初めての装備 その1
「これは……」
俺の目の前に広げられたのは色んな装備の数々。
全部品質は良さそうだ。どれどれ……まずは……
一番手前にあった装備を持ってみようと手を伸ばした時。
「こら待て。一つずつ説明するから」
肉球が俺の手に乗せられる。
触らせてくれたっていいじゃないか。
装備を目の前にお預けされる辛さ。
俺は無言でメリニャに訴えかける。
「わ、分かったから。そんな睨みつけてくるな! ゴホン。じゃあまず……」
メリニャは俺の圧にたじたじになりながらも、器用に二本足で立ち上がり、ある装備を持ち上げる。
「これは籠手じゃ。名を闇夜の籠手という。性能としては……」
そしてメリニャからの装備説明が始まり、静かに聞く事十数分。
分かった事を簡潔にまとめると。
・闇夜の籠手―――DEF(防御力)+2、AGI(素早さ)+2
・暗がりの服―――DEF(防御力)+4、AGI(素早さ)+4
・闇夜の靴――――DEF(防御力)+1、AGI(素早さ)+5
・闇に紛れる剣――STR(力)+4、AGI(素早さ)+3
となっていた。
うん。大満足。
DEFが計+7。AGIが計+14。STRが計+4となっており、ステータスの大幅向上が見込める。
こんなにもいい装備を30万ポイントでって、他じゃあり得ない。
蓮が装備にも値段にも大満足していたその時。
「あのな……実は話していなかったことがあるんじゃが」
「どうしたんだ? ばつの悪そうな顔をして」
メリニャは気まずそうな表情で蓮に話しかける。
「最初は30万ポイントで探していたんじゃが……」
目が泳いでいる……これは何かありそうだ。
「うん? あぁ、これな。ありがとな、30万ポイントで売ってくれて……「50万じゃ」……え?」
俺の聞き間違いか?
蓮は目をパチクリさせ、もう一度聞きなおす。
「30万……」
「50万じゃ」
「「……」」
二人はじっと見つめ合ったまま、固まってしまう。
俺最初、30万ポイントで買える範囲でって言ったよな? ライセンスカードを見せて。
蓮は顎に手を置いたまま、考え始める。
確かに悪くはない。むしろ、序盤の装備としては上出来の方だ。
AGI(素早さ)が10以上もアップするし、そのお陰で攻略スピードも一段と増す。何より、これから行くダンジョンではちゃんとした戦闘もするつもりだったから装備で防御力も上げておきたいと考えていた。
「うーん」
……別に50万でも良くないか?
考えている内に、この装備で50万は安いのではないかと思い始める。
この世界は物価が高くなっている。それなのに、前世とあまり変わらないこの装備の値段。
これは買うべきじゃないのか?
「……別に無理とは言わん。もう一度30万で買える装備を見つけてきて……「いや、これでいい」……今何て?」
メリニャが驚いた様子で蓮を見る。
「この装備を買わしてくれ。だが、今の手持ちはさっきライセンスカードに記してあったので全部」
するとメリニャは嬉しそうな顔をして。
「それはいい。つけにしといてやる」
「本当か?」
「じゃが、必ず返しに来るんじゃぞ」
「もちろんだ」
最後には二人共笑顔になっていた。
こうして蓮は手持ち分は支払い、装備を持って備え付けの着替え室に入って行く。
「うん。着心地もバッチリだ」
蓮は鏡の前で至らぬ点が無いかどうかをチェックしていく。
「ちゃんと急所は守られているし、動きやすさも問題ない。むしろ、AGI(素早さ)が上ったお陰か気持ち、速くなっている気がする」
こんな狭い場所で走る事は出来ないから、ダンジョンで試運転だな。
蓮は満足げに更衣室から出ていき、問題ない事をメリニャに伝える。
「そうか。それは良かった。また、いつでもくるがよい」
「こちらこそ助かった。また来るよ」
ダンジョン産のアイテムを売りにな。
またしても悪い笑みを浮かべ、店を後にする蓮。
ブルっ。
「誰か儂の噂でもしとるんかな」
こうして蓮は新しい装備と共に、今日の目当てのダンジョンへと向かっていくのであった。
~~~
『風吹く丘ダンジョン』
危険度:2
初回最速クリアタイム:2時間21分59秒
最速クリアタイム :1時間10分22秒
クリア条件 :モンスターを15体討伐
風吹く丘ダンジョン。別にどうってことないダンジョンだ。
クリア条件はご覧通り、モンスターを15体討伐。モンスター指定はないから、好きなモンスターを15体倒せばいいだけの簡単設定。
「始めてくれ」
『RTAを開始します。しばらくお待ちください。ロード中……』
視界の景色が一変し、なだらかな丘に草花がゆらゆらと揺れる、見ているだけで気持ちが安らぐステージへと変わる。
『風吹く丘ダンジョン開始まで……3……2……』
カウントダウンが開始される。
このステージは確か……
蓮は周りをキョロキョロと見渡し、モンスターが居そうな場所を記憶だよりに探る。
『スタート!』
開始の合図が打ち鳴らされる。
「――疾走」
開始早々にスキルを発動し、自身が持てる最高速度で丘を駆けあがっていく。
「おお! 速い!」
装備でAGI(素早さ)が14も上がったのは伊達じゃないな。
蓮は新しい装備に満足し、興奮気味に辺りの状況を探り始める。
周囲には敵はいない。
走りながら周囲を良く見ていき、敵がいないかを探る。
もう少し開けた所にいって……いた。
開けた場所に行こうかなと考えていた矢先、このダンジョン初めてのモンスターが出現する。
「あのモンスターは……」
後ろ姿がまるで子犬の様なあいつは。
ワイオン――危険度1。子犬の様に可愛い見た目をしていて、トテトテと歩く姿はとても愛嬌がある。しかし、こいつらの本性は凶暴そのもの。近づくと凶変し、牙をむき出しにしながら襲い掛かってくる。
俺はスピードを落とさずワイオンへと近づいていく。
「クンクン……っ! ガォ!」
気づかれたか。
ワイオンは匂いを嗅ぎ始めると、突然後ろを振り向き、蓮を視認すると口を大きく開け、牙を見せながら突撃してくる。
じゃあ、次は……これの出番だな。
蓮は走りながらマジリック店で購入した、闇に紛れる剣を抜く。
いつも通りに……敵に剣が届く距離を見極めろ。
「ガオガオ!」
「フン!」
そして、一体と一人がぶつかる寸前に蓮は剣を横振りし。
「ガっ!?」
ワイオンを両断する。
「まずは一匹」
倒されて体が消え始めるワイオンを横目に剣をしまい、ドロップしたアイテムをそのままにして走り続ける。
あんなアイテム一つ拾ったところで100ポイントにもならない。次に行こう。
こうして蓮は丘を登り続けていくのであった。
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