似た者同士~sideリリアナ~
正直、驚いていた。
お母様ならこの人の提案に直ぐに賛同すると思っていたのに時間が欲しいと言って部屋を出て行ってしまった。
「大丈夫かな? お母様の顔色が良くなかったわ……。」
何かこの男がお母様の気に病むような事を言っていなかったか思い返していると、薄情だねと聞き捨てならない声がしたので振り返る。
「薄情ですって?! 私がお母様の心配をしているのが見て分からないの?! 」
思わずギロリと睨んで大声で叫んでしまったけど、そんな事は気にもしていないのか話を続けた。
「違うよ、俺が言っているのは君が師匠と慕っていたヨハンの事だ。君が幼い頃から今までヨハンの世話になっていたのは知っていたから君からの非難は甘んじて受け入れる予定だったんだけど。」
「魔法を教えてくれた事には感謝してるわ。でも、師匠自身の事は別に興味なんて無いもの。」
そう、感謝はしている。お母様を守る力を教えてくれたのは紛れもない事実だし、居なくなることに関しては一言くらいは何か私に言い残してくれたらとは思ったけど。
「あの人、私を通してお母様を見てたから。私を見てくれない人に心を砕くのって無意味だと思わない? 」
それはお母様も感じていたからこそ私の反応に対して何も言わなかったんだと思う。
そう言うとうげぇと言って信じられないと言う顔をしていた。
「君にアシュリーを見るくらい好きだって思っていたのに行動に移さなかったの? 10年間も時間があったのに? 」
「それを『誠実』だとはき違えていたんでしょう。」
彼が言うように行動に移せば未来は変わって師匠を『お父様』と呼んだかも知れないが、過ぎた事だし時間が経てば状況に変化が起きると思い込んでいた人を私は父としては慕えなかったとは思う。
(その分この人の行動性は好感が持てるわ)
何かあったらお母様を助けるのは私ではなくこの人なんだろうなとは前から感じてはいたけど、最近はお母様もそれを感じ取っているからかこの人に対しての扱い方が変わってきている気がする。
(そんな事、私の口からは絶対に言わないけどね)
それよりもこの人の提案に対して思っていたことを告げた。
「お母様には賛成の意見を言ったけど、お母様以外の人を思って香水なんて作れないわ。どうするつもりなの? 」
私がこの人と似て他人に興味を持ちづらいことなんて分かり切っている事を再確認するように言えばそんなことしなくて良いと言った。
「君は俺に似ているからアシュリーの為なら流行だって調べるだろうし何時だって最高のものを送りたいって思っている筈だ。君の最高作を更新していけば後はアシュリーが社交界で流行を作ってくれるさ。」
少なくともこの事業は赤字にはならないと思うよと言ったこの人に改めて聞きたかった事を聞いてみた。
「そこまで分かっているのに何であんなことしたの? 」
此処まで分かるのなら今までの彼の行動は王族や貴族の言いなりになっていることなんて分かり切っていた筈なのにどうしてこんな愚行に走ったのか甚だ疑問だった。そんな事を思っていると聞きたいことを理解したのかうっそりと微笑んだ。
「これが魔法伯爵位を貰う手っ取り早い方法だったんだよ。いくら魔獣を倒しても褒美は貰えても貴族にはなれなかった。だから方法を変えて利用価値があると見せつけたって言えば賢い君なら分かるよね? 」
(お母様はこの男を正しく認識していないわ)
以前、離れで暮らしていた時にお母様はあの人の態度が悲しくはないのか聞いたことがある。その時に言った『あの人はお母様の事は興味がないから』という言葉が間違っていたとは思わない……思わないけど……。
(最初からお母様を手に入れる準備をしていたってことじゃない……)
それが無意識なのが余計に質が悪い。この人は遅かれ早かれこの状況にもっていきたいほどにお母様の事を追い求めていたことになる。
「改めて私はお父様似なのだと思い知って嫌になったわ。」
あの屋敷で二人で話した私の秘密。その為にこの人を利用したけど、当の本人は私が壊したいと願っていたものを利用していた。
「本当に俺らは似たもの親子だよね。」
そう言ってにっこりと笑うこの人に貴方とよりマシだと心の中で毒づくのだった。
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