第46話 泣き下手姉妹の信頼の証
双子姉妹の様子に、
居住まいを正すアイドルたち。
紅愛と白愛は互いに目配せした。そして二人同時に深呼吸をする。
「陽光ちゃん、琳ちゃん、ほのかちゃん。あたし、皆にまだ話せていないことがあるの。聞いて欲しい」
「私と姉様の出生の秘密についてです」
俺は息を呑んだ。
やはり、
「実は、あたしと白愛は隠し子なの。稀代の大女優と謳われた『KOKO.』――本名、涼風
「そして、ここにいる父様――能登勝剛氏は、幼い私たちを引き取りここまで育ててくれた方です。母様の実弟であり、私たちにとっては叔父にあたる人……ですが、私と姉様にとってはこの方こそ父であり、父以上、家族以上の存在なのです」
自らの口で、はっきりと言い切った紅愛と白愛。
俺は内心、ひどく驚いていた。まさか自分たちの口から、出生のことや俺との関係について語るとは思わなかったのだ。
黙っていても、俺の動揺は伝わってしまったらしい。
紅愛と白愛は俺を振り返ると、静かに微笑んだ。少し前までは見たことがなく、最近は時折目にする、あの大人びた笑みだ。
「パパ、びっくりさせてごめんね。でも、どうしても自分たちの口で説明したかったんだ。ArromAの皆、大事な仲間だから」
「実は今日、父様が学校を出られた後、生徒会の皆さんにも話をしたのです。……私たちのことを」
「白愛の言ったとおりだよ。田中君、アズサちゃん、真理佳ちゃん。これまでずっと隠してたことを打ち明けたの。そうしたら、肩の荷が下りた感じがしたんだよね。少し楽になった。田中君たちもすんなり受け入れてくれたし」
そう言うと紅愛はArromAのメンバーを見渡した。
「ArromAの皆なら、生徒会の人たちと同じように受け入れてくれるって思ったんだ。だから……話した」
「そう、だったのか」
「うん。朝仲さんからも促されたしね。『彼らなら話しても構わないんじゃないか』って」
朝仲さんが?
俺が目を見開くと、白愛が言い添える。
「出生の秘密を抱え続けることはよくないと思われたそうです。それによって私たちが過剰なストレスを溜めていると。実際、姉様の言うとおり話すと楽になった気がします。今もそうです」
「そうか……そうだよな」
俺は二人の肩に手を置いた。
「すまなかった、二人とも。俺がもっと気を配るべきことだったよ」
「ううん。気にしないで。あたしにとっては、今はこれくらいでちょうどいい」
「え?」
「何でもない。ね、白愛?」
双子の妹に同意を求める姉。白愛は神妙に頷いた。
「あたしはArromAの皆に知って欲しかった。そして、次のステップに進む勇気が欲しかった」
「出生の秘密は私たちにとって苦痛。でもそれを乗り越える段階に来ているのです。今日、それを理解しました。過去を乗り越え、父様をかけがえのない人と思う。改めてそう決意したのです」
「紅愛……白愛……」
俺は呟き、自らの至らなさを恥じた。
子どもたちは立派に前に進もうとしている。
だったら、これまで以上に俺がしっかりしないでどうするというのか。
もうすぐ双子姉妹の誕生日。18歳で成人となる日。俺にとっても特別な意味を持ちそうだ。
ふと、ArromAメンバーからの視線を感じた。
彼女らは無言で俺の方を見つめている。真剣な表情だ。ただ、その内心は推し量れない。期待のようにも見えるし、懇願のようにも見えるし、どこか批難しているようにも見える。
俺は『父親』として、ArromAメンバーからの視線を正面から受け止めた。
結局、それ以上何かを詰問されることはなかった。
陽光が大げさにため息をつきながら双子に言う。
「あーあ。いいのかしらねえ。ウチらは確かに仲間だけどライバルだしぃ? そんな相手にそんなスキャンダル話しちゃっていいのかなあ?」
「うん。ArromAの皆は信頼できると思ってるから。あたしも、白愛も」
「……そんな真顔で言わないでよ。調子狂うじゃない……」
「じゃあ言い方を変えるね。バラしたら折檻だよ陽光ちゃん」
「姉様の言うとおり、半裸に剥いて土下座させますからね。桜庭さん?」
「何で信頼の言葉が罵倒になるのさ!? まあいいけど」
「そこはかとなく期待してるのキモいっす陽光先輩」
「なっ!? ウチはバラしたりしないわよ!?」
「こ……これは要監視対象ですぅ……」
場の空気が和む。陽光へのイジリは、彼女らなりの信頼と親愛の証なのだろう。
どうやら、生徒会やArromAに出生のことを打ち明けるようにアドバイスしたのは、朝仲さんのようだ。
俺は千波さんとの会話を思い出す。カイトの件について、彼は連携すると言っていた。朝仲さんやイルミネイト・プロダクションに、すでに話をつけたのかもしれない。
(この機会に、紅愛と白愛の味方を少しでも増やしておくということか。その点、ArromAや生徒会のメンバーは良い人選だ。あんなに楽しそうにしているんだから)
俺は微笑みながらキッチンに戻った。洗い物に取りかかる。周囲の助けを得ていく双子に、少しだけ寂しさを覚えた。
「あ、そうだ紅愛! あんた、この前のラインはどういうこと? ちゃんと解決したんでしょうね?」
「この前――ああ、うん。ごめん心配かけて。実はまだ……」
「紅愛先輩と白愛先輩、怪しい男に声をかけられたんですよね。ヤバくないっすか?」
「……せ、先輩たち、あの頃からちょっと不安そうだったです……。心配です……」
聞こえてきた会話に、俺は手を止める。
怪しい男との接触。もしかして、二人が公園で怯えていた日のことか。
「――よーし、わかったわ。こうなったら、ウチらで調べてやろうじゃない。その怪しい男って奴をね!」
「ちょっと待ちなさい」
思わず俺は声をかけていた。
「今、事務所も動いてくれている。君たちは危ないことをしないように」
「……そんなに危ないの?」
「もちろんだ。……陽光ちゃん。もしかして今ちょっと期待した?」
「……。んーん」
「危ないことをしないように! くれぐれも! いいね!?」
念押しする。危なっかしいたらない。
すると、ArromAメンバーの中で一番冷静な琳がポンと両手を叩いた。
「つーことで、私らは私らのできることをしましょう。紅愛先輩、白愛先輩」
「なあに?」
「勝負下着、買いに行くっす」
琳の一言に、双子姉妹だけでなく俺まで「?」顔になった。
【46話あとがき】
ArromAを信頼できる人たちと見込んで、出生の秘密を打ち明ける双子姉妹――というお話。
気の置けない仲間っていいですよね?
勝負下着を買いに行く店って、もしかして……?
それは次のエピソードで。
陽光さん、よくこれまでアイドルを無事に続けられたな……と思って頂けたら(頂けなくても)……
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