第10夜

 悪魔は先ほどの攻撃で鎧が砕かれて瀕死の蓬郷を見下ろした。

 先ほどの怒りが嘘みたいに、憐みの目線とともにゆっくりと話し始めた。

 

「もろい……実にもろい……。私に傷をつけたというのに……。我が名はバアル。貴様、名は?」

 

「蓬郷流星……世界1のイケメンだ!」


 自らの受けた屈辱を忘れないために名前を記憶する。

 この場に戦える者がいないことで完全に油断しているバアルに力を振り絞って剣を振るう……しかし届かない。


「油断していると……足音救われるぞ……」


「いまさらその状態で何ができるというのだ。もういい、終わりにする。貴様からだ。」


 バアルから発せられた、その声は氷のような冷たさで死の予感が漂っていた。


 ドーン!

 

 振り上げた爪にレーザーが直撃する。だが蓬郷の最後を遅らせる以外に意味がなかった。


「はぁ……はぁ……あんたの相手は私よ!」


 銃を杖にしながらもフラフラの状態の鈴音は挑発する。


 「心配しなくても次だお前だ。だがまず蓬郷流星貴様が先だ!」

 

 全く効かない鈴音の攻撃を無視し、再び蓬郷を視線でとらえたバアルは雷を携えた攻撃繰り出す。

 迫りくる攻撃に最後まで目を見開いて戦う意思は捨てなかった。その中、直撃する寸前で視界の端から黒い何かが入ってくるのを見た。

 

 キィーン!

 

 闇に刺す一筋の光のごとく、突如現れた黒い騎士が攻撃を受け止めた。

 全員が突然の乱入で驚いている中で、たっぷり間をためて一言。

 

「今夜の月は少し明るすぎると思わないか?」


 言い終わるとそのまま優雅に攻撃を受け流す、続けてその流れのままに剣を動かしながらバアルの背後に移動する。


 黒い騎士の纏う、どこまでも深く深淵なオーラに、一瞬で敵と認識したバアルは振り返り、雷撃を纏った爪を振るう。


 黒い騎士は悪魔に背を向けたまま微動だにしない。爪は届かなかった。バアルは間合いを誤ったわけではない。


 何かが地面に落ちる音が聞こえる。

 

 すれ違いざまに滑らかに切り落とされたバアルの腕が地面に転がっていた。そう、避けるまでもなかったのだ。


「貴様どうやった?何者だ!」


(待ってましたその質問!人生で言ってみたいセリフ第1位ここで言わせてもらう)

「我が名はナイト純黒の騎士にして、闇を狩る者。今宵神に代わり審判を下そう」

 

 その場にいた全員の視線がナイトと名乗る黒騎士に注ぎ込まれた。


 指先の神経まで意識したポーズ、タイミングすべが完璧に決まった。

(感じる!今まで人体を美しく見せ方を研究してきてよかった!)


「ナイト……すごい……」

 鈴音は誰にも聞こえないような声で復唱するようにポツリとつぶやいた。

 

「ふざけるな!!!!」


 すぐに腕を再生するして、恐ろしい速さで接近する。そのスピードを保ったまま、再び攻撃を仕掛けるが、ナイトは軽々と最小限の動きで捌く。


「大丈夫ですか?」


 バアルの注意が向いていない今がチャンスだと蓬郷に駆け寄る鈴音。

 

「速い……それにナイト聞いたことがない……どこの組織だ?」


 ナイトと名乗る騎士を頭の中で探るが答えは見つからない。洗練された剣さばきに同じ剣を扱う者として一瞬たりとも、目が離せなかった。

 

「分かりません、でも今のうちにあそこて崩れてる、みゅうちゃん運ぶの手伝ってください」


 未だショックで倒れているみゅうを指さして伝えた。


 少しもあせらずに余裕をもっていなされる攻撃に、先ほどまで自分が蓬郷相手に同じことをしていたことを、させられていることに気が付く。

 このまま続けても、十分な実力差に敗北を確信すると翼を羽ばたかせて、邪魔の入ることがない、人間にとって都合の悪い空中に舞い上がった。

 

「クソ!まさかこんなところで、開放することになるとは……」

 

 バアルが禍々しい力を解放し始めると、まったくもっての想定外である背後から翼の根元から切り裂かれた。

 右翼を失ったバアルはバランスを取ることができなくなり、当然重力に従って落下する。


「ぐわぁぁ!なぜだ!翼をもたぬ人間が!なぜ空を舞える!」


「夜空はすでに我が支配下にある!」

 

 落ちるバアルが見上げながら問うと、満月の中に入るようにしっかりとポジショニング欠かさない、ナイトがマントを片手で払いながら答える。

 地面に大きな音を立てながら墜落し、砂埃が舞う。


「どうやって空を飛んでいるの?」

 

 無事みゅうちゃんを救出し、少し離れたところ、衝撃音を聞いて振り返ると、空中に浮かんでいるナイトの姿を目にする。


「……普通空なんて飛べるはずが……あっ!」


(そうだ、ここは夢境、想像が具現化する世界。あんなに訓練したのにまだ常識から抜け出せてなかった。)

 鈴音は長い現実世界での固定観念の形成で自分が知らず知らずの内に、夢境でもその常識にと縛られて戦っていたことに気が付いた。


 地面に落ちたバアルは追撃を恐れすぐに起き上がり、周囲を警戒し見回すがどこにもナイトの姿は見当たらない。

 まさかと思い空を見上げると未だに空に浮かんでいた。


「いいだろう、真の姿を開放する時間をくれてやろう」


「どこまでも……コケにしやがって!これはあの方から承ってた力後悔しても遅い!」


 バアルを中心にらせんを描く様にしてどす黒い負のオーラが包み込んで膨れ上がっていく。あっという間に膨張していく。

 限界を迎えたその塊は周囲に勢いよく解き放たれ霧散した。その中から姿を現したのは、先ほどよりも鋭くとがり、金属のような光沢を放っている硬そうな爪に、肥大化した羽。元の状態の3倍以上巨大なず疎いをしたバアルだった。


「このみなぎる力、最高の気分だ……。」

 

「そんな……」

「まじかよ……俺の時は全力を引き出せずに終わったのか」

 その場の全員は、まさに魔王といった風格を纏っているバアルを見て感じ、この世の終わりを悟った。ただ1人を除いては……。


「それでこそ、相手に不足はない!」


 声は静かに語るが、内心は、初めての敵のパワーアップイベントに変身のコンボは心を刺激する、ワクワクした感情で溢れかえっていた。場の雰囲気を保つために、必死に感情が声に出ないよう抑えていたが甲冑の下の顔はほころんでいる。

 

「我に出会ったことを後悔させてやろう」


 一瞬の静寂の後、バアルの姿が消えた。正確には早すぎて目で追えなかった。空で金属の衝突音が響いたことで地上にいたものは舞い上がったことに気が付いた。それと同時にあの力が自分に向いていなくて安心した。見上げるが2人の姿はない、鳴り響く音しか戦闘が続いていることを理解するすべがなかった、ただわかるのは美しい満月が夜空に浮かんでいることだけだった。


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