かくれんぼダンジョン その2


 よし、始まった。


 蓮は目を開き、歩き出す。



 次の目印は……あった。


 少し足を進めた所で立ち止まる蓮。



 ここからのかくれんぼは意外と簡単だ。


 蓮は地面に落ちているチカチカと光る粉を発見し、手ですくい上げる。



 これは妖精の粉といって、その名の通り妖精が羽をばたつかせる際に落とす、蝶々でいう鱗粉みたいなものだ。妖精の粉自体に価値は無いが、この粉が落ちているという事は、かくれんぼ妖精がこの場所を通ったということ。


 これから俺はこの粉を目印に森の中を駆け巡ることになる。



 蓮は手についた粉を振り払い、走り始める。


 待ってろよ! かくれんぼ妖精!



 それから蓮は粉のある方へ走り続け、粉を見つけては止まり、方向を変えて走り始めるという事を計10回ほどした時だった。



『ふふふ……人間さんはまだかな? まだだろうな……。かくれんぼ楽しいな』


 声が聞こえる……妖精か?


 静かな森の中でクスクスと笑う声が蓮の耳に入る。



 早めに見つかったな……今日は運がいい。


 いつもはもっと遠くに隠れたり、途中で妖精の粉を見失ったりして時間ロスする事が多いのだが、今日は近くに隠れていた事と粉を見失っていない事が重なり、好タイムが期待できる様子。



 蓮はゆっくり声のする方へと近づき。


 ……いた。


 木の窪みで口に手を当てながらじっとしている妖精を見つける。


 俺の気配に気が付いて、口を閉じてやり過ごそうとしているつもりなんだろうが……



 蓮は足音を立てずに慎重に妖精の背後につき。



「みーつけた」


『っ! 見つかっちゃった……』


 妖精は羽を広げ、蓮の周りを飛び始める。



『こんなに早く見つかっちゃったの初めてだよ! 人間さん、凄いね!』


「そりゃどうも」


 蓮は飛び跳ねて喜びを表現する妖精を目で追いながら。


 早く報酬をくれないかな……時間が過ぎていっちゃうだろ。


 内心、早く終わらないかと思っていた。



『僕と遊んでくれたお礼してあげる!』 


 よしきた。


 蓮は目をキラキラさせて報酬を待つ。



 これがルベリックの新緑ダンジョンが有名になった理由。精霊の報酬だ。


 精霊はこうやって、ダンジョンへとやってきた者にアイテムを授けてくれる時がある。


 それは気まぐれからであったり、こうして妖精の願いを聞いてやったりした時など、シチュエーションは様々だが。



『うーん! 開け―ゴマ!』


 妖精は空中で一回転した後に、何もない場所へ言葉をかけると、そこへ扉が出現する。


 出た。妖精の宝物庫。


 

 妖精の宝物庫――妖精にのみ自由自在に開け閉めできる宝物庫。妖精それぞれに別々の宝物庫があり、生涯をかけてその中に宝を収集していくという趣味を持っている。



『ちょっと待っててね』


 妖精はその宝物庫の中へと入って行く。



 このダンジョンを攻略する理由が、この妖精の宝物庫だ。


 妖精は本当に多くの貴重なアイテムをこの宝物庫保管している。


 それは金銀財宝だったり、珍しい武器だったりと様々だ。



 その中でも、俺が一番に狙っているアイテム。それが、スキルブック。


 スキルブックは基本、超低確率でモンスターが落とすアイテムとなっているのだが、これが本当に落ちない。


 しかも、モンスターによって落とすスキルブックはまちまちで、それらの殆どが使えないスキルブック。


 だが、このダンジョンの隠しクリア条件を達成した時にだけ妖精がくれるスキルブックの中で、俺が喉から欲しいものがある。


 それが、HP視認のスキルブック。


 このスキルブックは非常に有用で、これからのダンジョン攻略に必ず必要になってくるんだが。



 蓮を待たせる事数十秒。


『お待たせ!』


 妖精は手一杯にアイテムを抱えて宝物庫から姿を現す。



『はい! この中から選んで!』


「こ、これは……」


 蓮は妖精が持ってきたアイテムを見て、驚愕する。



 このアイテムたちは……


 目の前に差し出された3つのアイテム。


 

 蓮はドヤ顔している妖精とアイテムとを交互に見比べ。




 すげー要らないんだけど……


 蓮は冷めた視線をアイテムたちに向ける。



 なんだよこのアイテムは!


 蓮は一つずつアイテムを手に取り。



 びっくり茸に白涎鳥の羽?


 最後に至ってはただのウルフの牙じゃないか!



 やり場のない思いを内心にため込む。



 すると蓮は肩をがっくり落とし。


「白涎鳥の羽をもらうよ……」


 一見、ただの羽にしか見えないアイテムを選ぶ。



『分かった! じゃあ、また遊んでね!』


 そうして妖精は、他二つのアイテムを持ったまま宝物庫と共に姿を消す。



 蓮は妖精がいなくなった後の場所をじっと見つめ。



「はぁ……周回確定だな」


 小さなため息とともに、周回確定を確信し。


 その後すぐに出てきた帰還ポータルに入って行ったのだった。




~~~


『NEW RECORD! おめでとうございます! グリード様のお名前を殿堂へと記録しますか?』


 そんな気分じゃない。


 蓮は次の画面へと飛ばす。



『記録 2時間32分45秒』


 いい。凄く、いい記録なんだが……


 蓮は先ほどの報酬を思い出し。



 流石に報酬がこれだけって落ち込むよな……


 手に持つ白涎鳥の羽を見て、落ち込む。



 分かってた。分かってたさ。簡単に俺が欲しいものは手に入らないだろうと。


 前世でもこのダンジョンの周回を数えきれないほどやってきた蓮。



 その度にいらないアイテムと何度も顔を合わせて、モニター越しに文句をひたすら垂れ流しながらも攻略してきた日々を思い出しながらも。



 でも……これはあんまりだろ。何だよ、白涎鳥の羽って……


 内心で愚痴を爆発される。



 それから数分後。



「ふぅー。スッキリ。次いこう」


 愚痴を出し切って、すっきりした様子の顔。


 じゃあ、目的のアイテム。HP視認のスキルブックが出るまで周回し続けるぞ!



 これが地獄の周回チャレンジになるとは露知らず。蓮は今日という時間が許す限り、周回に明け暮れるのであった。

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