木漏れ日の森ダンジョン その2
走り始めて十数分。
「疾走」
目に見えて蓮の足の回転が速くなり、木々の間を縫うように通り抜けていく。
いやー、疾走スキルがあって良かった。
スキルは使用後にクールタイムがあるが、疾走スキルは数秒とクールタイムが短く、連発して使える優れもの。ただし、普通に走るよりも疲れが溜まり、数回連発した後は少し間を空けないと息が上がってしまう事が分かった。
自分がキャラを動かしている時とは違うな。色々と分かっているつもりでも、実際にしてみないと分からない事が沢山ある。
蓮は疾走スキルを無理ない程度に使いながら木々が鬱蒼としている場所を抜け、しばらくすると。
「ここか……」
木々一つ生えていない、不自然に開けた場所へと到着した。
目の前には古びた石像に小さな湖が一つ。
道は間違っていなかったようだ。
「じゃあ、始めるか。えぇと……あった」
俺は周りを見渡し、今のステータスでは到底持ち上げられそうにもない大きな岩を見つけると。
「ちょっと大きいか? でも、これ以外だと小さすぎるし……仕方ない……ふん!」
周りを見渡しても丁度いい岩が無かったため、最初に選んだ大きな岩を目一杯力押しし、ズズっ、ズズっと音を立てながら湖の方へとゆっくりと押し始める。
「っ! 重すぎるだろ。でも、あともう少し……うりゃー!」
そして、力一杯湖まで押していき。
「最後!」
そのまま湖の中へと岩を落とす。
「はぁ、はぁ……。おぉ……ちゃんと落ちていってる」
息を乱しながら、湖の奥深くへとゆっくり落ちていく岩を観察したのち。
「ふぅー」
俺は仕事をやり終えたと言わんばかりにそこで横になり、休み始める。
え? RTAはいいのかって? 大丈夫。もうすぐ……
「うわっ!」
気を抜いてボケーっとしていた蓮の目の前にウィンドウが表示される。
「そう言えば、レベルが上ったらウィンドウが現れるんだっけ……。ちょっと今はRTA中だから表示を消してっと」
レベルを確認したい気持ちをグッとこらえ、表示されたウィンドウを消し、その場で立ち上がると。
「お、出たな」
クリアした事を示す、ポータルが俺の目の前に出現したのだった。
ここで、皆はこう思った事だろう。何故、このダンジョンがクリアできたのか……と。
確かに、初見の人からしたら十数分森の中を走って、大きな岩を動かして湖の中に落とした、ただの変人にしか見えないだろう。しかし、俺はその行動の中で、あるモンスターをちゃっかり討伐していた。
そのモンスターとは……
「グランスライム……スライムの変位種だ」
グランスライム――危険度3。水中の中で一生を凄し、最大で10メートル以上に成長する個体も存在する。スライム同様、中心にある核を破壊する事によって倒すことが出来る。しかし、水中から出てくることは滅多にないので、水中戦で倒す必要がある。
この木漏れ日の森ダンジョンの隠しクリア条件はグランスライムの討伐。
そのグランスライム本人は俺の目の前にある湖の奥底に生息している。
ここまで言えば勘付く者も多いのではないだろうか。
そうだ。俺はこの湖の中に大きめの岩を落としていた。
普通ならこんなよわよわステータスではこのダンジョンのボスですら倒せるか怪しい。それなのに、その上を行く危険度3のグランスライムと真正面で戦ったりしたら……
「ぶつかっただけで終わりだな」
だが、所詮はスライム。核さえ破壊すればどんなスライムの上位種だろうと一撃。
しかも、この湖は下に行けば行くほど狭くなっていく構造な為、湖の上から大きめの岩を落とせば、コロコロと転がって誰でも簡単に危険度3のモンスターを倒せるようになっているんだ。
あのスレを立ててくれた奴に感謝だな。
そうして俺は、ポータル出現を予感していたかのようにニヤリと笑みを浮かべると、躊躇なくポータルへと入って行くのであった。
~~~
俺が報酬部屋へたどり着くと、直ぐにウィンドウが表示される。
『ロード中……。NEW RECORD! おめでとうございます! グリード様のお名前を殿堂へと記録しますか?』
思った通りNEW RECORDだな。記録はいくつだ?
俺は手でスライドさせ、次の画面へと移る。
『記録 21分01秒』
最速クリアタイム1時間03分12秒を優に超える記録が表示される。
この最速タイムは馬鹿正直に正規のダンジョンボスを倒した結果だろう。それでも、ちょっと遅いけどな。
「初回にしちゃ、まぁまぁな記録。ステータスを上げれば20分切りも見えて来るな」
そうして俺は前の画面にまた戻り。
「殿堂への記録はまた今度で……さてさて、報酬タイムの時間だ!」
お待ちかねの報酬タイムへと移るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます