第47話 懐かしい香り
「おっ……俺と、恋愛しないか!?」
思いもしなかった言葉と声量に驚き固まっていると、大ちゃんは何だか恥ずかしそうに私から目を逸らした。
恋愛しないかって何?と、既に私の頭の上に浮かんでいた疑問符がもう一つ増えた。
大ちゃんの言葉がどういう意図で発せられたのか足りない脳みそで考えてみるが、やっぱりよく分からなくて
「なんで大ちゃんと恋愛するの?」
と聞いてみると、大ちゃんは既に真っ赤に染まった顔を更に赤くさせた。
「おまっ……!分かんないのか!?」
何故だか泣きそうな顔で言うから、どういう反応をしていいのか分からない。
“する”って言えばいいのかな。
でも、大ちゃんと恋愛してどうなるの?
私は大ちゃんの彼女になるの?
そもそもなんでそんな話になったの?
考えれば考えるほど頭の上の疑問符が増え、もうこんがらがって「大ちゃんは私のことが好きなの?」と、つい聞いてしまった。
「っ……!!」
私がついしてしまった質問に明らかに動揺している大ちゃんは、口をパクパクとさせながら何かを言おうとしている。
何を言おうとしているのか口の動きを読むため真剣に見つめていると、大ちゃんは吹っ切れたように、
「……そ……そうだよ!!」
と言った。
「すずめのこと、ずっと好きだったんだよ……」
めちゃくちゃ昔から、とまるで白状するかのように項垂れ息を吐いた大ちゃんを見て、さすがの私もこれは冗談では無いと感じた。
突然の告白になんて言っていいか分からず黙っていると、大ちゃんはそんな私を真っ直ぐ見つめ、
「……すずめ、好きだ。ハルさんのことを諦めるなら、俺と付き合ってほしい」
と驚くほど真剣な眼差しで、改めて想いを言葉にした。
大ちゃんのいつになく真剣な言葉に、私はやっぱり何も言えなかった。
仲のいい幼馴染程度の認識しかなかったから。そう本音を口にしたら、きっと大ちゃんは悲しむだろう。
「……返事は今度でいいよ。けど、あんま悩んで溜め込むなよ」
そう私に優しい言葉を掛け、大ちゃんは屋上を去っていった。
そして大ちゃんが立ち去ってから少しして、私は漸く大事なことに気付いた。
「私……大ちゃんに酷いことしてた……?」
私のことを想ってくれていた大ちゃんに恋愛相談をしたり、大ちゃんが私の話を聞こうとしてくれた時に「絶対に叶わない恋なんて経験したことないでしょ」なんて考えてしまったり。
あの時話を聞いてくれた大ちゃんは、一体何を考えていたんだろう。ただ一つだけ確かなのは、大ちゃんはあの時、絶対に叶わない恋をしていたということだ。
気付いてしまうと、過去の自分を責める言葉しか頭に浮かばなくなった。
*
夕陽が沈みかけた帰り道、一人で歩いていると制服のポケットに入れていた携帯が小さく鳴った。
取り出して見てみると、
「今日は自分の家に帰るよ」
というハルからの連絡だった。
思い返してみれば、最近のハルは心が不安定だった私に寄り添いずっと我が家にいてくれた。
私の元気が戻ったから、また一人暮らしの家に帰るのか。
またハルのいない部屋で一人で眠る日々が帰ってくる、そう思うとやっぱり少し寂しかった。
ハルを好きな気持ちは捨て去ったつもりだったのに、すぐには捨て切れないようだ。
大ちゃんのこともあるのに……と私は大きくため息を吐いた。
悩みながら足取り重く歩いていると、
「もしかして、すずめちゃん?」
とすれ違った人に後ろから名前を呼ばれた。
何だかこういう声の掛けられ方が多いな、と思いつつもその人を見ると、その綺麗な顔立ちと優しい雰囲気に見覚えを感じる。
「……はなちゃん?」
顔を見て思い浮かんだ人の名前を言ってみると、その人は暖かな声で「久しぶり、すっかりお姉さんだね」と言って微笑んだ。
「はなちゃん!!」
懐かしいその人に勢いよく抱きつくと、女の人は昔のように優しく私の頭を撫でた。
その手から、大好きなクッキーの匂いがした気がした。
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