【アナライザー】

天野小麦

【第一部】

〔結成編〕

第1話 再会

 驚くくらいの静寂に包まれていた。


私は暗闇の中で息を飲んだ。


胸の鼓動が抑えきれない。


どんどん速くなって、今にも爆発しそうなほど気持ちが高揚していた。


 さっきまでの熱狂は台風のように消え去り、代わりに涼しい風が頬を撫でた。


アリーナに詰めかけた約4万人もの観客が、彼らの登場を今か今かと待ち望んでいた。


 ベースが鳴り、たちまちビリビリと身体に電流が走った。


ドラムスティックを叩く音がだんだん速くなっていくにつれ、会場もザワザワと蠢き始めた。


 次の瞬間、一気にステージが明るくなり、私は思わず目を細めた。


そして、徐々に目が慣れてきた頃、もう一度目を移すと、そこには3人のシルエットがあった。


 大歓声の中、彼らの演奏が始まった。


 ◇


 8月も終わりに近づき、蝉の声をすっかり聴かなくなった。


あんなにあった夏休みも残り僅かだった。


 私は親友のトモコと最後の休日を楽しんで、帰路につくところだった。


明日からは、溜まりに溜まった課題をこなさなければならない。


 憂鬱な顔で歩いていると、季節外れの鳴き声が、どこからともなく聴こえた。


その瞬間、私は電子レンジに入れられたみたいに、分子レベルで身体が熱くなった。



偶然の出会いだった。


今はそうとしか言いようがない。



 周りの動きはだんだん遅くなっていくのに、頭に入ってくるメロディーは徐々に鮮明に形となって浮かんでくる。


そう、それは間違いなく彼の奏でる音だった。


単に音階とか、テンポとかそう言うことではない。


 もっと言葉では言い表せない、独特の雰囲気が私を包み込んでいた。




 彼は5年前、中学一年生の頃の私の心を奪った、3人の内のひとりだった。


当時彼らを知らない人はいなかったし、テレビやラジオには必ずと言って良いほど出演していた。


 彼の名前は樋口竜也。


ベース担当でチームのムードメーカーでもある。


バンドが解散した後は音楽業界から去り、ファンやメディアに大きな衝撃を与えた。


 世界的なギタリストが、こうも簡単に辞めてしまうものなのかと、私は失望した記憶がある。


その一方で、それほどあのバンドチームを大切に思っていたという証でもあった。




 私は戸惑うトモコを近くのベンチに座らせ、「待ってて」 とだけ伝えて荷物を預けた。


私の足は、彼の方へ走り出していた。


 後から聞いた話だが、その時トモコは私に何度か声をかけたらしい。


しかし、私の耳には心を熱くさせるギターの音しか聴こえていなかった。

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