第4話 のぞみん明くんの家に行く~中編~
私の相談に乗ってくれた真美ちゃんは、その日の夕食を作ってくれた。失礼ながらこれが美味しく、いつでもお嫁に行けそうである。
「のぞみんほどじゃないけどね」
などと謙遜していたが、そんなことはないと思う。
食事後飲んだのだが、酔った真美ちゃんのエロのターゲットは当然私で、突然クローゼットとかをあさり始め、この服がいいとか、下着はやっぱり新品を買えとか言い出した。ちょっとひどいので、
「じゃ、どんな下着がいいのよ」
と言ってみたら、
「明日一緒に買いに行こう!」
などと言う。
「真美ちゃんはカサドン用?」
と聞いてみたら、
「もちろん」
と鼻息荒く返事された。
翌日昼休みに自転車に乗って下着を買いに行った。
「スポーツ用とかだけはないからね」
真美ちゃんはそう言う。もしかしてと思って、
「それは自分のことなんじゃない?」
と聞いてみたら、
「その通り!」
と力強く肯定された。
駅の南側まで行って、ちゃんとした専門店で買った。真美ちゃんも私も結構攻めたのを買いそうになったが、ふと我に返り、かわいいのを選んだ。
「ボーイッシュな外見と、かわいい下着のギャップがそそるのう」
飲んでもいないのに、真美ちゃんは私の買った下着をこのように評価した。真美ちゃんもデザインはちがうがやっぱりかわいいのを選んでいたので、自分への評価かもしれない。
昼休みをつぶしているので、昼食は最大手のハンバーガーチェーンに入る。そう言えば北海道に来てから一回も来ていない。
「やっぱ味はおんなじだ」
と言ったら、真美ちゃんに
「当たり前でしょ」
と言われてしまった。
ハンバーガを頬張りながら、真美ちゃんがつぶやいた。
「私、のぞみんにも先をこされちゃうのか~」
「いや、まだどうこうなったわけじゃないし」
「でも勝負どころだと思うんだよね」
「うん、がんばる。それはそうと、カサドンどうなってるの?」
「う~ん、カサドンも気を使ってるっぽくてね、私が就職決めるのを待ってるっぽい」
「そうか、就職、どう?」
「もう一息かな?」
真美ちゃんは鉄鋼系を狙っているのは知っていた。
「のぞみんこそ、どうよ」
「私は、博士行く。そんな頭じゃないことは知ってるけど、明くんと離れたくない」
「のぞみん、大丈夫だよ。それにさ、のぞみんが就職したら、聖女様困るよ」
「ありがと。でもさ、動機が不純かな?
「そんなことないよ。生物の生きる目的は子孫をつくることじゃない。それと仕事が結びつけば最強だよ」
「真美ちゃんやさしいね」」
「そんなことないよ。たださ、あんたたち東京勢見てるとさ、結束強くて羨ましいんだよね」
「排他的にしてるわけじゃないんだけど」
「わかってるよ。私も仲間にしてくれてるし」
「一生仲間だよ」
「うん。でもさ、私超電導じゃないし」
私はちょっと腹がたった。
「真美ちゃん、それは違うよ。専門がちがう仲間が大事なんだよ。専門同じだったら視野が狭くなっちゃう」
「それ、聖女様の影響?」
「もちろん。悪い?」
「悪くない」
日曜日、午後に明くんの家に片付けに行くことになっている日である。近所のスーパーが開くと同時に入店し、パンと野菜を買う。明くんに昼食のサンドイッチを持っていくつもりなのだが、せっかくだから新鮮な食材を使いたいのだ。
パンは食パン、クロワッサン、フランスパンで迷ったが、地下鉄にのって移動するので体積を考え食パンにする。いつもよりいいのを買った。きゅうりやトマトも大ぶりの美味しそうなのを選ぶ。マスタードとかマヨネーズは家にあるのでいいだろう。シナモンパウダーを忘れずに買う。
急いで帰り、サンドイッチを作る。耳を切り、油で揚げる。揚げたパンの耳は、扇風機の風で冷やす。冷やしている間にシャワーを浴びる。いつもより慎重に全身をみがく。
新調した下着を身に着け、髪を乾かす。
パンの耳に砂糖とシナモンパウダーをまぶし、タッパーに詰める。さらにサンドイッチとエプロンを紙袋にいれる。
持って行く荷物にちょっと迷う。いざというときのために、換えの下着とシャツをリュックに入れる。おおげさにならないよう、荷物は小さくしたい。
荷物ができてから、薄くメイクして家を出る。今日はあくまで片付けの手伝いに行くのだから、TシャツにGパンだ。でも、どちらもいつも大学に来ていくのではなく、一番いいのにしている。
真美ちゃんと聖女様、あと優花にSNSで「行ってくる」とだけ送る。
家を出て地下鉄に乗ると、いつの間にか三人から応援のメッセージがとどいていた。思わずスマホを持つ手に力が入る。
地下鉄を降りると、改札には明くんが見えたので声を掛ける。
「やっほー」
「やっほー」
緊張で声が震えてないか気になる。
「のぞみん、荷物持つよ」
「あ、ありがと」
「いやぁ、うれしいなぁ。だけどあまりの汚さに、俺を見捨てないでね」
「あんまりひどかったら、玄関で帰るよ」
「やべぇ、ちょっとは片付けたんだけど、だいじょうぶかなぁ」
「ふふっ」
くだらない会話のおかげで、少しいつものペースにもどれたかな。
スーパーへ行く。
「リクエストある?」
「うーん、魚!」
「了解!」
野菜を買って鮮魚売り場へ行くと、ウニが目に付く。
「ウニ今が季節だってよ」
「ウニ丼つくろうか、酢飯にする? どうする?」
「酢飯、めんどい?」
「大丈夫よ」
「じゃ、酢飯プリーズ」
「あいよ!」
明くんの家は地下鉄の駅からたいして遠くなかった。まあよくあるアパートと言う感じだ。階段を上りながら聞く。
「どうして地下鉄使うことにしたの?」
「俺さ、怠惰な人間だからさ、歩いていける距離だと、ずるずると家出るのが遅くなりそうだし、帰りもずるずると遅くまでやっちゃいそうなんだよね。地下鉄にしとけばさ、ある程度時間を気にすると思ってね」
「ふーん、結構駅から近いのね」
「俺都会っ子だからさ、あんまり長時間雪の中歩くの無理かなってね」
「はは、結局冬どうだった」
「まあ慣れたかな」
「おじゃましまーす」
口は軽く動いているけど、私の心臓はバクバクしていた。だって男子の家に入るのなんて初めてだから。
前に聖女様に、修二くんの家に初めて行ったときのことを聞いてみたことがある。緊張しなかったか、と言う私の問に、緊張よりもその先に待っているものへの期待が勝ったと言っていた。いま自分が似たような状況にあって、聖女様の言っていたことの意味がはじめてわかるような気がする。
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