白月狼族の双子 その2

「こちらで少々お待ちください」


 俺が通されたのは同じ奴隷館の二階。ゼルがいた部屋とは異なり、白を基調としたとても綺麗な部屋となっていた。


 蓮は商人が出ていくのを確認し、ホッと一息つくと、先ほどまでのゼルとの話で一番興味深かったことを思い出す。



『メルはレベルが一つ上がっただけで合計のステータスが13も上がったんだ!』


 ゼルがメルを褒めている際に言った事だった。


 本人は無自覚で言ったのかもしれないが、俺からしたら値千金の情報。


 レベル1上がっただけで、合計のステータスが13も上がる。これは異常だ。


 普通種族はレベル1上がるだけで合計のステータスは平均して5~8上がり、上位種になると10以上、上がる事もあるが……まさか。


 メルとゼルは上位種なのか?



 レベルが1上がっただけでそのステータスの上りよう。


 ゼルの話を聞いている限り、姉のメルはいい素質を持っているし。もちろん、ゼルも双子らしく、レベル1上がっただけで合計10も上がった様子。


 これは二人共欲しくなっちゃうだろう。


 これが終わったらすぐに周回に取り掛かんなくちゃな。



 蓮はメルとゼルを手に入れるべく、気合を入れる。


 トントントン。


 来た。



「いいぞ」


「お連れ致しました」


 入ってきたのは商人と、とても綺麗な獣人の女の子。



 え? あの子がゼルの姉だって?


 真っ白な肌に真っ白な尻尾。そして、真っ白な髪にとてもマッチした薄青色な目。その目は俺の心を見透かしているかのように恐ろしく、そして綺麗であった。


 ゼルとはとても似つかない……とでも言おうと思ったが、あの場は暗すぎて顔が確認できなかったんだった。でもな、よくよく考えてみたらメルがこれほど綺麗なんだ。ゼルも風呂に入れて食事をとらせたらいい男なるに違いない。


「お客様。この子がメルです。ほら、挨拶をしなさい」


「ご挨拶遅れました。フューロ・メルと言います」


 一つ一つの動作も美しい。


 メルは純白のワンピースを靡かせ、蓮に挨拶をする。



「どうでしょうか。メルは当店で1、2を争う看板商品。既に数組の貴族の方々にお声がけを頂いておりまして……「いくらだ」――はい?」


「その子はいくらだと聞いている」


 商人は目を大きくさせ、ニコッと笑う。


「この子はお客様でも流石に無理があると思いますので、下にいる子の誰かに」


 元から見せるだけのつもりだったんだろう。


 上玉を見せてから購買意欲を誘い、それよりも安い子たちを買わせようと。



「いいから値段だけを教えてくれ」


「……」


 商人は蓮の圧に押されて黙ってしまう。そして、小さく口を開き。



「2500万です」


「分かった」


 蓮は一言だけ発し、立ち上がる。


 2500万。今の俺からしたら少し高い金額だが、スキルブックが数個出たら全然買える金額だ。



「数日中にその子を買いに来る。他の貴族よりも早く金を持って来れば問題はないだろ?」


「も、もちろんでございます!」


 それから蓮はメルを一度も見ること無く、扉へと手をかける。


 

「……あともう一つ」


「なんでございましょう」


「下にいた獣人の……」


「ゼルのことでございましょうか」


「っ! ゼル……」


 ゼルという言葉が出た瞬間。メルの白い耳がピクピクと反応し、小さく言葉を漏らす。



「彼も一緒に購入を考えている。値段は……」


「ご一緒に購入を検討いただけるのでありました、合計2600万で結構です」


「そうか」


 最後に聞きたいことを聞けた蓮は、その場を後にしようとした時。



「あの……」


「うん? 俺か?」


 蓮が後ろを振り向く。


 さっきまでほんの少しも表情を変えなかった彼女が、感情を取り戻したかのように慌てている。



「お名前を……貴方様のお名前を教えてください」


「蓮だ」


 するとメルは胸に手を当て。


「レン様……覚えました」


 大事そうに蓮の名前を呼ぶ。


 なんだ。いい顔も出来るじゃないか。


 女性の温かみを感じさせる表情。うん。悪くない。



「じゃあ、また来る」


「はい。いってらっしゃいませ」


 この瞬間、彼女は何かを感じ取ったのだろう。メルはまだ、蓮の奴隷では無いのに、ご主人を……蓮を戦場に送り出すかのように、誰もが見とれる笑顔で蓮を送り出したのだった。

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