあげるね」

「ホント!?マジ!?ありがとう!これで私も姫乃澤うるるになれる!?」


 なんかめちゃくちゃ喜んでる。節目瑠々子はどっちかって言ったら『かわいい系』だ。


 一方、姫乃澤うるるは間違いなく『美人系』だ。どうやっても節目瑠々子は姫乃澤うるるにはならないと思うが……。


 しかし、メイクで別人になるという動画とかも多いみたいだ。なにがどうなるのか男の俺では分からない。ここは口を出さないのが吉だろう。


 節目瑠々子はビール瓶とグラスを持って他の席に行ってしまった。すごくご機嫌だった。


「化粧品を作っちゃうんだ。すごいね」


 そのままなかったことにするのは難しかったので、俺は一言だけ言ってみた。


「聞いてたの?恥ずかしい」

「俺は男だから化粧のこととか分からないけど、自分で作るなんてすごいと思うよ。市販品には余計な物とか入ってると思うし」


「そう!そうなの!一般的な化粧品にはパラベンとか、フェノキシエタノールとか防腐剤が結構入ってて、品質の安定のためとはいえ……あ、ごめん。つい……」

「いや、本当なんだね。化粧品に詳しいね」


「その……今は、化粧品の会社に勤めてるから……。商品開発を……」

「化粧品の開発とか、一部の優れた人しかできないんじゃない!?やっぱり、姫乃澤さんは優秀なんだね」

「いえ、そんな……」


 珍しく姫乃澤うるるが照れている。高校時代の彼女はいつも自信満々に見えたから新鮮だ。


「あれ?お店の手伝いは?」


 姫乃澤うるるの家は定食屋だった。


 家の手伝いをしているって聞いたので、毎日定食屋で料理をしていると思ったのだけれど、違ったのだろうか。


「あ、仕事が終わったら家に帰ってお店の手伝いをしてるの。夜はお酒も出すから少し忙しくて」

「そうなんだ」


 それなら、昼間に行っても姫乃澤うるるはいないのか。


 あの『豚みそ』を堂々と食べに行くにはかえってよさそうだ。


「あ、今 昼間にお店に来ようと思ったでしょ!」

「あ、いや、そんなことは!」


 思った以上に鋭くて、俺は無駄に嘘を塗り固めていくのだった。

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