第26話 最低な男

 時は流れ、俺は大学生になった。


「ハル、また彼女と別れたんだって?」

 学内のベンチに座り、呆れ顔で言う航太。こいつとは結局志望大学も同じだったため、入学してからもこうして共にいる。

 この男が俺のストーカーという線も捨てきれないが、腐れ縁というやつだろうか。


 華と別れ気持ちを自覚させられてからの俺は、すずへの想いに蓋をして“普通”であるために積極的に恋愛をした。

 だが、もちろん俺が相手を好きになることはなく、結局いつもすずを優先する俺に相手が耐えきれなくなり別れる、というのを繰り返していた。


 そして、もう何人目かも分からない彼女に昨日振られたところだ。


「お前、そろそろ刺されるぞ」

 という航太の忠告には禄に耳も貸さず、この後も女に呼び出されているからきっと付き合うだろう。



 俺の醜い感情はともかく、すずとは相変わらず仲のいい兄妹として過ごせていた。

 小学校の友達と楽しそうに日々を過ごしているすずは、普通の子供に見える。


 すずと大智の関係も未だ続いているようで、母は「このまま結婚しちゃうかも」なんてバカな妄想をしていた。

 大智だけはすずの相手として許さない、と俺は勝手に決めている。



 航太と分かれ、俺を呼び出した女の元へ向かう。


 自分で言うのもなんだが、俺に告白してくる女は後を絶たない。

 今まで別れた女達が、俺が重度のシスコンだという噂を流しているにも関わらずだ。


 全員俺に夢を抱き、見事に砕かれている。


 我ながら最低だとは思うが、こうして妹への不適切な感情を忘れようと俺なりに努力している。

 その努力が報われそうな感じは今のところしないが。


 呼び出されたところへ行くと、

「ハルくん……好き!」

やはり告白だった。


 いつもこうして禄に話したこともない女から告白され、もう随分慣れてしまった。

 大して感情も動かない。


「じゃあ、付き合おうか」

 俺にとって言い慣れた言葉だったが、その言葉に女は酷く喜んだ。


 俺の罪は、こうして日々増えていく。



 その日帰宅すると、すずがいつものように玄関まで走って来て俺を出迎えた。


 そのままの勢いで俺に抱きつき、おかえりと言って嬉しそうに笑うすず。

 何度だって見たいと思う、この笑顔を。


 華によって自覚させられたこの醜い想いは無理やり蓋をして隠してはいるが、やはりどうしてもすずを可愛がりたい気持ちは変わらない。

 妹として可愛がるだけなら許されるだろう、と今も昔と変わらない態度ですずに接しているが、周りからはそれも“異常な程の妹想い”だと思われているみたいだ。


 すずには俺に恋人がいると悟られないよう、常に細心の注意を払っている。

 彼女からの連絡はすずのいる場では極力返さず、家にも呼ばずバイト以外で夜遅く帰ることもしない。


 別にそこまでしなくても子供なすずに悟られることはないかもしれないが、そこまでしてでも絶対にすずに知られたくないんだ。

 俺が最低な人間だということを。


 もちろん、付き合っている彼女はそんな俺に苦言を呈してくる。


      *


「私と妹、どっちが大事なの!?」


 休日、話があると言われ一人で暮らす彼女の家に行くと、涙ながらに問いかけられた。


 またこれだ。いつも付き合って一ヶ月も経てば、女からこういう風に問い詰められる。

 女とちゃんと話すようになってからも、俺の女が苦手な性分は変わってはいない。

 こういうやり取りが面倒で、次第に嘘が上手くなる。


 お前が一番大事だよと伝え唇を重ねれば、女は簡単に俺を信じて目を閉じる。


 嘘で塗り固められた俺の心は、きっと黒く染まっているだろう。



 順調にクズの烙印を押されつつ大学を卒業して、俺は地元の某中小企業に就職し営業職に就いた。

 何故地元の企業に就職したかというと、理由は言わずもがな、すずと少しでも多くの時間を過ごしたいからだ。


 航太とはさすがに就職先まで被ることは無かったが、同じく地元の企業に就職したらしい。

 定期的に連絡が来るが、あまり返していない。


 就職してからも変わらず女と付き合っては別れてを繰り返していると、あっという間に数年が経った。

 そうして俺が汚い人生を送っている間に、



いつの間にかすずは、高校生になっていた。

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